都合のいい神に仕立て上げられた生贄の少女 その5
近況報告にもお伝えしましたが勤務時間の変更で投稿ペースが変化してます
第95話 都合のいい神に仕立て上げられた生贄の少女 その5
からからから
馬車の音。
開かれた門。
そして――。
玉座に座っている獣の王は、距離があるのにその門の音に反応する。
「――我が君」
近くに控えていた側近が声を掛ける。
「――好きにさせておけ」
相手にしなくてもいい。
「――はっ!」
入ってくる。近付いてくる。
「――陛下」
玉座の間の扉が大きく開かれる。
そこの現れたのは少女。
「遅くなりました」
どこか媚びるような仕草。
近付いて、いつもの様に玉座の――王に触れられる距離までやってくる。
「――くだらないな」
不快だ。
「えっ!?」
動揺を押し隠そうとする仕草。
「あの子から聞いたのか?」
ああ、不愉快だ。
「あっ、あの子って?」
誰ですか。と白々しい。
「――誰の差し金だ?」
この小娘一人の考えではないだろう。
「――答えろ」
眼差し一つで相手を殺せるような空気を纏っていた。
王は温厚。
その異名は《慈悲深き獣の王》
だが、いくら慈悲深くとも尾を踏んだのだ。
その時点で、慈悲は無い。
「あ、あ、あ!!」
空気が薄くなる。呼吸がままならない。
…………たまたま思いついた事ではなかった。
生贄になりたくないので押し付けた。
贅沢な日々が送れると思っていた。
だけど、
変化が現れたのは偶然。
奴隷の少女があまりにも自分の娘と似過ぎていたので密かに調べさせていたご令嬢の父親は、その奴隷の娘が、自分の娘。しかも、双子は災いだと古い思考の持ち主だった妻の実家が密かに里子に出していたのを子であった事を着き止めた。
………着き止めてしまった。
知らなければ平穏だった。
知ってしまうと自分のした事の罪の意識に囚われる。
どちらが姉で妹か。それは些細な事。
どのような経緯で奴隷になったか不明だが、身分が違うのに似ていたという事が二人の娘の道を歪ませた。
まだ、親だからこそ子供は利用するという考えを持っていれば楽だったのだろう。
生贄を差し出した家は、今まで生贄になった者を育てた事の褒美なのか詫びなのか、莫大な資産を得る事になる――過去。その資産を固辞した者も居たが――。
その資産は当然奴隷として養っていたその家にももたらされたが、それがますます男を苦しめる。
家族を愛する小心者であったが故に親として愛情を注げなかった事を責め、心労で倒れた。
血の分けた姉妹だと知らされ、父親の愛情が生贄にされた娘に向けられた。
憎かった。
姉妹なのに奴隷になった事。
父の愛を奪った事。
それから偶然が幾つか重なり生活が苦しくなったのは全て、全て――。
『その娘が悪いのですよ』
『生贄は生きてるみたいです。貴方より幸福で、好きな事をして』
囁く声は誰だったか。
「なら、奪ってしまえばいい…」
そして、うまくいくと思ったのだ。
――思っていたのだ。
「匂いや魂の輝きが違うのに騙されると思っているのか」
獣の王は子供だましだと言う様に吐き捨てた。
激おこ獣の王




