荒らされた執務室
四人の黒いマントを被った者が向かったであろう廊下には誰もいなかった。
きっとどこかの部屋に入ったのだろう。
金目の物があるジュエリーを管理している部屋?
美術品を管理している部屋?
どちらも鍵がないと入れない。鍵はお父様とフランツが管理している。きっと今は二つともフランツが持ってる。ランプの男が先に盗んでいた?
いろんな考えが頭をよぎる。
その時。微かな物音がして私達の耳がピクッと反応する。同時に私達はひとつのドアに目をやった。お父様の執務室だった。
静かにドアに歩み寄る。
ルークはいつのまにか手に剣を握っていた。
部屋の前までくると息を潜めて中の様子を窺う為に耳をすます。
ガサッ。バサッ。紙を踏みつけるような音、何かが崩れるような音がする。
「おい。音を立てるなよ。気付かれるぞ」
「わかっているが、これは無理だろう」
「……。極力気をつけてくれ」
「この中から見つけるのか?」
「……。そういう命令だ」
ドア越しだがわりと明瞭に聞こえてくる。
ルークに肩を掴まれた。振り返るとルークが頷く。そして「ここにいろよ」と一言言うと思いっきりドアを蹴破った。
「何者だ!」ルークの怒鳴り声が響いた。同時にルークが部屋に飛び込んでいった。
不意をつかれた四人だが、応戦の体制に入ったようで鞘から剣を抜くような金属が擦れたような音の後剣戟の音が響いた。
「ルーク…」と呟いた時。騒ぎを聞きつけたフランツ達が走ってくるのが見えた。後ろに何人も続いている。
部屋の中の四人も気がついたようで中のひとりが「撤収!」と叫ぶと窓を割って外へ飛び出し逃走した。後の三人もそれに続く。ルークもそれに続こうとしてフランツに大声で呼び止められていた。「深追いはいけません!」フランツの声にルークは窓に足をかけた状態で停止した。
部屋の中はひどい状態だった。
書類という書類が、ファイルというファイルが部屋中に散らばって床が見えない。更に窓が割られガラスが飛び散っている。その中でルークは剣を握り頬から血を流して立っていた。
「ルーク!」と駆け寄る。
「血が…」更に言うと、初めて自分の頬が傷ついた事を知ったルークは自分の頬に指を当て傷の具合を確かめた後「擦り傷だね。心配ないよ」と笑った。
こんな状態で笑えるなんて…私は震えて仕方ないのに…。
「坊ちゃま。大丈夫ですか?怪我は頬だけですか?」と心配そうにフランツが声をかけてきた。
「あぁ。そのようだ」とルークが全身を確認しながら答えた。
その言葉に安堵したように「では、頬の傷の処置をしましょう。マリア、お医者様を」といつの間にか後ろに控えていたマリアに声をかける。すぐさまマリアは手配をしに動いた。
フランツは私達に向き直ると「何があったのですか?」と問いかける。我にかえった私は「フランツ!大変!泥棒が!こんなに部屋をぐちゃぐちゃに…」
部屋を見まわしフッと息を吐いたフランツは「きちんと調べてみないとわかりませんが、きっと大丈夫だと思います。多分積んであったファイルが崩れて散らばっただけかと…」
「え?だってこの量よ?荒らされたのではなく?」
「ははは。まあ、それは…」と話し始めたフランツの言葉を遮るように廊下から声がした。
「あなた……これは…どういう事かしら?」と。
それは叔母様の声だった。
ドアの外。廊下には騒ぎを聞きつけて集まってきた使用人と叔父様と叔母様の姿があった。




