第十話「討伐作戦 格の差」
──【真・霊装】。
これがなんなのかは、まぁ名前を聞けば大体わかる。
察するに魔術【霊装】の第二段階と言ったところか。
討伐隊との遊びに飽きた『悪鬼』は、ここからが殺しの始まりだと本気を見せてきた。
基本の魔術傾向は変わらない、肉弾戦闘魔術を先程と同じように行使している。
だが、魔術補助のレベルが先程までとは段違いだ。
あれが【霊装】の第二段階、【真・霊装】。
魔術師は覚えた魔術をああしてアレンジできるのが面白いところなんだよな。
『千鎖』も『風神』も他の冒険者だって魔術のアレンジはしているのだろうが、まさか初歩にして基礎の【霊装】に目を付けるとは素直に感心した。
言ってしまえばタマの【千里眼】配信も配信魔術と組み合わせた一つのアレンジと言えるのだが、このように魔術師なら大抵は切り札的魔術のアレンジを目指すものだ。
いやまぁ、タマの場合は完全に偶然だったのだが。
というかユキトイキってそういうアレンジに精を出さないから位階指定が低いままなんだよね、全然構わないと思うけど。
話を戻すと何故【霊装】のアレンジに僕が感心したのか。
【霊装】は初歩にして基礎の魔術だ、その効果は魔術の補助。
補助の中身は発動効率から威力など、行使する魔術に対する恩恵全般。
言い換えればそれは【霊装】を強化すれば魔術すべての強化に繋がるということ。
あの『悪鬼』とかいうの、やってることは馬鹿だけど魔術的センスは滅茶苦茶高いのかもしれない。
さてそんな本気モードの『悪鬼』対討伐隊だが……あまり言葉にして楽しい戦いじゃなかった。
一言でいえば一方的、蹂躙と言い換えてもいい。
遊びはもういいとか呟いといてまだ遊び足りないのか、『悪鬼』はいたぶるように暴れるだけでまだ誰も殺してはいない。
結局のところ、快楽殺人鬼は快楽殺人鬼だったということだろう。
支援をする位階指定Bの冒険者たちはボロボロ、『風神』も得意の速さが既に『悪鬼』に凌駕されている。
映像の中で誰かが呟いた。
これは間違いなく、位階指定Sの領域だと。
と、そこで横の受付嬢がちょんちょんと肩を叩いてくる。
なんだと思いつつ用件はわかっている、どうせ助力要請かなんかだろ。
そう思って顔を向ければ案の定、ただし相手は戦闘中の『風神』からだった。
差し出された通信魔術端末には簡単に一言。
『救援求む』
戦闘中だから短いのはどうでもいいんだが、そもそもここで執行者に頼るなと言いたい。
執行者はダンジョン内に関しては不可侵、それをわかった上での僕への派遣依頼だったはずだろう。
これを破ることはできないし、するつもりもない。
なので、「外に出てきたら始末する」とだけ返して通信魔術端末を受付嬢に返した。
あっ、今映像の中で『風神』が舌打ちしたぞ。
最初から決まってたことなのに。
だが『風神』も命がかかっているのだから必死だ。
戦いながら未だ殺しはせず痛めつけるだけの『悪鬼』に対し、彼女は対話を持ち掛けた。
『あなた、それだけ強いのなら地上に行って執行者と戦ってみたら? もしかしたら勝てるかもしれないじゃない。こんな穴倉でずっと生きるよりきっと素敵だわ』
もう完全になにがなんでも『悪鬼』を僕に押し付けたいようだ。
全然構わないことではあるんだが、残念なことにそれは『悪鬼』を地上へと突き動かすにはあまりに材料が足りなかったらしい。
それまで縦横無尽に動いていた『悪鬼』は『風神』の言葉に動きを止め、寒気すら覚える真顔で彼女を見ていた。
そして一言。
『愚かだ』
それは確信だった。
悪鬼は確信している、今の実力でも執行者には届かないと。
それはこれまでの経験からなのかなんなのか、とにかく『悪鬼』がダンジョン内で暮らす理由には確かな執行者への恐れがあったらしい。
つまりまぁなんだ。
僕が前に述べた通り、こいつは他の例に漏れない思考でダンジョンで犯罪を犯す馬鹿なんだな。
もう一度言う、殺人鬼の馬鹿な考えはこうだ。
魔術で人殺したい。
でも地上だと執行者に殺される。
執行者ってダンジョン入ってこないんだよね。
そや!
ダンジョン内で人殺そう!
どいつもこいつも同じ結論に達しやがって。
実際それが執行者から逃れる最大にして唯一の方法なのも性質が悪い。
執行者はダンジョン潜れないからね。
さてそんな馬鹿回答を導きだした『悪鬼』は執行者との対立を勧めた『風神』を見て、一つ溜息を吐いた。
──やめだ
音は拾えなかったが、そう呟いたのがわかった。
それは先程の遊びはもういいとは違い、心底から冷めてしまったのだとわかる表情。
『悪鬼』が消える。
瞬きの間。
その次の瞬間には。
『風神』の身体は、ダンジョンの硬い壁に突き刺さっていた。
『……し、師匠ぉぉぉぉぉ!!』
誰もが訳も分からず立ち尽くす中。
『千鎖』の叫びが、木霊した。




