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ようこそ、夢の牢獄へ  作者: 看守長と囚人たち
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Chapter1-榊原真:ゾウが来る

管理人こと、水音ラルによる投稿です。

 近年、謎の昏睡事件が多発し、その被害者は約1000人を超えると言う。

 昏睡状態に陥った者は、それから一週間も経たない内に衰弱死してしまう。

 中には一週間以内に目が覚め、一命を取り留める者が居るものの、その者は奇異な行動を取ったり、何度も昏睡状態に至る事があり、最終的にはこちらも衰弱死してしまう。

 この原因は何かのウイルスによるものではないかとされているものの、詳しい原因は突き止められていない。

 そしてそんな昏睡状態の入院患者がいるという市内の病院に取材をしに来たジャーナリスト、榊原さかきばらまことは、院内の受付カウンターに膝を着いて目の前の看護婦に迫っていた。


「いやだからね、ちょっとで良いんですよ! この病院に入院している患者の様子を見ておきたいんですって!」

「そうおっしゃられましても、昏睡状態に陥る原因が分からない以上、面会は極力控えて頂かなくてはならない決まりになっておりまして……」

「決まりは壊すためにある!」


 受付のマニュアル通りの対応に、真はドヤ顔で握り拳を作りながらなんとも滅茶苦茶な自論を持ち出し、これには流石の看護婦も困ったように苦笑いすることしかできない。


「コラ! 真!」

「イッテ!?」


 その様子を後ろから眺めていた女性が、怒鳴りながら真の頭頂部へと拳骨をかまし、そのあまりの痛さに頭を押さえて悶絶させた。


「な、何するんすか先輩!?」

「やかましいっ! 強引な取材はするなと言っただろうが!」


腰まで届く長い髪をポニーテールにしてまとめた女性、新垣あらがき妙子たえこは、真の勤め先「報道X」の先輩であり、今はその異性を引き寄せそうな美貌を怒りの色に染めて真を怒鳴り散らしている。

 彼女とは一つしか年が変わらないものの、やはり仕事では彼女の方が断然格上。妙子にはいつも頭が上がらない。


「ご迷惑をおかけしました。ほら真、行くわよ!」

「イデデデデ! み、耳引っ張んなって!」


 妙子は受付に謝ると真の耳を掴み、そのまま引き摺るようにして真を連れて病院の外へと出て行った。






「先輩、耳引き千切れたらどうするんすか。死ぬほど痛かったんすよ」

「別にこのくらいじゃあ人間の身体の一部は欠損しないし、今いるのは病院よ? すぐに手当てすればくっ付けてもらえるんじゃない?」

「お、おっそろしいこと言うなぁアンタ……」

「何か言った?」

「いえ、何も……」


 市内病院の駐車場に停めてある妙子の自家用車に乗り込んだ真と妙子は、軽い論争を繰り広げるも、最後には妙子に睨みを効かされて押し黙ってしまった。


「はぁ……それにしても困ったわね。これで昏睡患者が入院している病院は全部か……」


 妙子は呟きながら、自分のバッグに入れていたファイルを取り出して開き、内容が決して変わる事のないプリントを見て嘆息した。

 ファイルの中には、昏睡患者が入院している病院の名前が記載されており、今いる市内病院を除く施設には、すべてボールペンでチェックが入れられている。

 チェックの入った施設は、全部真と妙子の二人が訪問した場所であり、そのどれもが面会拒否としてことごとく追い返されているのだ。

 原因はどれも「未知のウイルスによるものだから感染を防ぎたい」と言ったものだ。

 昏睡病に陥ってなお、未だに完全には昏睡状態に陥っていない者に話を着けようにも、そのすべてが取材拒否。門前払いを喰らってしまうのである。


「世間ではウイルスが原因だとか言ってるけど、私は何か別の理由でもあるんじゃないかって思うのよ」

「どうしてそう思うんすか?」

「ジャーナリストの勘よ」

「勘っすか……」


 真は妙子の断言に、呆れればいいのかそれともジャーナリストの端くれとして尊敬すればいいのか分からずに前髪を掻き上げていると、フロントガラスの向こうに見える病院の入り口で、何やら医者や先程の受け付けの看護婦が会話し、そのまま慌ただしく駆け出したのを目にした。

