第五話「推しが討伐隊に参加させられた」
今更だが、冒険者ギルドは災厄侵攻に備えかなり大きく頑丈に造られている。
災厄種というのは数が少ないことだけが救いの怪物たちだ。
個体にもよるが大きい個体はそれは大きい。
そんな災厄種の侵攻に備える冒険者ギルドの造りが狭苦しいなんてことあるはずもなく。
三百人の冒険者が一堂に会そうがギルド内には気にする点などないほどの余裕がある。
まぁなにが言いたいのかというと、僕はまだ知らなかったのだ。
まさか同じ空間に最推したるユキトイキが討伐隊として存在しているなんて。
ダンジョン入口真横の待機場所に座った僕はスマホで推しの配信を開いた。
そこで今まさに配信している場所がここだったのだ。
嘘だろユキトイキはチームでも位階指定Eの下位冒険者だぞ、と思ったがそこは安心。
ユキトイキにされた依頼内容はダンジョン内で行動する討伐隊の配信だった。
なら同行するから安心じゃないって?
いいやユキトイキの……ロリ九尾っ娘のタマならここ地上からダンジョン内の配信も可能なのだ。
それこそがタマの得意とする切り札的適性魔術【千里眼】。
タマの【千里眼】と配信魔術の合わせ技に目を付けるとは、ここの冒険者ギルドはなかなか見所がある。
下位冒険者というだけで侮らないのはとても良いことだ。
実際、執行者としての経験からも面倒な魔術は下位も上位も関係なく面倒。
穏便に始末しようと思ったのが雑に始末する結果となったことも、幼い頃はあったものだ。
スマホで配信を見ながら昔を懐かしんでいると、横の受付嬢が肩を恐る恐ると叩いてきた。
「あの、ギルド支部長からの作戦説明が始まりますが」
イヤホンを片方外して用件を聞くとそんなこと。
いや作戦内容に興味はあるので聞くつもりだったが、ユキトイキがここで配信しているなら話は別だ。
僕は配信で流れる説明を配信越しに聞く。
ユキトイキの推し活を続けながら説明も聞けるなら万々歳だろう。
僕はスマホを傾けてユキトイキの配信を受付嬢に見せた。
「ああ、今作戦で配信される冒険者ですね。なるほどこの段階から情報取得先は一つに絞っておく、と。流石です執行者さま」
なにやらよくわからない解釈をした受付嬢だが、訂正も面倒なので軽く手を振ってイヤホンを戻した。
ユキトイキはこの広いギルド内で配信依頼用のスペースにいるのかここからだと姿が見えない。
しかし始まったギルド支部長の作戦説明はしっかり聞こえる位置にいたのか問題はなかった。
まず今回の討伐目標はダンジョンに巣くう災厄、コード『悪鬼』だ。
『悪鬼』は人型で魔術を行使する狡猾で残忍な災厄、と語られた辺りで冒険者がざわついた。
災厄徘徊掲示板の注意書きである程度予想はできていたろうが、ここにきて冒険者ギルドは対象が人間であるとほのめかした。
更に続くギルド支部長の説明。
『悪鬼』は執行者を恐れダンジョン外に決して出てこない。
故にここにあるダンジョンを、そして冒険者ギルドをこれからも利用するならば『悪鬼』の討伐は成さねばならない必然性がある、と。
まぁ、徘徊情報が掲示板で確認できる本物の災厄と違って、魔術師が殺人鬼となった今回の場合ではいつどう遭遇するかもわからない。
そんな危険を孕んだダンジョンを一般公開するわけにもいかないだろうから、必然性はあるといえばある。
そしてこの時点ですべての冒険者が理解した。
人型で、魔術を行使して、そして執行者の存在を理解し認識している。
『悪鬼』は間違いなく人間であると、冒険者ギルドは認めている。
討伐隊参加の冒険者たちの顔色が悪い。
前も言ったが彼らは人殺しをするために魔術師を、そして冒険者をやっているわけではないのだからな。
だがここで九人の冒険者が説明をするギルド支部長の横に立った。
彼らのことは知っている。
特にフードを被った【霊装】の少年に関しては、一応クラスメイトでもあるのだし。
……名前は、忘れたが。
そう、彼らは上位も上位の冒険者たち。
位階指定Bの冒険者八人に。
位階指定Aの冒険者一人。
この冒険者ギルド支部の最高戦力たちだ。
「討伐は彼らが……いや、位階指定Aの彼女が行う。皆に任せるのはその支援だ」
ギルド支部長の言葉に、おぉっ……と冒険者たちが歓喜の声を挙げる。
それはギルド最高戦力が討伐作戦に参加することへの歓喜か、はたまた人殺しの業を他者に押し付けられることへの安堵か……。
まぁ、なんだっていい。
人殺しが気持ちいいものでないのは確かなのだから、彼らの反応は至って健全だ。
そのままギルド支部長は今回の討伐作戦の『悪鬼』について、こう言い放った。
「『悪鬼』の位階指定はA。なおこれは災厄種ではなく、冒険者としての位階指定であると認識してくれ」
それは、今回の討伐目標『悪鬼』が、ギルド最高戦力と同等の実力を持つと宣言された瞬間だった。




