断罪 1
翌日、早朝からウォールヒル侯爵家のルーク捜索隊が行動を開始した。
峠の襲撃現場。そこを中心に周囲。そして川の流れに沿うように捜索域は広がっていた。しかしルークの足取りは掴めない。
バーネット公爵家の隠密の捜索にもルークは見つからなかった。
「一体、どこを探しているんだ!まだ見つからんのか!」バーネット公爵の焦りは日々募っていった。
「申し訳ございません。八方手を尽くしておりますが、まだ発見には至らず…」
「実はまだ生きているのではないか?」
「あれだけの深傷を負って生きていられるとは思えませんが…」
「侯爵家の様子は?」
「侯爵家の方でもまだ捜索隊を出しているようです」
「ティナーリアの監視は?」
「継続しています。最近街のパティスリーには出かけるようですが、それ以外の外出は滅多にございません」
「この状況でパティスリーか?おかしくはないか?」
「はい。私も不審に思いましたので調べましたが、オーナーは平民です。特に接点はございませんでした」
「そうか」
バーネット公爵は落ち着こうと試みたが、ルークを見つけ出せないことがその試みを阻止した。
ウォールヒル侯爵家の監視は続けたが、ウォールヒル侯爵家に目立った動きはなかった。
そしてその年の暮れ王宮から呼び出しがあった。
〈法的手続きが必要になった。至急参内するように〉とのことだった。公爵に拒否権はなくカールの見送りを受けて王宮に向かった。
――――――――――――
王宮の謁見室に通されたバーネット公爵は国王の前に進み出て臣下の礼を取る。国王の後方にはエストラーダ宰相が立っていた。
国王の私室に招待された時とは違う空気を纏った国王がそこにいた。
「わたくし。バーネット公爵。陛下のお呼びに参内いたしました」と口上を述べる。
「楽にせよ」と許しを貰い臣下の礼を解く。
「今日、来てもらったのは他でもない。バーネット公爵家を男爵へ降爵処分にするためだ」国王はなんの抑揚もなく伝えた。
「え?今なんと…」バーネット公爵は国王を見上げる。
「本来ならば断罪なのだが、王族内で争いが起きると内紛に発展する恐れがある。だから関係者の許しを得て男爵への降爵処分とした。だが其方は体調を崩して医療院に入院してもらうことにした…降爵処分に同意してくれた関係者に感謝するがよい。以上だ」
バーネット公爵は突然のことで混乱する。
「なぜですか!私が何をしたと言うのですか!」
「説明しないとわからないか?罪状は反逆罪だよ。隣国ネイルロウ王国と繋がって鉄鉱石を横流しし、最終的に我が国でのクーデターを目論んでいたんだろう?」
バーネット公爵の心臓がドクンと一際大きく脈打った。「そんな…なぜ…」そんな言葉が自然と出てきた。
「そんな、そんな恐れ多い事を私がするはずがありません!鉄鉱石の横流しと仰るが我が領に鉱山はございません!」
「ウォールヒルから流出させていたのだろう?」
「なぜ私が?一体どうやって?流出させるとしたら、それができるのはウォールヒル侯爵ではないですか?」
「いや。できるらしいぞ…。横穴を掘って…な。そうそう、橋も造ったそうじゃないか」
「な、何を仰って…」
「〈レオナール・ウッド〉〈ウォルフ・ハイデ〉この両名に覚えはないか?」
「ウッ…」そこまで調べているとは…バーネット公爵は言葉を失った。
「二人に話を聞いたよ。二人はウォールヒル前侯爵夫妻には恩があったそうじゃないか…それを利用して横穴を掘らせるとは…」と情けなさそうに首を横に張った。
国王は続ける「それに、運送する街道の民は〈国王の命令〉だと思っているそうじやないか」
バーネット公爵は呆然としながら「しかし、隣国とは緩衝地帯が…」
国王は畳み掛けるように「草地になってるところかい?なかなか背の高い草が生い茂っているそうじゃないか、あれなら荷車くらい隠れるだろう?なんなら人も隠してくれるんじゃないか?なかなか考えたもんだよ」
しかしバーネット公爵も諦めない。
「そんな、憶測ではございませんか?そんな証拠が何処に?…」
冷たい眼差しの国王は「あるんだよ、それが…」と手を横に伸ばすと、侍従が一枚ずつ書面を国王に渡す。
「これが、ウォールヒルの東鉱山の坑内図。横穴が二つあるだろう?レオナールとウォルフにも確認した。」
侍従が次の書面を渡す。
「これが、ウォールヒル領とバーネット領の地図。
横穴のそばに宿舎小屋がそれぞれ二棟ずつ。全部で40人バーネットから派遣してたんだって?」
また次の書面を渡す。
「これと、これが東鉱山の日誌とウォールヒルに送られてきた採掘量報告書。年間随分違ってきてるね」
次の書面を渡す。
「これが、輸送経路。ここに橋があるだろう?いつの間に造ったのかな?それと今回、二つ前の宿場町で台車が壊れたんだって?死者が出なくてよかったね。でも残念な事に今年は隣国には持っていけなかったとか」
次の書面。「これがバーネット領に現在鉄鉱石が保管されている場所を示す地図。…ね。良く調べてあるだろう?もう、これだけで〈横領罪〉が確定する」
バーネット公爵は国王に縋るように「横領罪は認めます!申し訳ございませんでした!しかし反逆罪とはあまりにも…」
国王は呆れたように「そうなんだよ。バーネット公爵家の執事が上手く隠すもんだから確たる証拠が見つからなくてね。私が手を引いてくれ、と言った時に引いておいてくれれば疑惑だけで終わっていたのに残念だよ」
「手…手を引くも…なにも…」
「まだそんな事を言うか?往生際の悪い」と国王は右手を挙げた。




