都合のいい神に仕立て上げられた生贄の少女 その4
少女はどうしていたかと言うと…
第94話 都合のいい神に仕立て上げられた生贄の少女 その4
季節の花。
その場所でしか咲かない花。
たくさんの花を摘んでいた。
………本当は、お城で育ててみたかったけど。お城で育てても玉座に座っている王には咲いてるところを見せられないし、植木鉢を玉座に置く事は景観を損ねると怒られた。
「王様。喜んでくれるかな」
笑ってくれるといい。
喜ぶ姿を見たい。
そんな事を考えながら摘んでいると、
「お嬢様?」
声がした。
どこかにお嬢様が居るのだろうかと視線を動かしたが自分の見える範囲ではいない。
空耳だろうか。
「お嬢様!!」
今度は近くで聞こえた。
「何聞こえない振りをしているのですか!? 戻りますよ」
腕を取られる。
どうやら人違いされているようだ。
「あの…私はお嬢様とは違いますけど…」
お嬢様なんて上品に呼ばれるものではない。
「何をおっしゃってるんですか?」
少し苛立ったような声。お嬢様と呼びつつも敬意を感じない声。
そして……、どこかで見た事があるような姿……。
『あの、我儘娘が、お前に雇われているのではなくお前の父親に雇われているのに事ある事に首をチラつかせて』
何かあるとそう言って、鞭で叩いてきた。
「従者…」
さああと青褪める。
忘れていた。
正確には甘やかしてもらって忘れさせてもらっていた。
奴隷として暮らしていた日々――。
「んっ? お嬢様と顔立ちが違うな」
ようやく別人だと気付いて首を傾げる。
そして、
「お前。あの奴隷か…」
へえ~。綺麗になって。あのお嬢よりも大事にされているんじゃないか。
独り言をべらべら言っていると、
「まあ、いいか。要はお嬢が戻れば体裁が付くし」
似た外見だ。相手も喜ぶだろう。
……言っている意味が分からない。
反論しようにも抵抗しようにも恐怖が体の動きを奪っていく。
引き摺られ体裁だけ装った馬車―ーと後に獣の王が吐き捨てる――に乗せられて、かつて自分が閉じ込められた屋敷に連れて行かれるが、
「……?」
こんなに貧相だっただろうか。
強硬な檻。
その一角で屋敷に出た事無かったのであまり記憶にないが、
(寂れている?)
…………獣の王の城が綺麗だったのでそれと比べている事実もあったが、寂れているのも事実。
「嫌よ!!」
抵抗する声。暴れる音。
「嫌よ!! 何でわたくしが商人ごときの愛人にならなくてはいけないの!!」
「お嬢は別の奴が見付けていたのか」
残念。
従者が呟き、開放しても良かったが今更開放するのも面倒だと判断したのか少女を連れたまま屋敷に入る。
「従者!! 丁度良かったわ。早く助けなさい!!」
叫んで従者を呼ぶその目が少女に向けられる。
「貴方………」
似ている顔立ち。
かつては少女の方が痩せてがりがりだったが、獣の王の可愛がりによって肉付きも良くなり、服などの装飾品も自覚こそない画質のいい物を身につけている。
対して、お嬢様――御令嬢は少し前の流行りの服に身を包み、性格の悪さが表に出て、綺麗な顔立ちが損なわれている。
手入れされていた肌も最近手入れが甘いのか以前のような輝きは無い。
ご令嬢は気付いた。かつては自分に似ているのが不快だった醜い娘が今度は自分より恵まれた環境に居る事を。
今までの生活から離れたくないから生贄と言う立場を嫌がったのは自分。
だけど、すぐに父が亡くなり、父の治めていた領地を人任せにして、贅沢を続けてきた事で苦言を言う者を辞めさせ、気が付くと家が立ち行かないほど貧しくなっていた。
商人の愛人になれば家を立て直せるが、冗談じゃない。
商人と言うのも許せないが、愛人などと馬鹿にしている。
それに――。
「いい身分ね」
質のいい装飾品。
肉付きが良くなり、その内面が表に現れた事で綺麗な顔立ち。
「生贄に無理やりなって贅沢三昧なのね」
「?」
無理やりなった?
少女は何を言っているのか理解できない。でも、ご令嬢のこの顔は覚えてる。
………………酷い目に合わされる時必ずこの顔をしていた。
くすっ
ご令嬢は笑う。
「わたくしに拾われたのだからそろそろ恩を返してもらうわよ」
恩など無いと抵抗するがもう遅い。少女は再び檻に囚われてしまった。
彼女の受難は続く




