あっさりした買い物のはずが
約束までの一時間。
それはすぐにすぎさった。
「じゃあ、おじさん、ムツキさん、
おれ、そろそろいくよ」
「あぁ、気をつけて行ってきな」
「帰ってきたら、ジュースおごってあげるよ」
おじさんとムツキさんはにっこりと笑って見送りをしてくれる。
「わかった!帰ってきたら、また顔出すね」
俺は席を立って、
階段間近までくると手を振り、すぐに駆け上がった。
おごりかぁー、あのムツキさんがしてくれるなんて。
買い出しはフミヅキがたぶんなんかおごってくれるし、
今日はついてるなぁー~。
外に通じる階段を上がって、周囲を見回した。
すると宿の入り口付近にフミヅキがいるのを見つける。
剣は腰ざしだが、重りなど訓練用のをはずしたラフな格好をしていた。
しかしバンダナはされたまま。
「フミヅキー、待った?」
走りよっておれは彼を見上げる。
「いや、そんなに待ってないかな。
今来たところだ。レイはあっちから来たとなるとーー」
「バーで時間つぶしてた。」
「そうか、そうだよな。こっちこそ待たせたな。
じゃあ、行くか」
ふーと、フミヅキはため息をついてバーの階段を一瞥し、言った。
「おう!おごるの忘れんなよ」
そう言って文月を小突く。
「そう心配すんなって。まずはマジックショップな」
そうして二人は歩き始めた。
隣に並んでフミヅキがおれを誘導しながら繁華街を歩く。
がやがや、わいわい・がやがやがや・・・
露店が多く連なる繁華街にやってきた。
その奥に普通の店が並ぶ十字路に出る。
そこへ二人は向かい歩いた。
その途中、フミヅキは依頼について話始める。
「今回、お前にペアを頼んだのは
他でもない、レイが、最上級の魔法が使用できるからなんだ。」
「へぇー、よくおれが使えるのをご存知で」
おれは、十年間幽閉されていた。
その中で、体に幾十にも魔術構成の呪印が刻み込まれてきた。
いわゆる魔術実験体だった。
そのおかげで魔法を覚えるのに苦労したことは一度もない。
体がすんなり受け入れてしまうからだ。
魔法には最下級から最上級までいくつかランクがあって、
最上級が人間が最も使える高度な技と呼ばれている。
おれは剣だけでなく魔法も使える魔法剣士だった。
「まぁな。レイとの付き合いも長いし、何回か修羅場で使ってるだろ。
ーーで、今回はS級の魔物討伐が依頼で、その本質は泉の浄化だ」
魔物にもランクがあって、Sは上から二番目のかなり強い魔物だ。
一対一はフミヅキでも普通に倒せるとおれはふんでるけど・・--
「んーとさ、そのランクの魔物、複数でもいるの?」
「あぁ。だから、頼んだ。
そいつらは珍しく群れらしくてな。ボスはS級以上だと俺は検討をつけてる」
「なるほど、じゃあフミヅキだけじゃキツイな。
おれ一人でもキツイだろうなー。」
できれば危ない橋は渡りたくないと、二人は思っていた。
「あぁ。二人なら、やりがいがあるだろ?」
おれを見下ろしてひそかに笑うフミヅキ。
フミヅキはおれのこと、よくわかってる。
「やりがいがあるほうが楽しいしね」
おれも笑い返した。
あまりに強くなると、依頼やるのもつまらないというものである。
二人ともよくいる戦闘バカだということだった。
「ま、そういうことだから、買い出しってわけだ。
マジックショップでまずは魔力補充と魔力強化、他にも
俺たちが専門じゃない類のものはそろえるべきだろ?」
「同感。お金はかなり使いそうだけど、
今回の報酬高いんでしょ?」
「あぁ。なにせ領主じきじきの依頼だからな」
「ほんと!?そりゃあ、山分けしてもぼろ儲けじゃん」
「当たり前だ。額が半端ないぞ」
「やったね、じゃあ、出し惜しみなく金を使っちゃうか」
「そうこなくっちゃな」
そうして、二人の買い物がはじまった。
***
まず、マジックショップに入る。
店の中は、魔術がらみの品物が多く、棚やテーブルにずらっと並んでいた。
「これ、ほしいんじゃない?」
「あぁ、あと、これも必要だ」
「んーと、あれも。」
「あぁ、あとリングもな。」
「あ、あれね、あの魔術を出し入れできるヤツ!」
「そうそう。意外と必需品だよな。」
「S級大勢だろ?だったらこのぐらいはね」
「あぁ。使い捨てにならなくてすむしな」
「そうだフミヅキ、剣に魔術かけるだろ?それには札が・・」
「そういや忘れてた、それも買うか」
しばらくあれもこれもと買いこんで所持金の大半を使い果たす。
荷物入れのリュックにありったけの魔術品をつめこみ、
背負って再び、歩き始める。
***
「依頼の日、いつだっけ?」
「いくまで一日かかるから明後日出発かな」
「了解」
「あと、服だな。
露店の繁華街に戻るか」
フミヅキがそうつぶやき、きびすを返した。
「そうだね」
