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復讐は神に所属する  作者: 葛霧
始動期編
17/26

彼らの仕事1



メリッサ一行は旅の途中にいくらかのトラブルに巻き込まれつつも、なんとか予定通りにランジェスト王国領内に入ることができた。

1か月を迎えるより前に目的地に着けることは喜ばしいことなのかもしれないが、それにしてもこの一行、全員揃いに揃って疲労困憊である。


詳細は省くが、最初の難所であるゼネ砂漠ではここ数十年は見かけたことのない食人鬼の群れに遭遇し、国境では神の使いとも言われる白いピリカという名の鳥にストーカーされ無駄に人の注目を浴び、ラル湖のあるセレ地方にあるテト神殿の周辺で誰とも知れない神官に追い回され、ようやくラル湖に着いたと思えば例年以上の快晴による干ばつが発生し、さらに雨量の低下に伴い大型の獣を含む野獣が人里へ流れることによって治安が悪化するなど、なぜこうも立て続けに事件が起こるのかと嘆くほどに何かしらあった。

とはいっても概ねメリッサが解決させてきたので、一部ストーカー以外はものの1時間程度で何とかなってしまったのだが、割愛させてもらう。

ただ一つだけ明確に言えることがあるとすれば、メリッサはこの6人の神殿騎士から一介の巫女としては異常なまでの力を見せたことに警戒されるとともに、ある種の好意を向けられたということぐらいだろう。好意についてはクーベルトより第二の剣を神の手によってもがれたくなければ下手なことはするなと聞いていたので疾しいことなどしていないが。


メリッサにとって良い意味でストレスは移動による負荷以外を感じることはなかった。やたら人から見られるということの理由は未だによくわからないのだが、クーベルトから推薦された神殿騎士ロリスから馬車の外に出るときは頭までローブをかぶった方がよいと進められてからはそれもいくらか減った。とはいえ、いくらローブでその身を隠したとしても、メリッサから常時放たれている怖ろしいぐらいに澄んだ神力はどうしても人目を引いてしまうのだが、それは仕方がないということにした。諦める以外ないというのが事実だが。




「メリッサ殿。まもなく目的地に到着します」


メリッサに声をかけたロリスは御者台で器用に馬を操っている。2頭の馬によって走る馬車は御者台に面した部位に細長い窓が設けられている。そこからロリスは時折メリッサの様子を確認している。メリッサはすっかり慣れた馬車の旅ではあるのだが、相変わらず外を眺める顔は人形のようで人間味を感じない。たまたま馬車の車内を見た者がいるとすればこの馬車は人形を運んでいると勘違いするのではないかというぐらいに。

ロリスから声を掛けられたメリッサは視線を車窓から御者へ向けて、小さく頷いた。

僅かな動きではあるが、メリッサが離したり動くと人形ではなかったとほっとしてしまう。


短くも長い旅の中で遭遇した事件に対してメリッサが講じた力については驚愕するばかりで、それについては少女という年齢に対して大きな力を持つメリッサに敬意を抱くのは神職者としては当然のことであった。神力の強さは仕える神からの寵愛の度合いを指し示す一つの物差しである。神殿に、ついては神のために剣を持つ彼らは神の寵愛を受ける加護もちや祝福をうけた信者を守るのは騎士にとって誇りである。

ではあるのだが、実に失礼な話ではあるのだが、力強さに反比例するようにそれを扱うメリッサという人となりが今一解らないというのが同行した神殿騎士の一致した感想だった。必要な時以外は話さず動かず、表情も無表情以外は顔合わせの時に少し困惑した様子を見せたぐらいで、喜怒哀楽のいずれもこの1か月を通して誰一人として見たことがないのだ。非常に高価な神力で動く人形だと言われても納得してしまえそうだとロリスですら思う。

そのような不可解なメリッサについて思うところがないわけではないが、ロリスは神殿騎士であり、クーベルトが目をかけるほど有能で尚且つ信心深い男である。教皇であるクーベルトが直々にメリッサを守るように命令を受けた以上、護衛を遂行するのみだと意識は切り替えている。


「目的地のトフェトまであと1刻もあれば着きます。森の特性上、あまり窓は開けないほうがよいでしょう」

「確か、木の名前はイグでした?」


まともに返事があったことにロリスは少しばかり驚きながら、鈴の音のようなメリッサの声に機嫌をよくして肯定した。


「ご存知でしたか、あまり知られていないのですが。念のための話になりますが、決してイグに触れてはいけませんよ。どんな形であれイグと関わってよいことはありませんから」

「しかし、魔獣と接触を図る以上、道以外にも森には散策のため入らなければならないはずです。防護用の手袋などは用意してあるのでしょう?」


トフェトの森に入る以上は、現地で食料を始めあらゆる生活必需品を調達することはできないため、大目に食料品や各備品は用意してきている。それを除いて、どうしても森に入らないといけない以上は、それ相応の装備が必要であることぐらいはメリッサも推察できた。


「いえ、この森の役割として、基本的にそのようなものの持ち込みは好まれません。儀式のための森ですから。餌を撒いて魔獣が出てくることを待つことになります」


そんな答えが返ってくるとは思ってもみなかったけれど。


「…どういうことですか?」

「トフェトの森は神々へ供物を捧げるために存在する土地だと言われています。今回調査対象となっている魔獣ですが、学者が言うには神へ供物を運ぶ役割を担う神獣が変異したものではないかと仮定しています。問題が発覚してからさほど立っていない今なら変質したとはいえ、神獣としての本能と役割はまだ続いているのではないかということみたいです」


さすがのメリッサもそこまで言われれば、自分が何を求められているのかはわかった。

いつしか速度を増した馬車は飛び降りれば自殺行為になる程度の速さになっている。

ロリスは困ったような申し訳なさを前面に押し出した声でメリッサに告げた。


「高名な学者の仮定と現地住民の話を聞いて、同行の神殿騎士と話し合った結果決めたことでして…。申し訳ありませんが、メリッサ殿には生贄の役を務めてもらうことになりました」


でも何があってもメリッサ殿は守って見せますから!

そう言い切るロリスと御者台の隣に座る同僚らしき神殿騎士は力強く頷いてみせた。

誠実さを感じるような態度と口調ではあるが、何の根拠もないそれにメリッサはイグのかけらでも口にしたわけではないのに酷い頭痛がした。


メリッサはクーベルトの人の見る目のなさをここ一番で感じることとなった。





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