もう遠慮しない 2
先にお茶が運ばれてきた。
クローディアはまだ混乱している。
ルークはお茶を一口飲み「ホゥ」と息を吐いて、クローディアにお茶を勧めた。クローディアもお茶を一口飲み一息ついた。
「この店はね、近々僕の兄弟になる人の店なんだ。内緒なんだけどね。〈クローディアを見つけた〉って言ったら、予約入れてくれてね。今日はもう帰れ。って言ってくれたんだ。メニューも決めてくれてるなんて、致せり尽くせりだね…ふふ」
話を聞いて、クローディアは宰相外務補佐官を思い出して「ティナーリアさまのご婚約おめでとうございます」と祝いを告げた。
「ああ、ありがとう。婚約して表だって動けるようになったからって、なんだろうなぁイチャイチャしちゃってさ。こっちが恥ずかしくなっちゃうよ」
クスッ「イチャイチャって…」クスクスと笑う。
「バーネットに知られるといけないからってコソコソしてたのにねー」と呆れながらルークがボヤくと
クローディアは真面目な顔をして聞いてきた。
「公爵さま。なぜあの家は男爵に降爵だったんですか?」
「爵位で呼ぶのはやめてって言ったのに…ま、いいや、それは後で。なぜ男爵になったって?それはね」
「それは?」
「僕の家族になってくれたら教えてあげる。ふふ」
「家族って……え?」クローディアは混乱しっぱなしだった。
「それは、置いておいて、バーネットは断罪されなかったんだ。力は無くなった、本人も医療施設に入った。ただそれだけだ。だから家門の連帯責任も発生しない」
クローディアは悟った。そう言うことか…と。
「私達に責任が及ばないようにしてくださってんですね。お辛いでしょうに…申し訳ありません」
「なぜ君が謝る?言ったでしょ。なぜ男爵位に降爵なのか家族になったら教えてあげるって。向こうにもいろいろ理由があるんだよ」ルークは笑ってクローディアを見つめている。そして続ける。
「だからもう終わったんだ。みんなの力、君の力を借りて終わることができたんだ。ありがとう」とルークが頭を下げて感謝の意を表した。
「そんな…それは公爵さま達が努力されたから…」
「いや。そうじゃない。僕には力が足りなかった。皆のおかげだ…だけどここで話す内容じゃないからまた今度ね」とルークはサラッと話題を変えた。
「クローディアはあの後どうしてたの?」と聞くとクローディアは掻い摘んであれから半年弱のことを話してくれた。
試験で学年首位を取ることができて、飛び級で卒業したこと。担任の教諭の紹介で王宮の職員採用試験を受けたこと。両親の仕事がうまくいき送金しなくてもよくなったことを。
「その後はあっと言う間に五か月が経ちました」と。
「そうだったんだ。頑張ったね…それにこんなに近くにいたんだ…」とクローディアに向かい穏やかに笑うとクローディアの目が潤んできていた。
「さて、これからは時間がある。まずは食事にしよう」と言われたので、久しぶりに向かい合って二人の食事の時間が始まった。
久しぶりに過ごす二人の時間はルークにとってもクローディアにとっても楽しい時間だった。
他愛のない話をして笑い合い、パン屋の二階での時間が戻ったようだった。
楽しいひとときを過ごしてそろそろ帰らねばならないとお互い思っているのに、どちらもそれを言い出せなかった。
ルークが「そろそろ送って行かなきゃならないね」
クローディアも「そうですね。明日もありますし…」と返事をした。
ルークは「それじゃあ、行こうか」と席を立ったのでクローディアもそれに倣い席を立ちルークの後に続こうとした。その時、ルークは右肘をクローディアに差し出す。
「?」一瞬キョトンとしたクローディアだがエスコートしてくれようとしているとわかり、遠慮がちに左手を添えた。ルークがその添えた手に自分の左手を添える。クローディアの顔が赤く染まった。
今のルークはクローディアの知ってるルークではない。ルークも自覚していた。(まさか自分がこんな事するなんてね)と。
会計は済んでいると言われて、お言葉に甘えて店を出た。
馬車までしっかりエスコートし、二人は馬車の中でも他愛無い話をしてクローディアを寮まで送り届けた。
馬車から降りるクローディアをエスコートしながらルークはクローディアに告げた「クローディアに逃げられてショックだったんだ。だから遠慮するのはもうやめようと思っているんだ」と。
クローディアも誤解されていると思い「逃げてなんか…」と言い募ろうとした時
「わかってるよ。僕の為を思ってくれていた事は、でももうなんの心配もない。だって放逐されたんでしょ?サザーランドは…それにバーネットはもういないも同然だし」
「そうなんですが…」困惑しながらクローディアが言うと
「だから、もう遠慮はしないからね。じゃ、また明日!おやすみ」と言ってクローディアに紙袋を渡し、馬車に乗り込み職員寮から去って行った。
「また、明日…って」今夜は困惑しっぱなしのクローディアだった。
腕の中には紙袋いっぱいのクッキー。あのリボンで結んである。なんだか可笑しくなってきてクスクス笑いが込み上げてきた。「約束か…」クローディアは幸せな気持ちで寮に戻って行った。