 何か起こったのだろうか? そう思いながらチラリと妙子の方を見れば、彼女はファイルを睨みながらうんうん唸っているばかりで、今の出来事を目にしていないようだった。


「……先輩、俺もう一度行ってみます!」

「あっ、ちょっと待ちなさい! 真!」


 妙子の返事も待たずに、すぐさま助手席から降りて病院へと向かう真に叱り付けるような怒声を浴びせようとする妙子。

 対する真は全く聞こえた素振りも見せることなく、再び病院の中へと入って行く。


「待って下さい! 仙代せんだいさん!」

「うわあぁぁぁぁぁっ!」

「ん?」


 院内へ入った途端、真の耳に罵声の嵐が聞こえてきた。

 聞こえてきたそちらへ目をやると、こちらへ走って来る痩せ細った壮年の男性と、それを追い掛ける医者と看護婦の姿があった。

 壮年の男性は質素な患者服を身に着けており、腕や脚は今にも折れそうなほどに痩せこけ、顔も目の周りや頬が完全にくぼんでいる。

暗がりで見ればミイラに見えなくもないその男は、何かに怯えているような眼で真の両肩にしがみ付いた。


「うおっ!?」

「た、助けて……もう、あそこには戻りたくない……」


 ホラー染みた顔が真の目の前に迫ってきたために思わず仰け反るも、男は構う事なく真にブツブツと囁く。


「ゾ、ゾウが……ゾウが来る……!」

「ゾウ……?」


 男の言葉に何か引っ掛かりを覚えた真が反芻すると、そこで男に異変が起き始めた。


「うっ!? あ、がぁぁ……!」

「お、おい! どうしたんだ!?」


 突然苦しげに胸を押さえたかと思うと、その後身体をエビ反りに曲げて白目を剥きだし、口からは泡を吹いて卒倒してしまった。

 しばらくの間ビクンビクンと痙攣を起こしていたが、やがて緩やかに収まっていき動かなくなってしまった。

 そこへ男を追い掛けていた医者達が追い着いてすぐさま脈を測るも、医者は首を横に振って脈がない事を無言で伝えた。


「先生、これってひょっとして……」

「ああ、これも昏睡病の末期症状の一種だ。まったく、一体どうなってるんだ……」


 看護婦の次の句を察した医者が、何が起こったのかを端的に答えた後、未だに原因不明の死因に一人毒吐いた。

 やはり病院側でもどういった原因で発症し、どう対処すればいいのか分からないようである。

 しかし、今の真にはそれ以上に引っ掛かる点があった。


(「ゾウが来る」って、どういう事だ?)


 この発狂したかのように死亡した男が呟いていた謎の発言……。単なる妄言によるものなのだろうが、真にはあの鬼気迫る顔で迫ってきたため、どうにもそうは思えなかった。






「あぁ~やっぱり分っかんねぇなぁ~。ゾウって一体どういう事だよ」


 その日の夜、真はゾウとは一体何の事だったのか、自宅のベッドに横になりながら思案していた。

 あの後妙子もやってきて、医者に何が起こったのか聞いてみたところ、やはりあの男も昏睡病の患者の一人だと言う事だけが分かった。

 妙子には男が漏らしていたゾウの事は言っていない。大した情報にもならないだろうし、言ったところで聞き流されるのがオチだろうと結論付けたからだ。

 ゾウと言えば動物の象の事を思い起こさせるが、それが迫って来るとは一体どういう事なのか。ゾウに追われる夢でも見て、それと現実の区別が着かなくなってしまったせいでそのような妄言を吐いたと言ってしまえばそれまでだが、どうにも腑に落ちない。

 妙子が言った通り、これもジャーナリストの勘と言うものなのかと思考を巡らせている内に、何時の間にやら睡魔が襲ってきて真は完全に床に着いてしまった。






 真は背中に固く、冷たい感触を感じ、うっすらと目を開いた。

 最初はベッドから転げ落ちて、絨毯も敷かれていないフローリングにでも転がってしまったのかと思っていたが、いくらなんでもこんなにゴツゴツとした感触はしていない。

 そんな真の視界に入ったのは、松明によって照らし出された薄暗い空間だった。

 壁はレンガを積み上げられただけの簡単な造りになっており、床は無骨な石畳が敷き詰められている。

 そして空間の一か所には鉄格子がはめられ、その奥にはこれまたこの部屋と同じ造りの壁で出来た、トンネルほどの大きさの通路があり、現在の位置を示すためなのか、通路側の壁には「38-E」と書かれた緑色のプレートが取り付けてあった。

