第八話「討伐作戦 交戦」
開始からしばらく経った。
未だ『悪鬼』との遭遇は果たしていない。
暇なユキトイキはダンジョン内の敵性存在、災厄種が今作戦で出てこない仕組みを視聴者に話していた。
まぁ仕組みといっても、魔術による探査で当分は出くわさないだろうという判断になっているだけ。
たった三百人の人間が一度に広大なダンジョンに潜ろうと、災厄種からすれば道端にアリの巣がある程度の認識だ、行動パターンが変わることなんてない。
だから災厄種徘徊掲示板で貼られる情報は今作戦でもいつも通り適用されるというわけだな。
と、そこまで話し終えたとき、ちょうどよくと言っていいのか討伐隊から通信魔術で連絡が入った。
『──こちら討伐隊第一アライアンス! 目標『悪鬼』と遭遇、そのまま『風神』と『千鎖』が交戦を開始しました! 繰り返す、目標『悪鬼』と──』
それは討伐隊と『悪鬼』、交戦開始の報だった。
第一アライアンスといえば位階指定Bの『千鎖』と位階指定Aの『風神』がいるところだ。
討伐目標と同じ位階指定Aがいるアライアンスが遭遇したのは運が良かったと見るべきか、それとも……。
報告を受けた作戦本部はすぐに他アライアンスへと指示を出した。
支援アライアンスは後方で包囲網の構築。
位階指定Bのいる主力アライアンスは前進した場所で包囲網を作りつつ、位階指定Bだけがそのまま戦闘へと参加。
タマはその間にも【千里眼】を用いた配信魔術で戦闘地点の中継を開始していた。
そこでは『千鎖』が魔術で生み出した無数の鎖を縦横無尽に振り回し、『悪鬼』と思われる男を拘束せんと追いまわしている。
また位階指定Aの『風神』は目にもとまらぬ速さで空中を飛び回り、終わることのない一撃離脱を繰り返していた。
戦場となった空間は広く、数の有利を活かしやすい場所だ。
『悪鬼』は肉弾戦闘魔術を得意としているのかなんとか『風神』や『千鎖』に近づこうとしているが、なかなかうまくいかないでいる。
だが押しているのかと言われればそうでもなく、圧倒的な肉体能力の差で鎖は届かず『風神』の攻撃は有効打を与えられず、と膠着状態のようにも見えた。
わざわざ討伐隊に有利な空間へ出たからには勝算があるものと思われるが……?
先程までの雑談もとまり、ユキトイキの配信は『悪鬼』対討伐隊の戦闘へと釘付けだ。
いや、討伐隊というか戦っているのは『千鎖』と『風神』だけだが、補助魔術など見えないところで他の面々も何かしらしているはずだろう。
他アライアンスも現場に急行中、このまま膠着状態が続くなら形勢は『悪鬼』不利と見たいところだが。
鎖を操る『千鎖』が『悪鬼』に向け叫んだ。
『俺はお前が許せない! 絶対にここで、今日こそここで決着をつけてやる!』
『落ち着くのよ馬鹿弟子! 『悪鬼』は冷静さを欠いて勝てる相手じゃない! これまでの戦闘で十分わかったでしょう!? 二人で息を合わせて畳みかけるの!』
『何度やったって同じだけどなァ! お前らはっ、この俺様にっ、勝てねぇ!!』
まずい……なにもわからないぞ。
きっと彼らの間で色んな因縁や感情が交差しているんだろうが、いきなり戦闘の中でそれを見ても部外者にわかることはないな。
まぁ僕は物語の外側を望んでいるからそれでいいんだが。
ユキトイキの三人や配信を見ている視聴者は頭にハテナを浮かべまくっていることだろう。
『きっとアニメを二期から見るとこんな感じでは~?』
『あるいは物語のあらすじで知らない単語を連発されたときの気分かもな』
『のじゃ? のじゃ……? のじゃあ……?』
冷静に事態を分析するミオとレンに対し、のじゃのじゃ訳がわからなくて壊れてしまったタマ。
まぁ三人の気持ちはわかる、こうやって唐突に物語を見せられると中身や続きが気になってしまうものだ。
だがこれはリアルの戦闘……殺し合いだ。
今回でこの物語に決着がつかないのなら、まだまだこの先に悲劇が続くかもしれない。
さぁ、どう打開する、冒険者たち。
戦いは始まったばかり。
しかしてこの膠着状態には、『悪鬼』の薄暗い悪意が見え隠れしている気がした。




