表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2014年/短編まとめ

生かせたい少女

作者: 文崎 美生

生きるも死ぬも、本人の自由だと思っていた。


自殺をする人は自らその道を選んだのだから、他者がとやかく口を出すものではない。


ましてや死んだのなら尚更。


だから誰が死んでも生きてても、私には関係ないと思っていた。


あの子に会うまでは。


黒い髪と瞳に白い肌が人形みたいだと思った。


まるで生きている心地のしない彼女はいつも死のうとしていて、死ねない運命をたどっている。


死にたいと思えば思うほど死ねないのか、彼女の自殺は常に失敗に終わるのだ。


かくいう私も彼女の自殺を阻止して来た。


川に身を落とそうとした時、その手で自らを傷つけようとした時、首を括ろうとした時も。


何度も邪魔をしてきた。


彼女を生かせたい一心でしてきたことだ。


勿論、私が手を出さなくても失敗に終わる事の方が多いだろうが。


それでも、何が何でも彼女を生かすために手を伸ばした。


私が彼女を生かしたいと思ったのは初めて、彼女の自殺に立ち会った時だろう。


あれは学校の屋上で飛び降りをしようとしていた時だ。


同じクラスの容姿が整った子、としか認識していなかった彼女がフェンスに手をかけて下を見ていた。


何してるんだろうなぁ、なんて考えながら彼女の背中を見ているとフェンスを跨ごうとしたのだ。


ウチの学校は屋上の出入り自体は自由だったが、フェンスの一部が低くて古い。


フェンスの高さは二メートル以上のところから、一メートルくらいのところまで。


しかも簡単に跨げる一メートルくらいのフェンスが古びているから、教師陣も注意を呼びかけていた。


そして彼女が跨いだフェンスは、まさにその注意を呼びかけられているフェンスで今にも壊れそうなイメージだ。


ビル風で彼女の髪がスカートが強くたなびく。


長い髪の間から見えた彼女の表情は、何とも言えない機嫌のよさそうな楽しそうなものだった。


そんな場所にいて!とい思うが彼女のしたいことはなんとなくわかってしまう。


だからこそ、尚更わからない。


何で笑っているのかが。


ふらりと自然な形で体を前へと倒そうとする彼女、それを見た私の足は強く地面を蹴っていた。


落ちそうになる彼女の腕を引っ掴み、自分の方へと引き寄せる。


勿論私たちの間にはあの古いフェンスがあるわけで、彼女の体はフェンスに当たり衝撃に耐えきれなかったフェンスが、高く鈍い音を立てて壊れた。


壊れたフェンスと彼女が私の体に伸し掛る。


「痛いし、重い……」


小さく呟いた言葉に反応したように、彼女はのそのそと私の体の上に乗ったまま起き上がる。


先程の笑顔はない。


ただただ無表情で機械のようだ。


私を見下ろしながら彼女はポツリと一言「また、死ねなかった」と言った。


流石にその言葉は予想していなかった私は、目を見開いて口を開けたまま彼女を見上げた。


彼女はまた、と言ったのだ。


それは何度もこういったことをして失敗を意味する。


何で彼女はこんなことをしているのだろうかとか彼女を見上げながら思った。


生きるも死ぬもその人の自由だと思っていたのに、何故か疑問を思って聴きたくなったのだ。


意外にも彼女はすんなりと教えてくれたのだけれど。


生きるも死ぬも選べるのは、生きている人間の特権だと。


だから自分は誰かに死を選ばれる前に、死ぬのだと。


成程、と思った。


だってそれもまた人の考えであり意見であり、間違いでもないと思ったから。


それと同時に彼女は生きるべきだと思った。


生きた心地のしない着飾られた人形のような彼女が、この生を持った人の集まる世界に生きているのが何故か、とても素晴らしく美しいことだと感じたのだ。


多分、ファンタジーな脳みそをしていたんだと思う。


それから始まった私と彼女の追いかけっこ。


死にたいのに死ねない彼女は、ありとあらるゆ手段を使って死のうとする。


そして生も死も自由だと思っていた私は、彼女の生だけにこだわり生かそうとした。


今日もまた彼女を追いかけて生を掴ませる。


電車のホームに落ちそうになった女子高生がいると聞いて、直ぐに彼女を思い浮かべた。


携帯を握り締めて彼女を探した。


電話にさえ出てくれればと思っていたら、意外なことに出てくれて気だるそうな声が聞こえたのだ。


死ねなかったからだろう。


「このバカ!!!今どこにいるの、何してるの!!」


声を張り上げて電話の向こうにいる彼女に怒鳴りつけた。


携帯を握り締めて怒鳴りながら走る私は、周りから見たらちょっと引くと思う。


それから面倒くさそうに彼女が駅前の交差にいると言う。


駅前の交差って……この辺じゃないか、と思い直ぐに彼女を探そうとした。


走りながら視線をあちこちへ走らせると、彼女はいた。


軽トラ目掛けて体を投げ込もうとしている。


急げ、急げ急げ急げ急げ急げ。


彼女の名前を叫びながら私は駆け出す。


手を伸ばして笑顔を浮かべた彼女の死を邪魔する。


クラクションが鳴り響いて、私は体を強く地面に打ち付けていて、生きていた。


体を起こして直ぐに彼女を怒鳴る。


汗も凄いし呼吸も苦しいのに私は彼女を怒鳴りつけたのだ。


なのに彼女はいつも通りの無表情で自殺、と答える。


あぁ、何て質の悪い女なのか。


私は頭を抱える。


そして彼女はいつもと同じ言葉を繰り返す。


「あぁ、また、死ねなかった」


絶対に死なせない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