王宮舞踏会の夜 2
連れ出してくれた宰相に礼を言うと「ほっほっほ」と宰相が笑う。
そして「ルーク君はエスコートしたい令嬢はいなかったのかい?」と聞いて来たので、
「実は、逃げられました」と苦笑いしながら告げた。
「なんと…そんなご令嬢がいるとは…」と少し宰相は驚いた。
そして「〈補佐官〉は一度はご令嬢に逃げられる運命なのか?」と呟いた。
「え?」と聞き直すと「いや。ランスロットも一度は逃げられたんだよ。その時は今の君みたいに残念そうな顔はしなかったんだけどね。しかし今思えばランスロット自身に気持ちがなかったんだろうね。今は彼女を逃すまいと必死のようだよ…ほっほっほ」とダンスの輪の中で踊る二人を見る。
見つめ合い仲睦まじく踊る二人は周囲の視線も集めていた。お互いの瞳の色をモチーフにした二人の宝飾品。揃いの色味のドレスとクラヴァット。ランスロット狙いの令嬢達がランスロットを諦めた瞬間だった。
踊りながらランスロットは「ルーク殿はその後どうなった?ちゃんと会えたのか?」とティナに聞いてきた。クローディアのことだとすぐに理解したティナは首を横に振る。
「会えなかったようだわ。行き先もわからないと…」
「そうか…もっと早くに行かせてあげればよかった」
「いいえ。きっとクローディアさんはいつ会いに行っても会ってはくれなかったと思うわ。それがルークの為だと思っていたでしょうから」
「公表が今日だったからな…」
「いつか、きっとまた逢えることを願ってるわ」
「俺もそう願う」
「それと、サザーランド子爵の移住先調べてくれてありがとう。ジェラルド兄様から〈良い人と巡り会えた。うまくいきそうだ。だから心配ない〉って連絡が来たわ。さすがね、ランス」
ジェラルドから以前販路拡大したいが、良い人と逢えないと聞いていた。だからティナは〈噂話〉を伝えておいた。後の判断はジェラルド次第だった。
二人は後々のことを考えて敢えて〈紹介〉はしなかった。
「そうか。それはよかった。これでも国の役人だからね、経済活動が活発になるのは国としてもありがたい」そう話しながら二人はダンスを続けた。
ダンスの曲が終わり、二人はテラスに涼みに出た。
真冬だが、ホールには人々の熱気、さらに踊って…
冬の冷気は意外と心地よかった。
ティナがクスクス笑いながら「ランスもモテるのね。凄い人だかりだったわ」と言うと
「止めてくれよ。肩書きに集まって来た人ばかりだよ。あそこから抜けるのは結構大変だったよ」と返した。
「ランス。ドレスと宝飾品ありがとう。とても嬉しかったわ…似合う?」
「ああ。とても似合っているよ。綺麗だ。ティナにシルバーグレーのドレスを着て欲しかったんだ」
「なぜ?」
「学院の卒業パーティーでシルバーグレーのドレス着てたろ?あの時から忘れられなかったんだ」
意外そうな顔をするティナを見てランスロットは続ける。
「卒業パーティーの日宰相補佐官として控えの間からルーク殿と踊る君を見た。目が離せなかったよ。でも何も接点がないまま仕事に忙殺されていたら突然資料室に現れた。いろんな意味で驚いたよ…でも密かにチャンスだと思ったんだ。滅多に望まない陣頭指揮を名乗り出てティナに近づく機会を狙った。あー。勿論仕事はちゃんとするつもりだったよ!あとは今までティナの見た通りさ。君のいろんな〈顔〉を見るたびにどんどん惹かれていった」
ランスロットの顔を見上げて話を聞いているティナのこめかみにひとつ口付けを落として「大好きだよ、ティナ」と伝えれば、「ふふ。ありがとう。私もランスが大好きよ、誰よりも…」と答えた。
おもむろに、ランスロットがティナの前にひざまづきポケットから小さな箱を取り出し、蓋を開けてみせた。
そこには大つぶのダイヤモンドの両サイドに小粒の水色、エメラルドグリーン色、ダイヤモンドの3色の宝石をあしらった指輪があった。
ティナはびっくりして言葉も出ない。
「ティナ。これから先もいろんな君の〈顔〉を側で発見していきたい。僕と結婚して欲しい」と告げた。
「ランス。私のいろんな姿を受け入れてくれてありがとう。でも一番あなたの心に留めておいて欲しい〈顔〉はあなたのことを心から愛していると伝える時の〈顔〉だわ。今の私の〈顔〉のように」と言いながらティナは嬉しくて泣いていた。
「ティナ!」ランスロットは立ち上がり、ティナの指に指輪をはめて、ティナを見つめ涙をランスロットの指で拭い「愛してるよ」とティナの唇に口付けを落とした。誰もいない王宮ホールのテラス。二人は暫く離れられなかった。
二人はホールに戻り、ホールの隅にいた宰相夫妻とルークの元に行き、婚約を報告した。
宰相夫妻は大袈裟に喜び、ルークは(わかってましたけど…)と少し不貞腐れたように祝った。しかし、その姿はそこにいる宰相夫妻やティナ、ランスロットの笑いを誘った。
そしてそのまま皆で国王夫妻、王太子夫妻の元に赴き二人の婚約を報告した。
王太子妃は弟の婚約を大層喜び、「可愛い義妹ができて嬉しいわ!」とティナを抱きしめた。
国王はうんうんと頷きながら「ランスロット。よくやった!これで我が国も安泰だ!」とよくわからないことを言っていた。
その中で、笑顔だがどこか釈然としないルークは、やはり皆の笑いを誘っていた。
今年の王宮主催新年舞踏会はお祝いモードに包まれて幕を閉じた。




