クローディアの話 4
カラン〜カラン〜パン屋の扉のカウベルが鳴る。
「こんにちは〜」とニールが入ってくる。
クローディアもこの時間に間に合うように急いで学院から戻り店に出たところだった。
「あ、ニール君こんにちは!」と言いながら間に合ってよかったと心の中で思った。
1日おきにニールがパン屋を訪れる。あれからもうすぐひと月になる。外はすっかり冬景色だ。
ニールともすっかり顔馴染みになり雑談を交わすようになった。
自然な流れでカゴを受け取り中の袋を取り出す。ニールの注文の品を入れてニールは会計を済ませて店を出ようとする。
「寒い中ありがとう。これはおまけね!」と言ってクッキーの袋を追加で入れた。
ニールは嬉しそうに「うわぁ!ありがとう!」と言って店を出て行った。
夕方。店を閉めてクローディアは二階の下宿に戻る。
扉を開けると「おかえり」と声がする。
「ただいま」と返しニールから受け取った袋をテーブルの上に置く。ルークがそれを手に取り中の物を取り出す。クローディアはキッチンに行き夕食の準備をする。二人で質素な夕食をとり、片付けたら、テーブルは書斎に変わる。
ルークは袋に入っていた手紙に返事を書く。左腕はまだ固定しているので多少不自由だが時々クローディアの手を借りて手紙を書いていた。
クローディアは半月後に迫ったテスト勉強だ
教材に向かい難しい顔をしていると前から「どうしたの?」と声がかかる。「はい。社会一般の地理なんですけど、なかなか覚えられなくて…」するとルークが「どれ?」と教材を覗き込んでくる。「あー。これは覚え方があるんだよ…これは…」と時々家庭教師をしてくれる。
クローディアは数学や科学は好きだったが地理と語学が苦手だった。反対にルークは地理や語学は得意だったが、数学や科学は苦手だった。
だから地理や語学に関してはルークに教授してもらい、数学や科学の勉強の時はルークの「そうだったのかあー!」と言う嘆きを笑いの種にしていた。
商店街のパン屋の二階の一室での時間はクローディアにとって思いがけない幸せな時間となった。
年も押し迫ったある日、店を閉めて部屋に戻ってきたクローディアは、ニールから受け取った袋をテーブルの上に置き、キッチンに向かった。最近は食事の用意も手慣れてきた。
できた夕食をテーブルに持ってくる。「今日はスモークチキンにしました。お口に合うと良いのですが…」と言いながらルークに近づいていると、ルークが何やら難しい顔をして手紙を読んでいる。
その顔を見たクローディアは(くるべき時がきたのかもしれない)と感じた。
笑顔を作り、ルークの前に夕食の皿を置き準備を始める。
ルークもテーブルの上を片付け、クローディアが配膳しやすいようにする。普段通りの光景だった。
食事が終わって、片付けが済んだ時「クローディア嬢」とルークが呼びかけた。
「だから〈嬢〉はやめてくださいって言ったのに…ふふ」
「ああ、そうか…クローディア。今日、王宮からの伝言が来た」
(ああ。やっぱり)とクローディアは思った。
「はい」
「三日後、王宮から迎えが来る。そしてその翌日バーネット公爵を王宮に呼び出すそうだ」
「そうですか。いよいよですね」
「クローディアには本当に世話になった。ありがとう」とルークが頭を下げて礼を言うと
「止めてください。うふふ。私は楽しかったですよ。ルークさまとこんなにたくさんの時間を過ごせるなんて思ってもみなかったですから」膝に置いた握り拳に力を込めて笑う。
「だから〈さま〉は止めてくれって言ってるのに」
「〈侯爵さま〉って言わなくなっただけ進歩したと思ってください。ふふ。…さぁ後三日しかないんですね!私、まだ不安な問題があるんです。残りの三日で習得しますからご教授お願いしますね。明日から学院も休みなんです。みっちりお願いします」
「ふふ。そうだね。みっちり勉強して学年トップにならなきゃね」とルークもぎこちない笑みをもらした。
三日後の夜。家門のない黒い馬車がルークを迎えに来た。
クローディアは玄関先で見送ることにした。
「どうぞ、お体に気をつけて」と短い挨拶で見送るクローディアにルークは「次に会った時は必ず約束を守るよ」とクローディアに言うと
「?。約束ですか?」と首を傾げると
「前に言っただろう?〈今度会う時は袋いっぱいのクッキーを持ってくる〉って」笑って伝えてくる。
「あ!そうでしたね。そんな未来がくるといいですね。その時まで私、頑張りますから」もう泣きそうになる。
「必ず来るよ!待ってて。…試験頑張ってね」ルークはクローディアに真剣な眼差しで言ってきた。
「はい!必ずトップの成績を取ります!」
「楽しみだ、じゃあもう行かなきゃ」
「はい。お元気で…」頑張って笑顔を作って見せた。
「君も…」そう言ってルークは迎えの馬車に乗り去って行った。
ルークを見送ったクローディアは扉に背中を預けて、声を出さずに少し泣いた。そして拳で涙を拭うと「さぁ!勉強!勉強!」と笑ってテーブルに向かうのだった。