 そして、反対側を見やれば壁に寄り掛かって虚ろな目でぼんやりとしている中年の男の姿と、自分と同じように辺りをキョロキョロと見まわしているパジャマを着た高校生くらいの少し小柄な少年という、異様な組み合わせの二人組が居た。


「何処だ……ここ?」

「あそこのモニターを見てみな」


 誰にでもなく真が呟くと、中年の男が一か所の壁を指差した。

 その声に従って真と少年が壁を見ると、そこにはこの空間には実に不釣り合いな大型テレビほどの大きさのあるモニターが張り付いていた。

 その画面は鈍い反射を返すだけの闇が広がっているだけであったが、すぐに変化が起き始める。


「あ、画面がついた」


 少年が溢した言葉通り、モニターに電源が入って画面が白一色に染め上げられる。

 続いて真っ白な画面の左上に黒い小さな縦線がある事に気付き、そこに文字列が現れる。


[ようこそ、夢の牢獄へ]


 モニターにその一文が小さく表示され、真と少年の顔を訝しげなものへと変える。


「何ですか、これって?」

「良いから黙って見てな」


 少年が中年の男に振り返り訊ねるも、男は再びモニターを見るよう促す。

 それに合わせてモニターにまた新たな文が表記された。


[貴方達はこの夢の牢獄「夢之塔ゆめのとう」に囚われた哀れな囚人です]


「夢之塔……?」


 真がこの場所を示すであろう名前を口にすると、またもモニターに文が表れる。


[このまま死ぬまで閉じ込められるのも自由ですし、ここから逃げ出すのも自由です。ただし、逃げる際には番像ばんぞうにご注意を]


 その文字が出て間もなくすると、プツリと電源が落ち、再び鈍い反射を返すだけの真っ黒な画面へと戻ってしまった。


「……今のは、何だったんです?」

「看守長さ」


 少年の問い掛けに、男は皮肉げに笑みを溢しながら口を開いた。


「ここは看守長が作った遊び場さ。俺達が像から逃げるのに必死になっているのを見て楽しんでるのさ」

「像?」


 真は像と言う言葉を聞いて、今日あった出来事を思い出した。

 あの狂死した患者は、「ゾウが来る」と言っていた。最初は動物の方の象かと思っていたが、今の男の発言とモニターに表記された文により、それは覆された。

 もし彼の言っていたゾウが像の事であれば、もしや今自分は……。

 そんな推測に入っていると、少年が像について中年の男に詳しく聴き始めた。


「あの、さっきモニターに出てた番像って何ですか?」

「ああ、それは……」

『ぎゃあぁぁぁぁぁッ!』


 少年の質問に男が答えようとした時、通路の奥からけたたましい断末魔が響いた。

 その悲鳴には二人とも驚いて肩がビクリと持ち上がり、揃って鉄格子の向かい側の通路を覗き込んだ。


「なんだ、今の悲鳴!?」

「……ほぉら来た」


 男のニヒルで、それでいて諦めきったような声と同時に、通路の奥から青ジャージを着込んだ男が走ってきた。

 その走り方は非常に出鱈目で、如何にパニックに陥っているかが見て取れる。

 そして彼の後ろからは、ゴツンゴツンと言った、固い物を何度も地面に規則正しく叩き付けているような音がいくつも聞こえてくる。

 その音は徐々に大きくなっていき、やがて自分達の前に姿を現した。


「よ、鎧……?」


 少年の呟きが真の耳に入るが、真は目の前の異常な光景に目を奪われていた。

 鎧は一見すれば西洋製の甲冑ではあるが、よく見てみれば丹念に研磨された艶のある石で出来た石像であった。

 しかし、石像であるにも関わらず、その動きはまるで映画のCGのように非常に滑らかに動いている。

 しかもその数は一体だけではなく四体。どれも規則正しく床石を踏みしめながら青ジャージの男に迫っていた。


「ゼハァッ、ゼハァ……ぐぁっ!」


 やがて青ジャージの男が足をもつれさせてベシャリと床石に転倒し、今まで石像との一定の距離を保っていた均衡が大きく崩れ、みるみる内に距離を詰め始める。


「く、来るな……来ないでくれ……ッ!」


 青ジャージの男が必死に命乞いをするも、石像達は一切気にも留めることなく近づいて行き、取り囲む。


「……ッ! オイお前! これ以上見るな!」

「え……ッ!? ウワッ!?」


 この後どのような光景が広がるかを察した真が、少年に声を掛けてこちらに注意を惹きつけ、少年の目を手で覆い隠す。

 やがて真の予想通り、石像達はその手に持った本物と思しき西洋剣を振り上げ、青ジャージの男に一斉に振り下ろした。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 男の断末魔と肉を引き裂く生々しい音が通路に響き渡った。

