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ようこそ、夢の牢獄へ  作者: 看守長と囚人たち
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Chapter1-飛葛 藍良:運命の輪

明け烏さんによる投稿です。

ナルコレプシー。日中、場所を選ばず突如として強烈な眠気に襲われる脳疾患(睡眠障害)である。


ナルコレプシーは主に体内のオレキシンと呼ばれる神経伝達物質が欠乏することにより発症する病気で、この病気では入眠時に眠りが浅く、悪夢を見やすい傾向がある。


回復した患者の様子や、状況を鑑みるに、20XX年頃から急速に広がりをみせた奇妙な眠り病は、このナルコレプシーではないかと唱えるものもいるようだが、それではこの異常ともいえる感染率に説明がつかず、医師の中には、オレキシン遺伝子になんらかの異常を与える未知のウィルスでも存在しているのではないかと唱えるものも少なくない。


オレキシン投与により、患者の容態は一時的に回復するも、再び眠りの世界に囚われてしまい……その場しのぎにしかならず、新薬の研究も芳しくない。


しかし私は、眠りから回復した一部の患者の、あの異様な錯乱状態や、奇怪な行動……何かに怯えるような表情を見る限り、この病はナルコレプシーなどではなく、医学では説明のつかない何かがあるのではないかと考えずにはいられない……。



20××年 ◎月◆日


新たに収容した患者の中に、今までと違う症状を見せる患者を発見した……少女の名は、飛葛(とびかずら) 藍良(あいら)……。


この興味深い症状を見せる彼女を観察することにより、この原因不明の病の謎をを解明する手がかりに出来ればと私は考えている。




chapter1-飛葛 藍良:運命の輪




目が覚めると、そこは牢獄だった……。


しかし……錆の浮いた鉄格子に、壁一面赤銅色のレンガが隙間なく積み上げられただけの簡素な造り……薄暗い松明の灯りが照らし出すこの光景には、全くといっていいほど現実感が感じられない。


そんな中に、私は制服姿のまま横たわっていた。


「……なぁんだ、夢か」


どうやら、私はまだ夢を見ているみたいだ。


恐る恐る鉄格子に触れてみると、ギギ……と、軋んだ音を立てながら呆気なく扉は開いてゆく……鍵はかかってなかったようなので、そのまま廊下へと進み出ながら、私は辺りの様子を伺うことにした。


心許ない松明の灯火の中、携帯電話を明かりの足しにしながらゆっくりと自分の足音だけを聞き静寂の中を進んでゆく。


道のりは入り組んだ迷路のような状態になっていて、周囲の景色はほとんど変わることがなく、煉瓦作りの壁がひたすらに続き、ときおり錆び付いた鉄格子の牢屋が定期的に配置されている。まるで罪人を逃すまいとする牢獄のようだ。


そうしていると、突然どこからか叫び声が聞こえてくる。


ほどなくして、叫び声の主とおぼしき40代半ばくらいの猫背の男の人が必死の形相でこちらの方へと逃げて来るのが目に入った。


しかし、そのすぐ後ろには全身が鋼で覆われている、西洋の全身鎧姿の騎士が迫っており、騎士は背後から男の首を掴むと軽々と持ち上げ、もう片方の手に持っていた両刃の直剣で男を背中から一気に差し貫く。

男が口から大量の血を吐く姿を見てしまい、思わず顔を背ける。が、その後に信じられない現象が起こる。彼の身体は徐々に光の粒子となって消え去ってしまった。


鈍い灯りに照らされて動く鎧に薄暗い牢獄といった現実味のないこの状況に思考が追い付かず、棒立ちになっていると、数メートル程先にいる鎧騎士がゆっくりとこっちに近づいてくる。


はたして今ここで起こっていることは、本当に夢なんだろうか? いまいち現実味がなく奇妙な場所だけれど、私の中の何かが危険だと警鐘を鳴らしている。

私はすぐさま踵を返すと、元来た道を戻るように走り出し、自分の倒れていた牢屋の一つ手前にあった牢屋の扉を開けると、ほとんど滑り込むようにして駆け込んだ。


間一髪、鎧騎士の攻撃は鉄格子をかすめながら仄かに火花を散らす。


牢の中にまで入って来られたらアウトだったが、不思議とそれはない気がした。


鎧騎士は煉瓦の石畳に重厚な金属音を響かせながら来た道をそのまま引き返していった。


安心してため息を一つ……改めて正面に顔を向けると、煉瓦で覆われている壁の一部に、明らかにこの場には不釣り合いな物……テレビのモニターのようなものが埋め込まれている。


それを見つめていると、まるでこちらに気付いたようにそこから文字が浮かび上がって来た。


〔貴方達はこの夢の牢獄『夢之塔』(ゆめのとう)に囚われた哀れな囚人です〕


「夢之塔……?」


〔このまま死ぬまで閉じ込められるのも自由ですし、脱出するのも自由です〕


〔ただし逃げる際には番像(ばんぞう)にご注意を〕


番像? さっきの鎧騎士のことだろうか? たしかにあの鎧……もとい番像は恐ろしい。でも、私の中ではそれ以上にこんな奇妙で恐ろしい状況に置かれたことに対して期待と好奇心が渦巻いていた。


私は心のどこかでこんな日常を破壊してくれるものを求めていたのかもしれない。未だ目を覚まさない友達や両親、妹のことも気がかりだったが、自分の中に沸き立つ衝動を抑えることが出来そうにない。


私は運試しの意味も込めて、ブレザーのポケットからタロットカードを取り出すと、その中から無造作に一枚引いてみる。


すると車輪の絵とローマ数字のⅩ(10)のナンバーがふられたカードが現れる。[運命の輪]の正位置だ。意味は、幸運・転機・向上そして……定められた運命。


「面白いじゃない。どんな運命なのか見せてもらおうじゃないの!」


私は自分の拳を手のひらに勢い良く叩きつけると、誰にともなくそう言っていた。

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