国王とバーネット
カールは部屋の中を見回す。
特に変わりはない。
執務机に急いで向かう。一番上の引き出しにはちゃんと鍵がかかっていた。念の為二番目の引き出しを引く。鍵はそこにあった。紙を挟んで。
鍵を取り出し、一番上の引き出しを解錠し中を確認する。出かける前と同じ配置であることを確認する。
「ホッ」と少し安堵の息を吐いたが、今度はすぐに暖炉に向かう。灰の中を火かき棒で均してみる。特に何もなく灰が散らばっただけだ…結果手紙盆の上に灰が少し落ちただけなのだが、それはあり得ない事だった。カールが手紙を燃やしたのは出かける前。手紙の盆がチェストに置かれたのは出かけた後だから。
今まで漠然とした不安が現実になった。
誰かが探っている。しかも、バーネット公爵だけでなく、カールのことも…。
バーネット公爵は帰還後すぐに王宮から呼び出しを受けた。このことが確信に至った。
「鉄鉱石の流出が国にばれた!」と。そして思った(いよいよ、ウォールヒルの出番だ)と。
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バーネット公爵は王宮のプライベートエリア、国王の私室に招かれていた。
「悪いね。急に呼び出して」とニコニコ笑ってバーネット公爵に話しかけた。
「いえ。とんでもないです。こんなプライベートエリアにご招待いただけるとは」と恐縮して頭を下げる。
「今回は突然の巡視隊帰還ルートの要請にもかかわらず快く引き受けてくれて感謝する。アーネストも従伯父上には良くしてもらったと、感謝していた。その話を聞いて久しぶりに会いたくなってね。」
そう言いながら国王はバーネット公爵に椅子を勧める。
バーネット公爵が勧められたソファに腰をかけるのを見て国王も反対側のソファに腰を下ろす。
テーブルの上には琥珀色をした酒が入ったボトルとグラスが2つ。クリームチーズが載ったカナッペやナッツ、数々のベリーを使ったタルトなどの軽食が並べられていた。その昔、子どもの頃目の前の従兄弟に話したバーネット公爵の好物だった。
国王は「今日は酒の席だから、タルトはあまり甘くないぞ」と言いながら、グラスに酒を注ぎバーネット公爵にわたす。
バーネット公爵は「さすがに、甘いタルトは食べなくなりましたな」と言いながら、酒が入ったグラスを受け取る。
「ふふ。そう思って、アーモンドケーキの上にはチーズクリームを載せてタルトにした。なかなかいけるぞ」
「では…」とタルトに手を伸ばし、フォークで器用に切り分けて一切れ口にする。アーモンドケーキの香ばしさ、チーズクリームのまろやかさ、ベリーの酸味が口に広がりバーネット公爵は頬を緩めた。
「かなりいけますな」と笑った。
「だろう?」と言い国王もタルトを口にする「美味いな」と微笑んだ。
暫く二人は昔話に興じた。子どもの頃の楽しい思い出だった。当時から国王家族は仲が良く、祖父である国王と祖母である王妃そしてその二人の息子である王子達とその家族。重責を担い苦い顔をすることが多い国王であったが、家族といる時は幸せそうに笑っていた。
そんな中で従兄弟同士の現国王とバーネット公爵は幸せな思い出を積み重ねていった。
「子どもの頃は楽しかったな」と感慨深く国王が言うと、「そうでしたな」とバーネット公爵も同意する。
そこで国王は「これからもずっと私達はそうでありたいと思っているんだ」と切り出した。
空気が変わった。
バーネット公爵は心臓がドクンと脈打った。しかし平然とした顔を作り国王を見た。背中には冷や汗が流れる。
国王は続ける。「バーネット公爵領から隣国ネイルロウ王国へ鉄鉱石の流出がある。と噂がある。ネイルロウが戦争の準備をしているとの噂も流れてきている」
国王は一旦言葉を切り。「単刀直入に聞く。バーネット公爵。君はネイルロウ王国と繋がっているのか?もし噂通りならすぐに手を切ってくれ。今ならまだ引き返せる」すがるようにバーネット公爵を見る。
バーネット公爵は混乱した。頭の中ではいろんな考えが交錯した。(バレた?)(いや、まだバレてない。噂だ)(落ち着け!)(まだ言い逃れできる!)
バーネット公爵は自分にも言い聞かせるように口を開いた。
「そんな根も葉もない噂はどこからきたのですか?だいたい我が領には鉄鉱山はありませんが…」
国王はホッとしたのか、落胆したのかわからない表情で「そうか……。そうだったな…そう」と一言言い…
気持ちを切り替えたかのようにグラスを持ちバーネット公爵に向かい「いや。噂だ。噂は怖いな!身辺はきちんとしておくに越したことはないな」と「悪かった。気を取り直して飲もう!」と言葉を重ね酒宴の席を続けた。
バーネット公爵はこの場はなんとか取り繕えたが、今後のことを思い、次の段取りを考えながら国王との酒宴を続けた。
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その頃、ティナはランスロットは元にいた。
そして、昼間、王宮での報告の結果を聞いていた。