 剣を振り降ろした後も石像達は、男の悲鳴が止むまで剣を振り上げ、振り下ろすの屈伸運動を何度も何度も繰り返した。やがて青ジャージの男の原型はなくなり、完全な血と肉の塊になってしまった。


「……ッ!」


 この奇怪でグロテクスなシーンを見せられ、吐き気を催されていた真をよそに、肉塊へと変貌してしまったのを確認した石像達は、そのまま何事もなかったかのように再び規則的な足音を鳴らしながら、こちらに視線を配る事もなくこの場から離れて行った。


「アレが番像さ。牢屋から逃げた囚人たちを挽肉にしようとしてくる動く石像だ」


 背後から中年の男の声が聞こえてきたが、真は通路に残された肉塊から目を離せなかった。

 通路に放置された肉塊からは、引き千切られた内臓と外界に曝された筋肉繊維から血が滲み出て床を赤黒く染めていたが、しばらくすると変化が訪れた。

 肉塊から黒い煙のようなものが漏れ出し、その質量を徐々に減らし始めたのだ。

 みるみる内に肉塊は小さくなっていき、やがて床を汚していた赤黒い液体ごと、その姿を完全に消滅させてしまった。


「き、消えた……?」

「ちょ、どうしたんですか!? 僕にも見せて下さいよ!」


 真がその現実離れした光景を見てしまっている間に、少年が真の手を退かして通路を見た。しかし、すでにそこには石像も肉塊の姿もなく、質素な通路が松明によって照らし出されているだけだった。


「さっきの人は、どうなったんですか?」

「……オイオッサン、マジでここって何処なんだよ」


 少年の質問を無視して中年の男に訝しげな眼差しを向けると、彼はまたもニヒルに笑い、壁にもたれかかったまま天井を仰ぎ、口を開いた。


「へっ、さっきも言っただろうが。ここは看守長の遊び場だってな」

「その看守長ってのは、一体何者だ?」

「……それは俺も知らねぇ。ただ、ここを管理してるって噂は聞いた事がある」


 間髪入れずに続けて質問すると、男は声を濁して有力とは言えない情報だけを提示した。この牢屋の住人と言えども、すべてを知っている訳ではないようである。


「そいつはこの塔の最上階にいるらしいが……まぁ行った奴が居るかなんて俺は知らねぇけどな」

「じゃあ、僕から別の質問をいいですか? ここってもしかして、夢の中……だったりします?」


 これ以上看守長の正体を聞いても大した情報を得られないと感じたのか、少年が全く違う質問をした。

 しかし、この質問は真自身も気になっていた。つい先ほどまで、自分は家でグッスリと眠っていた筈なのだ。

 だのに今はこんな薄暗い牢獄の中に幽閉されてしまい、あまつさえ動く石像が人をミンチに変えているなんて、夢としか思えない。

 それに少年の格好。どこからどう見ても寝間着にしか見えない全身グレーの服を身に着けている。明らかに今まで寝ていたとしか言えない風貌である。

 かくいう自分も、半袖Tシャツとハーフパンツという超ラフな寝る時の服装のままなのだ。拉致されてここに閉じ込められたとしても、こんな牢獄が日本にある訳がない。

 そして、そんなパジャマ少年の質問を聞いた男は、今までとは少し違った、僅かに喜色を灯した笑みを浮かべてこう答えた。


「……ほぉ、お前中々察しが良いじゃねぇか。そうさ、ここは夢の中さ。ただし、悪夢の中の悪夢だがな」


 そこまで言って言葉を区切り、口を舌で湿らせて再び二人に言い放つ。


「夢は夢でも、ここで死ねば本当に死ぬ。しかもここに長居し続ければ……いや、これは別に気にするほどでもねぇか。とにかくここを出たけりゃまず階段を探せ。そこを通れば夢から覚める」

