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第九話「討伐作戦 『悪鬼』の本気」

 ユキトイキの【千里眼】配信により、討伐隊と『悪鬼』の戦いは作戦本部に、そして全国に流れている。

 冒険者のダンジョン配信は今となっては立派なエンタメの一つだが……今回は少しばかりよろしくない流れかもしれない。


 地上で塩辛のつまみを頂きつつ、僕はもう随分長く膠着しているその戦いを見つめていた。



──これは負けるな



 それが僕の読みだ。

 負けるのは『悪鬼』ではなく討伐隊のほう。

 今現在、残りの位階指定Bの冒険者も合流し、位階指定A一人とBが八人という戦力で『悪鬼』一人を打倒せんとしていた。


 だがそこまで戦力が揃っても戦況は変わらず、膠着のままだ。


 何故なのか?

 簡単な話だ、『悪鬼』がそうなるよう力を調整している。

 『千鎖』と『風神』だけのときからずっと、『悪鬼』は討伐隊との戦いで遊びをしているんだ。

 だからこの戦いは負ける。

 討伐隊の力が急に強くなりでもしない限り……いや、奇跡のような魔法でも獲得しないとどの道『悪鬼』討伐には持っていけないな。


 位階指定Bの冒険者たちの魔術はもはや足止めにすらなっておらず、最高戦力である位階指定Aの『風神』は魔術傾向が速さと手数に寄っている。

 だが仮に『風神』の魔術が決定打を与えられるタイプだったとしても、勝つことは難しいだろう。

 今『悪鬼』の遊びの中で『風神』が戦えているのは彼女が速いからだ。

 それがなくなればそもそも十秒と持たないかも。


 まぁ要するにだ。

 同じ位階指定Aでも、『風神』と『悪鬼』の間には大きな差があったということだな。

 位階指定Bの冒険者たちなど比べるべくもなく、戦力に差があり過ぎた。


 ユキトイキが思わずと言葉を漏らす。


『これ無理じゃろ……調査の段階で『悪鬼』の実力は把握しておるものと思ったが』

『これは~、そもそも調査とか冒険者時代とかから実力を隠していたパターンでは~? なんにせよまずいですけど~』

『まままままさか討伐失敗なのか……?』



〈コメント〉

:ただ失敗で終わればいいけどね……

:全滅だけは勘弁

:地上に執行者待機してるんでしょ? 流石に動くべきでは?

:執行者はダンジョンに入らない。これ常識

:ていうか執行者でも『悪鬼』に勝てるのか怪しくないかこれ

:『悪鬼』、まだ本気じゃないみたいだけどもしやSの領域に足突っ込んでるのでは……

:S!? あれ、執行者の位階指定って……?

:敢えて無理やりの位階指定ならS。だけど執行者は位階指定の枠外に置かれるから実際は知らん

:執行者と同格……?



 ユキトイキの呟きはいいとして、一応コメント欄の発言に苦言を呈すならあんな頭の悪い馬鹿と執行者を同格扱いしないでほしいとは思う。

 執行者に位階指定は適用されない。

 それはそんなのする必要もなく人類最高戦力だから。

 ただ無理くり位階指定するなら冒険者最高のSに当てはめようというだけの話だ。

 Sより上があるならその上に。


 要するに例え『悪鬼』が位階指定Sの実力でも問題はない。

 地上に出たならいつも通り始末するだけ。

 執行者に回ってくる任務なんて大体いつもあの程度だ。


 しかしそんな僕の執行事情など現地の彼らには関係なく。

 戦いは次第に、遊びに飽きた『悪鬼』による雑な暴力へと変わり始めた。


 肉弾戦闘魔術によるシンプルな強さ。

 ただ速く、硬く、重い。

 それが段階を上げるように強さを増していくことで……遂に空中を飛び回っていた『風神』の腹に『悪鬼』の拳がめり込んだ。


 『千鎖』の悲鳴のような叫び声が木霊する。


『クソォォォォッ!!』


 それはやけくそか。

 思考がまともな判断をできなくなっていたのか。


 『千鎖』は、魔力を大きく消費するうえに隙の大きい切り札的魔術【空間鎖錠】の行使に移った。

 周りの位階指定Bの冒険者が支援をするが、到底そんな隙だらけの魔術が当たるわけもない……はずだったのだが……。


『当たったのじゃあ!?』

『うっそ~ん』

『これはやったか!?』


 意外なことに『千鎖』の切り札はあっさりと『悪鬼』を捉え、拘束した。

 ……いやまあ、意外というかただ『悪鬼』が避けなかっただけなのだが。

 あれはまだまだ遊んでいるのだろうなぁ。


 しかし討伐隊に訪れた絶好のチャンスなのは間違いなく。

 位階指定Bの冒険者、だけでなく主力アライアンスの冒険者たちの魔術までもが一斉に『悪鬼』へと降り注ぐ。

 個々として弱い魔術も一ヶ所に集中する過程で融合し、より強力な魔術へと。

 さらにそれが強く融合し、更にそれが……と威力を増した攻撃が『悪鬼』へと降り注ぐ。


 巻き上がる土煙。

 だが終わらない、攻撃はまだ続いた。

 巻き上がった土煙が風に集束されるように渦を巻く。

 それはどんどん密度を増していき、数秒後には極細の超密度竜巻へと変貌していた。


『【極点旋風】……私の対人必殺の魔術よ。挽き肉になりなさい、化け物!』


 位階指定A、『風神』の魔術だった。

 どうやら腹を殴られた負傷から回復したらしい。


 奇しくも『風神』の危機から生まれた『千鎖』による好機だったが、果たして『悪鬼』の生死は……。



『──軽いなぁ。これじゃ痒いとこも収まらないぜ』



 晴れた竜巻から、無傷の『悪鬼』が姿を現す。

 所詮奴にとっては遊びの延長、いや十分範囲内だったということなのだろう。


 首筋を掻きながら笑った『悪鬼』は、遊びはもういいと呟いてそれを見せてきた。



『──【真・霊装】──』



 『悪鬼』の本気を。

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