クローディアの話 3
ティナはフーフルに来ていた。
出迎えた背の高い男性給仕が対応する。
「予約したケーキを受け取りに来ました」
「はい。承っております。お待ちください」
「こちらでございます」とケーキが入った箱の中を見せる。ケーキと封筒が入っていた。
ティナは「お代はこちらに入っております」と薄い封筒を渡す。
男性給仕は中を確認して「確かに頂戴しました。ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」と丁寧に頭を下げて挨拶する。
そしてティナは王宮からの、ランスロットはウォールヒルからの連絡を取り合っていた。
ランスロットはティナから受け取った封筒を持ち王宮に帰り中を確認して宰相室に報告に行く。その後宰相が国王の執務室に報告に行っていた。
今回もそうだった。
「ウォールヒル侯爵の意識が戻ったそうです」
「そうか。よかった」
「ただ、まだ話せる状態ではないそうで、何があったか知らせるのは暫く待ってほしい…との事です」
「わかった。大丈夫だ。とにかく目覚めてよかった。安全なところにいるのなら、私たちも動くか…」
「準備に入ります」
「頼む」
「御意」
――――――――――――
「一体、どこを探しているんだ!まだ見つからんのか!」バーネット公爵の焦りは日々募っていった。
「申し訳ございません。八方手を尽くしておりますが、まだ発見には至らず…」
「実はまだ生きているのではないか?」
「あれだけの深傷を負って生きていられるとは思えませんが…」
「侯爵家の様子は?」
「侯爵家の方でもまだ捜索隊を出しているようです」
「ティナーリアの監視は?」
「継続しています。最近街のパティスリーには出かけるようですが、それ以外の外出は滅多にございません」
「この状況でパティスリーか?おかしくはないか?」
「はい。私も不審に思いましたので調べましたが、オーナーは平民です。特に接点はございませんでした」
「そうか」
バーネット公爵は落ち着こうと試みたが、ルークを見つけ出せないことがその試みを阻止した。
――――――――――――
扉をノックして「失礼します。侯爵さま」とクローディアは寝室に入る。
手にはパンとスープを乗せた盆がある。
「簡単なお食事ですが、召し上がってください」
そう言ってサイドテーブルに盆を置く。
ルークはまだ起き上がれないが、少し話せるようになった「すまない。サザーランド子爵令嬢」
「だから、クローディアでいいって言ったじゃないですか…」
「ありがとう」ルークはクローディアに迷惑をかけていると思っているのか恐縮して伝えてくる。
クローディアはそんなルークの気持ちを感じて、わざと明るく振る舞う。
「でも、目覚めて、話せるようになってよかったです。皆さんご心配されてますよ!早く良くなりましょうね!」
そう言って、スープをルークの口に運ぶ。
ルークは素直に食べる。
なぜか穏やかな時間が過ぎていった。
食事を終えたルークはクローディアに尋ねた。
「なぜ、ここでひとり暮らしを?」
クローディアは食器を片付けながら「ご存知かもしれませんが、両親は地方に移住しました。再起をかけるそうです。でも私はあと少し頑張って卒業したかったんです。それで先生に相談したら、ふたつ選択肢をもらえました。私、これでも成績はそんなに悪くなかったんですよ。トップクラスではありませんが…。
ひとつは、テストで学年上位レベルの成績を残し奨学金制度を利用する。
もうひとつは、テストで学年トップの成績を取り、飛び級制度で次の夏の卒業を待たずに卒業証書を受け取る。のふたつの選択肢です。いずれにしても、来年早々にテストを受ける事にしました。ですから両親と離れて王都に残ることにしたんです」
「そんな大変な思いを…」と言葉に詰まるルークだったが、クローディアは平然として「大変でもありませんよ。私には目標がありますから、勉強は大変ですが、それは今までサボったツケですね」と笑った。
ルークはクローディアの看病で日に日に回復していった。
クローディアはルークが回復していく様子を側で見守れるのが嬉しくてつい笑顔になっていた。
クローディアの1日はパン屋の仕込みの手伝いから始まる。
日が昇る前に起きて店に行き厨房の火を起こす。厨房が少し温まった頃にパン屋の主人がやってくる。
主人が今日の分のパンの仕込みに入る。その脇でクローディアは、パン生地に練り込む為のナッツや、ドライフルーツ。サンドイッチに挟む具材などを用意する。主人がパンを焼き始めたらクローディアは二階の下宿に戻ってきて、朝食の用意をしてからルークの面倒を見る。その後自分の支度をして、ルークと自分のランチの用意をして、ルークの分はベッドサイドに置き、学院に向かう。帰宅したら、ルークの様子をうかがう為に一度寝室に顔を出すが、すぐに店に向かい、夕方店を閉めてから夕食の準備をしてルークに持ってくる。食事の世話が終わると傷の手当てをして、部屋を下がる。そこからクローディアの勉強の時間が始まり、夜がふけていく。
確かに目まぐるしい1日だったが、クローディアは楽しんでいた。
その頃、国王は王家直轄領とネイルロウ王国の国境線に、準備していた軍隊を派兵し見せびらかすかのように大砲をネイルロウ王国に向けて並べた。