「オイ、今何言おうとしたんだ? ここに長居し続けるとどうなるんだよ?」


 男の発言の中に、一つ気になるものが含まれてはいたが、真がいくら聞き出しても男は口をはぐらかせるばかりで何も教えようとはしなかった。少なくとも言えないような事であるのだけは、真も少年も察しが着いた。


「と、とにかく、階段を探せばここから出られるんですね。でも、この牢屋からどうやって出れば……」

「心配すんな。ここの牢屋は鍵は掛かっちゃいねぇ。何時でも好きな時に出られるようになってる」

「あ、本当だ。開いてる……」


 男の言う通り、牢屋の扉には鍵が掛かっておらず、少年が扉を軽く押すと、金属がこすり合わせるギィィ……という音と共に扉が開いた。


「アンタは、ここから逃げなくてもいいのか? いやまぁ、確かにあんなのがうろついてるってんだったら、ここにいた方が安全なのは分かるけど……」


 少年の悩みも杞憂きゆうに終わり、後はここから逃げるだけとなったが、この男はこのままここにいるつもりなのだろうか?

 この場所を詳しく知っているであろう人物と一緒に行動すれば、それだけ脱出の成功率も上がるので

あろうが、男は苦虫を噛み潰したような顔をしてズボンの裾を上げた。

 見れば男の両足は紫色に腫れ上がっており、見るからに痛々しい。恐らくは骨折でもしているのであろう。


「奴等から逃げる時に思いっきり踏み潰されちまってな。何とかここまで逃げおおせたもののこの様さ。俺はもうここから一歩も歩く事が出来ねぇよ」


 そう皮肉気に話す男は、もはや何もかも諦めた様子である。このまま彼だけ置いていくというのも癪ではあるが、恐らくずっとここにいるのは不味い。真の勘がそう言ってきた。


「……そうか。オイ小僧、行くぞ」

「なっ!? 小僧じゃないです! 朝日あさひつむぐです!」


 真が少年に声を掛けると、少年もとい紡はいきどおりながら名前を名乗る。

 しかし真はそんな事など完全に受け流し、左右に広がる通路を窺う。今のところ、さっきの石像達も何処かへ行ってしまったようだし、逃げ出すなら今しかないだろう。


「今のうちに行くか……。あ、そうだオッサン、一応あんたの名前を聞いといても良いか?」


 外へ出ようとしたところで、真は中年の男の名前を念のために聞いておく。

 もし真の予想通りならば、彼は夢の住人であれど現実にいる人間の筈だ。目が覚めた時に彼を調べてみるのも手だろう。


「あ? 松井まついみつるだが……」

「サンキュ、俺は榊原真だ。また会うつもりだからそれまで生きてろよ」


 男から名前を聞き出した真は、それだけ言い返して牢屋の外へと出た。


「急ぐぞ小僧。あんまり居過ぎるとやばいかもしれねぇ」

「だから小僧じゃないですって! ああもう嫌な夢だなぁッ!」


 紡はまだ単なる夢だと思い込んでいるようであったが、真には昼の出来事も相まって分かっている。分かってしまっていた。

 自分達は今、世間を騒がせている謎の感染病、昏睡病に罹ってしまっているのだと……。

初めましての方は初めまして。そうでない方は御無沙汰しております。管理人こと看守長こと水音ラルです。


この度は私の企画した大掛かりな読者参加型リレー小説「ようこそ、夢の牢獄へ」へのご参加、及びご一読して下さいまして、誠にありがとうございます。


この作品は、ルール説明でも記載しました通り、参加者の皆様と一緒に夢之塔から脱出する事を目的としたスリル満点のゲーム感覚小説です。


こんな大掛かりな作品を創ろうと思ったきっかけとしては、某サイトで「クトゥルフ神話TRPG」にハマってしまったのが原因でありまして、プレイしようにも周りにやろうとする人がいないうえに、ルールブックも高くて買えないというジレンマに侵された結果でありますww


さて次回は、ルール上は囚人リストの上から順番となりますのでEXAM先生からとなりますが、諸事情で執筆できないとの事で、その次のライトオアダーク先生に書いて頂きます。


私の話と繋げて頂いても構いませんし、独自に別のルートを辿って頂いても構いません。


また、余裕があるようでしたらこちらの後書きへ意気込みを一つ、お願い致しますw


以上、水音ラルの後書きでした!

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