第四話「執行者待機命令。執行許可付き」
ユキトイキの潔い撤退から一週間ほど経った頃だ。
今朝教室に入ったら眠たそうにする実は凄いんだぞ少年がいた。
目の下には隈があるし、うとうとと頭を揺らしている。
かと思えば冒険者デビュー少年がクラスメイトにダンジョンのヤバさとやらを熱く語っていた。
軽く潜っただけでこんなに稼げただの、好きに魔術を行使できる快感は一度知ったらやめられないだのと。
その快感を知ってダンジョン外で魔術を行使しだす馬鹿も多いから、彼はそのうち警察の御厄介になるかもしれない。
え、執行者じゃないのかって?
あのレベルの魔術師なら警察所属の魔術師一人で十分お釣りがくるほどだよ。
さて、そんな冒険者デビュー少年を冷めた目で見るヒロイン枠かも美少女。
彼女は別に眠たそうにしているわけではない、が何やら難しい顔をしている。
まぁ原因はわかっているんだ。
先日ユキトイキが潔い撤退をした未確認人災の件だが、あれ以降も被害はなくならず、むしろ増加していた。
その件で位階指定の高い冒険者たちは依頼という形で色々動かされているんだろう。
実は凄いんだぞ少年は実は位階指定Bの冒険者だから、今回の件で相当酷使されたと見た。
まぁ冒険者ギルドにとってダンジョン内の殺人はそのまま訪れる冒険者を減らす要因だから早めに対処したい思惑があるんだろう。
あるんだろうっていうか昨夜僕が所属する執行者本部に冒険者ギルドから依頼が来た。
今度の土曜に未確認災厄種討伐作戦を実施するから執行者を一人寄越せ、と。
執行者本部の答え?
執行者はダンジョン内に踏み入りません。
終わり。
……と、なればよかったんだが、冒険者ギルドは相当ごねたらしい。
ダンジョン内には踏み入らない、けれどダンジョン外のギルド内に待機させておくくらいなら一人派遣する、という妥協案になってしまった。
まぁそれくらいなら構わないんだが。
はっきり言ってそれ意味ある? って思うのは僕だけじゃなかったと思う。
まさか件の未確認人災をダンジョン外に追い出すことができて討伐まではできないなんて、そんなうまく事が進んだときにしか執行者の待機する意味がないんだけど。
というかそこまで追いつめられるならもう全部自分たちでやればいいのに。
と、色々思うことはあれど任務という形になったからには仕方ない。
そう、待機任務が下されたのは誰あろう僕である。
実はユキトイキもいた件のダンジョン、ここら辺からだと一番近いんだよね。
他にもこの辺に住む執行者はいるのだけど、あいつらは三人一組みたいなとこあるから勿体ないってことなんだろう。
戦力的な話でも僕一人のほうが強かったりするしね、妥当な人選かな。
さてそんなこんなで未確認人災、コード『悪鬼』の討伐作戦が組まれたのが数日後の土曜。
まだあまり詳細な情報も出てなかったから、本日集まった討伐隊と共にギルドからの説明を受けることになる。
説明が終わり次第討伐隊はアライアンスを組んでダンジョン内へ、僕はそのまま待機という流れだ。
端末でもう一度待機命令と、いざという時の執行許可も出ていることを確認し、僕はどす黒い鬼の面と和装束を纏って冒険者ギルドへと出向いた。
この姿は僕の【魔法霊装】だ。
魔術の【霊装】と違って種族や性別が変わるなんてことはなく、ただの服装チェンジみたいなものだけど魔法行使に大きなアシストがつくから執行時の正装として認められている。
顔も見られなくて済むから僕にとってはいいことずくめの姿だった。
冒険者ギルドの前に到着。
集合時間ちょっと前に来たのに窓から見える中にはもうたくさんの冒険者で溢れている。
大体三百人くらいだろうか。
下位の冒険者を呼んでも仕方ないのできっと位階指定DとかCとかそこら辺の者達で固められているんだとは思う。
これは多いと見るべきか少ないと見るべきか、残念ながら僕にはわかりません。
まぁ成功の可否を考えるのは僕の役目じゃないと、ギルド入口を潜って中へ。
入ってすぐに仮設された討伐作戦の受付に出迎えられた。
「討伐隊参加の冒険者さまですね。集合時間を過ぎていますので急いであちらと合流をお願いします」
初っ端から冒険者と間違えられた。
まぁ執行者の紋章も見せてないから仕方ない。
このギルド内は今ハロウィンもびっくりな以下略。
というか僕だけ集合時間ずらして知らされてたのかと思いつつ、執行者の紋章を受付に見せる。
急激に伸びた背筋で受付は頭を下げてきた。
「大変失礼致しました! 派遣された執行者さまですね、ご案内致します」
若干大きくなったその声に集まっていた冒険者が視線を向けてくる。
とはいってもなにも起こらない。
冒険者が執行者に喧嘩を売って得することなどなにもないのだ。
それが討伐隊参加の上位冒険者ならなおのこと理解している。
僕は受付の案内で待機場所へと辿り着いた。
ダンジョン入口の真横じゃないか。
少しでも執行者に問題の対処を押し付けたいギルドの思惑が透けて見える。
まぁ地上に出るなら始末する、そうじゃないなら管轄外。
始めから僕のやることなんて決まってるんだからどこが待機場所でも文句はない。
案内後そのまま横で待機するらしい受付と共に、僕はダンジョン入口真横でスマホを起動し始めた。
長い待機時間には推しの配信を。
常識だよね。




