ティナの役割 1
ウォールヒル公爵邸は朝から騒がしかった。
ティナが朝食の席でルークを質問攻めにしている。
「ねぇ、それで昨日はどうだったの?」
「何が?」
「クローディアさんとフーフルに行ったんでしょ?」
「なぜそれを?」
「ランスから聞いた」
「あー」
「それで?」
「まだ引かれてるね」
「やっぱり…」
「やっぱり?」
「ルークのことを思って姿を消す人よ。戸惑うわよ」
「そうだよな…でも宣言してきた〈遠慮しない〉って」
「ルーク!やるわね。じゃ、外堀埋めは私に任せて!今夜は外で皆でお食事しましょ!カジュアルなお店にするから心配しないで!」
「今日?」
「そうよ。ランスも今日なら大丈夫だと思うって言ってくれたし。今日、差し入れ持って行くわね!」
「え?」
「大丈夫!もうマリアにお願いしてるから…ね」
最後はマリアに向けた「ね」だった。
マリアもニコニコしながら「はい。もうたくさんご用意しますから…ふふ」と告げる。
ルークはなんだかクローディアに申し訳なくなった。
ルークは王宮に出仕してすぐにランスロットを訪ねた。そして昨日の礼を伝えた。
「本当に会えてよかったよ」と告げられて
「ありがとうございます。まだ引かれてますがね」ポリポリと頬を掻く。
「あー。そのことだけど…ごめんね、僕はティナを止められなかった…」
「あれは走り出したら誰にも止められません。すみません」
「僕はそれでいいんだけど、慣れないとびっくりさせるだろうね」とクローディアを心配するランスロットに
「慣れて欲しいですから、今はティナの行動力に頼ります」と笑うと
「ははは!さすがウォールヒル兄妹だよ。頼もしいね」とランスロットも笑った。
「じゃ、ティナがきたら伝えるよ」
「お願いします」とランスロットの部屋を後にして、経理部課長を呼び出した。そして昨日の乱入の件を詫び、多くは語れないが、クローディアは公爵家の恩人であると伝えた。
嘘は言ってない。
騒ぎにならないようにお願いして、午後ティナが来るまで仕事に集中した。
――――――――――――
経理部は朝から騒がしかった。
クローディアの元に人が集まってくる。
皆、ルークとの仲をいろいろ詮索してきた。
クローディアがどう伝えたら良いか戸惑っていると。部屋に課長が入ってきて、経理部全体に話してくれた。〈サザーランドさんはウォールヒル家の恩人なのに謝礼を断っているほどの人だから、そっとしておいてあげて欲しい〉と。そして「さぁ、仕事ですよ」と言われて、〈恩人とは?〉気になるもののそれぞれ仕事を始めていった。
ホッとしたクローディアは課長に礼をして仕事を始めるのだった。
午後。ティナがポールとエレナを連れて王宮執務棟前にやってきた。
警備の者が敬礼をして挨拶する。
「こんにちは。またお邪魔しますね」
警備の者ともすっかり顔馴染みになった。
「後でお裾分けいたしますね。皆さんで召し上がってください」と言うと「いつもありがとうございます」と返事が帰ってくる。
すると、どこからかドレス姿の令嬢が数人やってくる。「ティナーリアさまっ!」の声に振り返る。口々に自己紹介するがティナには誰かわからない。
とりあえず「ごきげんよう」と挨拶しておく。いつもの光景だ。次に告げられる言葉もティナは知ってる。
「ご一緒してもよろしいでしょうか?」
(きたきた…)と思いながら笑顔で「どなたかとお約束でも?」当然約束なんてない。
「残念ながら、こちらは王宮の業務の中心なので、わたくしが勝手にご招待はできませんの。申し訳ございません」と丁寧に断る
(毎度、毎度よくやるわね)と思いながら踵を返す。
警備兵も苦笑いしている。
執務棟に入ってエレナに呟いた。「ルークに婚約者ができるまでは無くならないのかしらねー」と。
エレナもポールもクスクス笑いながら「もうすぐ、皆来なくなりますよ」と言っていた。
執務棟二階宰相外務補佐官室の扉をノックする。
中から「どうぞ」と返事が返ってくる。
ティナが扉を開ける。ティナが来たとわかるとランスロットは立ち上がりティナの側にきてティナを抱きしめ額にキスをする。いつもの光景。まるで儀式のようだ。
エレナとポールはその儀式が終わるまで扉の外で待機する。
落ち着いた頃。ティナは「では、私はちょっとお義父様に挨拶してきますね!」と一度退室する。
〈コンコン。お義父様失礼致します〉〈おぉ〜ティナさん!よくきたね!〉部屋にいても宰相の歓迎の声が聞こえてくる。(父親のあんな声を聞くとは思わなかった)といつも思うランスロットだった。
エレナとポールが持ってきた大量の差し入れをいつも通り宰相関係の各部屋に配る。しかし今日は経理部に配る分も用意してある。
経理部長には既にランスロットから話を通してもらっていた。ティナはエレナを伴い経理部長室に赴いた。
――――――――――――
経理部は今日から暫く平和な日が続く。月末に向けてどんどん忙しくなるので、皆、束の間の平和な時間を過ごしていた。それでも仕事はやってくるのだが…
そこに扉が開き経理部長が誰かと一緒に部屋に入ってきた。皆、そちらに目を向ける。
部長の後ろにいるのは、スラリとして品があり艶のある黒髪が印象的な綺麗な女性だった。
部屋中の視線がその女性に集中する。クローディアもその一人だった。皆とは別の意味で。
部長と課長と少し言葉を交わしてからクローディアの方を見た。こちらを見たティナーリアは魅力的な笑顔で「クローディアさま!」とクローディアに向かい言ってきた。
クローディアは思わず立ち上がっていた。




