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第十三話「推しの配信者」

 学校の教室。

 退屈そうに席に座る。

 実際僕は今退屈だ。


 討伐作戦が終わった後、僕は楽しさを失ってしまった。

 推しの配信者ユキトイキの僕を見る顔を思い出し、いつものことだとわかっていても、また推しとして配信を開くことができなかった。

 ギルドを出る前の彼女たちの顔は、僕への恐怖や拒絶に染まっていた。

 ……あまり思い出したくない光景だ。


 教室内では冒険者デビュー少年が先日の討伐作戦の配信を開き、これが如何に凄いことかを熱く語っている。

 敗色濃厚な窮地からの『千鎖』覚醒による大逆転。

 冒険者デビュー少年としてはその姿に憧れるところがあるらしい。


 そんな冒険者デビュー少年の姿に当の本人たる実は凄いんだぞ少年の『千鎖』は薄く笑って本を読んでいる。

 いやあれは本当に読んでいるのかはわからないが、まぁとにかく本に顔を落としている。


 がしかしそんな実は凄いんだぞ少年の背中をじっ……と見つめるヒロイン枠かも美少女の姿が。

 ヒロインは褐色美女の『風神』かと思ったがこれはまだわからない?

 いやそれともハーレムルート突入なのだろうか。

 まあなんでもいい。


 同じ教室内でもこれだけ先日の討伐作戦の話題が挙がるのだが、その中に執行者に関するものは……なにもなかった。

 皆明らかに避けている。

 配信越しであっても、討伐隊が苦戦した推定位階指定Sの『悪鬼』を瞬殺するのは刺激が強かったのかもしれない。

 けど僕ら執行者に回ってくる任務なんてどれもあんなもんだから、なにをどう変えるとかの話でもない。

 結局、これが世間の執行者に対する認識ということなのだろう。


 窓から見える外の景色に無味無臭な平和を感じつつ、今日も地球が回っていることを見届ける。

 なんだか教室内の空気を見たからか落ち着いてきた。

 そうだ、今までも僕のやった執行に対する返答なんてどれもこんなものだったじゃないか。

 なにを今更、気にすることがある。


 どの道こうしていても暇なだけなのだし、少しでも感情が動くならそれはアリだろうと、僕は久しぶりにスマホで推しの配信を開いた。

 残念ながら今は配信していなかったが、なにやらユキトイキのチャンネルに新しい動画がアップされている。

 編集を面倒がってライブ配信しかしないユキトイキでは珍しいことだと、気になってそれを開いてみた。


 それは、討伐作戦が終わった後の、その晩で僕が見なかった配信の切り抜き。

 きっと執行者怖いとか言われてるんだろうなと見たそれは──



『儂は、人殺しは御免じゃと言った。今でもそう思う。けど、そんな儂らの代わりに『悪鬼』を殺してくれたあの執行者の御仁に、あんな歪んだ表情を向けてしまったことが、情けのうて仕方ないのじゃ』

『人殺しに寛容になれたわけじゃないんです。むしろ今でもそんなの嫌だと思うし、今回の一件でもっと強くなったとさえ言えます。けど、そんな私たちの我儘を守ってくれる人がいて、その人が代わりにする殺しがあるから成り立つ贅沢だってことに、今日初めて気づきました』

『気付いてもなお、そんな贅沢にこれからも甘えたい自分たちを自覚して、恥ずかしいけど懺悔せずにはいられなかったんだ。誰に懺悔してんだって話だけど、私は、私たちは人殺しをしたくなくて、それでも平和に生きたくて、それでえっと……』



 ──それは、推したちの執行者への……僕への懺悔だった。


 言っていることは本当に、人殺ししたくないけど平和に生きたいから誰か代わりにやってくれ、なんて笑いたくなる我儘だけど。

 推したちの申し訳なさそうな、それでも変えられないと自分を責めるような、そんな懺悔の姿を見て、僕は薄く笑っていた。


 人殺しを必要だと思うこと。

 人殺しに慣れてしまったこと。

 人殺しを躊躇わなくなったこと。

 そんな自分に気付くこと。


 どれも気持ちのいいことではないから、だから推したちにはずっとそのままでいて欲しいと思う。

 そのための必要な殺しは、これからも気付いてしまった僕がやる。

 それが秩序を維持する執行者の役目で。


 僕は……水鏡京助は、執行者だ。

第一章 完


第二章は書き終わったらまとめて投稿します

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