おれもうなずき、歩き始める。
「適当に動きやすいやつ、買わないか?」
「あぁ、いいよ。おれ、服にこだわりはないし」
そう二人で話し込んでたときだった。
人が多くこみはじめた中、
ガツッ
肩にほかの人の肩が当たった。
自分にあたった人が、ぐらっと傾く。
「っ、-」
その人が、地面に倒れこむ前に、
「あ、大丈夫?」
さっと、抱きとめてやった。
「っあ、すみません、ありがとうござーーーって、レミィちゃん!?」
その人が顔を上げながら謝るーー、して その顔は見覚えがあった。
「え!?、リュシカ??」
おれは思わず、本名を叫んだその子の名前を呼んだ。
緑の長い髪がわきまであるロングの女の子だった。
緑の大きな瞳は、極限にまで見開かれている。
「リュシカ、なんで・・」
そう、本名はレミィ。
時々、本来の女の格好をして町に出かける。
そのときに知り合った女の子が、この子だった。
「それは顔と声でわかるよっ、でも、今日はーー」
「?なんだ、レイ。知り合い、か?」
リュシカの声がフミヅキにさえぎられた。
フミヅキがおれを振り返り、立ち止まってたずねる。
ま、ずい! 怪しまれる。
彼女をしっかり立たせ、そっと耳打ちした。
「--わけあって私は今男のふりしてるんだ。
事情があるから“おれ”に話をあわせてほしい。
名前はとりあえずもう呼ばないで」
「う、うん」
おれは二人に、
「!あ、-うん、そう。
フミヅキ、紹介するよ、おれの女友達っていうのかな、
リュシカっていうんだよ。
リュシカ、こっちはフミヅキ。おれの頼りになる仲間かな」
そう紹介した。
慎重に、けれど、困った調子で紹介する。
「・・俺はフミヅキだ」
「あ、私、リュシカです。よ、よろしくお願いします」
二人の間に妙な気まずい雰囲気がかもし出された。
フミヅキの声はおれと話すときより低くて固いし、
リュシカの声は、私と話すときより緊張しておびえてる。
や、やばいよっっ、この雰囲気!
どうしよう、なんとかしておれがーーー
「リュシカーー、大丈夫?」
強気な高いソプラノ声が聞こえた。
おれたちのほうに近寄る女の子が一人きた。
「!」
やばい、また知り合いだーーー
「あ!もしかしてーーレミィじゃないの!!
リュシカはレミィとぶつかったのね!
あら?レミィの隣の方はーー?」
「あ、ライラ!また会えたね!!
ちょうど、紹介してたんだよ、リュシカにも。」
おれはライラの元に駆け寄り、抱きしめる振りをして
耳打ちした。
「ーーわけあって私は今、男のふりをしてる。
事情はまた時間のあるときにするから、今は
私が男のように接して、話をあわせてほしいーー
とりあえず、名前は呼ばないで」
「え、ええ、ーーわかったわ」
「フミヅキ、こっちはライラ。
ライラも女友達なんだよ。
ライラ、紹介するね。こっちはフミヅキ。
おれの仲間なんだっ」
なんとか明るい調子で言った。
とんだ修羅場だ なんて思いつつ。
「あたしはライラっていいますの」
「俺はフミヅキだ」
バチッ
なんか再びお堅い雰囲気が作られた。
しかも、なんか、双方の視線が強く絡み合ってる。
こわ、い。なんか、こわいぞ、これ
「レイ、まだ買い物すんでないよな、
挨拶はこれくらいにして・・」
おれにフミヅキが話しかける。
フミヅキは、女が苦手だ。
不機嫌そうに早く離れたいと言外に言われる。
「あ、そうだね。
じゃあ、二人とも、またねーー」
そう言って、ほっと息をつき、去ろうとすると
「え、買い物?
何か買われるんですか?」
という、リュシカの声と
「買い物なら一緒にしましょうよ!
別にいいでしょう?」
ライラの声が、おれたちを引きとめた。
「え、ええ!?でもさっ」
あわてて、どうしよう、やばい、これ以上会話を増やすと
いつかばれてー・・・
ちらっと、フミヅキを見ると
「ーーー」
不機嫌そうなまなざしを俺に向けてきた。
なにか疑っているような眼だ。
やばい。二人にはレミィと呼ばれてるんだ。
はやく誤魔化さないと・・
「なにを、買いにいくんですか?」
再び、そこで聞かれた。
「え、あ、それは、動きやすい服を・・」
反射的にどもりながら答えると、
「」
「」
二人は顔を見合わせて、ひそかに笑い、
「じゃあ、ご一緒しましょう。
どうせ、適当に選ぶつもりなんでしょう?」
「わたしっ、男の方の服でも
付き合います!」
ライラとリュシカがおれを立てつづけにそう攻めた。
「え、あ、でもさ・・」
「別にいいですよね?フミヅキさん。
この人はいっつも適当だし」
強気な態度でライラはフミヅキに問いかけた。
え、ちょっと、まってよ、ライラ!
フミヅキはーーー・・・!!
睦月は一月でーす。
ご愛読に感謝感激。
これからが修羅場のはじまりはじまり~