つまり、ライバル
「会いたかっただけ!?
おま、え、なにいってんだよっ」
声は振るえ、口調は当然荒かった。
無理もない。
いま、自分は女じゃなかった。
男としている。
なのに、こいつは・・目の前にいるおれに、なんていった!?
動揺しまくった心で眼を見開いて、彼を凝視していた。
「お前より弱いまま、なんてのは癪に障るからな。
お前が常にどういうことをしてそう強くなったのかを
分析しようと思っただけだ」
ばつが悪そうな表情でそう彼は答えた。
「!?だから、待ち伏せてたのか!」
思わず声のトーンが上がった。
だからあれほどいろいろと聞いてきたんだな!!
と、驚きと納得が交じり合う。
「まぁ、そういうことになる。」
少し遠慮した表情で
だから一緒に行きたい・・みたいな視線がおれを貫いた。
「っ」
なぜか罪悪感と焦燥が頭の中を独占する。
や、やめろ、そんなめでみるなーーっ
おれがお前より強いからって、
私がキサラギより強いからって、
なんでストーカーまがいなことされなきゃいけないんだ。
「!・・キ、キサラギのやりたいことはわかったっ
でも、おれだって、一人でいたいときだってあるんだ。
だから、じゃあな!」
ダダッ
おれはすぐに地を蹴って彼を切り抜けてギルドに突っ走った。
逃げよう、あんなの付き合ってられない。
「あ!おいっレイ!!待てっっ」
すぐに彼が走ってきた。
「!いやだねっ」
追いつかれそうになって冷や汗をかきながらも、
全力疾走で道を駆け抜ける。
ダダダダダダダダダダダダダダッダダダダッ
ヒュヒュッっと風を感じながら、無我夢中で足を動かした。
広い道に人はいない。
ものすごい早い速さで走る二人の姿を、怪訝に思う人はだれもいなかった。
***
しばし、30分ほど走って。
「はぁーーっはあ・・っ」
ゼーハーゼーハー と、完全に息を切らせてギルドについた。
目の前には大きな門と、大きな屋敷のような建築物がそびえている。
それがギルドだった。
ちょうど門のからギルドに向かって歩く人影がこちらを振り向く。
「!レイじゃないか。
今日ははやいな。いつもより30分もはやいぞ」
ふと見慣れた男が門まで戻ってくる。
「フミッ・・ヅキーー」
彼の名を呼ぶことすら、かなりキツかった。
そう、フミヅキだった。
動きやすい服装で荷物である小さい袋を片手で担いでる。
「どうした?朝っぱらから息切れして」
肩で荒く呼吸をしているのが目に付いたのか、
不思議そうに自分を見てくる。
「それ、はーーー」
門によさりかかりながら、呼吸を整えつつ、事情を話そうと口を開いたとき、
「それは、俺のせいだな」
少し息を切らしているが、
涼しい顔でそう言ってのける相手がやや後ろにいた。
どうやら今、到着したらしい。
「っーー・・」
まさか、もうくるなんてーー・・。
自分は全力で走った。
追いつかれはしないと思っていた。
そこまでの自負はあったのだ。
だが、声を聞いて青ざめる。
「・・領主の息子か」
フミヅキはそいつを見て、
おれに話しかけるときより遥かに低い声でつぶやいた。
機嫌が悪そうだ。
「そう呼ばれるのはあまり好きじゃなくてな。
キサラギ と、そう呼んでくれればいい。
そっちの名はたしかーー」
対するキサラギも眉間に皺をよせて、
そう思い出そうとするかのように言った。
「フミヅキ。フミヅキ・レタームーン。
ギルドの一人だ」
不機嫌なまま、彼は無愛想に答える。
「そうか、お前があの一家の・・」
「ーーー。」
キサラギのつぶやきに、フミヅキがさらに不機嫌になるのを隣で感じた。
キサラギに対する苛立ちやなにか憎しみのような感情がまがまがしく向けられる。
「」
フミヅキはいつもそうだった。
地位の高いヤツをみるとなおさら機嫌が悪くなる。
そして地位の話になるとそれが悪化する。
「--で、お前のせいとはどういうことだ」
「ああ、それは俺のせいだ。
この前、そいつに負けたからな。
家の前で待ち伏せたらちょうど通りかかったから
追いかけた」
「・・・」
キサラギの言葉にふとおれに視線が向けられた。
無言のその圧力と視線になぜか罪悪感を感じる。
「フ、フミヅキ、おれ、全力で走ったんだからなっ
なのにこいつがしつこくおいかけてきたんだっ!」
なんだか訂正したくなって言い訳がましく訴える。
「・・・」
その言葉に一度フミヅキは考えをめぐらせて、キサラギに向き直った。
「お前、レイを困らせるな」
「!」
ぼそっと、つぶやくように、静かに言った。
それはキサラギに釘をさすかのようなものいいで。
「フミヅキ・・・!」
フミヅキが味方になってくれた!!
パァッと顔を輝かせてフミヅキをみあげる。
「こんな奴でも相棒であり仲間だ。
それにこいつは仲間を作りたがらない。
俺も賛同だが訳が違う。これ以上、俺たちに近づくな」
フミヅはかなり率直にキサラギを拒絶した。
だがそれ以上に、
仲間を作りたがらない という言葉にドキっとした。
フミヅキは・・、見抜いていたんだ。
それでもなお、そばにいようとしてくれる・・味方になってくれる。
これがどんなに自分をうれしくさせ、同様に、心の足枷となるか
彼にはわからないだろう。
「!ずいぶんストレートだな。
ーーだったら、認めさせる、俺を、お前たちに」
「え?」
「!!」
おれも、フミヅキも目を見張った。
少し傷ついたかに見えたキサラギの目に強い意志が燃え滾るのをみて、
足がすくむ。
「仲間がいらないのは、それに値しないからだろう?
お前たちは今、仲間だ。お互い信じるに値したんだろ?
心を赦しあえたんだろう?なら、俺も混ぜてほしい。
だから、認めさせる。レイ、お前にな!」
「ええ!?」
「」
「フミヅキがお前の信用に値する仲間になれたんだ。
俺にだってなれる。レイ、お前に勝ってみせるし、
これから是が非でも追いかけて届いてやる」
「今日からライバルだ、フミヅキ」
「・・のぞむところだ。
お前にレイの信頼は得られない」
「そんなのやってみなくちゃわからないだろ?」
フッっと、不敵に笑って彼は高らかにライバル宣言した。