王都への帰還
窓の外を見ると、チラチラと雪が降っていた。昨日から時々雪がちらつくようになった。
きっとバーネット公爵領にはしっかり雪が降っているだろう。
「雪かぁ」と呟いた。
「ティナさまも、もうお戻りになりますね」とフランツも呟いた。
ここ暫くはウォールヒル侯爵邸は穏やかな時間が流れていた。調査報告書や証拠はまとめた。後はエストラーダ少公爵へ届けるだけだ。ルークはティナが戻るのが待ち遠しかった。
三日後、シエルからティナへあの可愛らしい封筒が届いた。
到着予定日とバーネット公爵領でわかったことが記されていた。最後に格納庫監視の人材を送ってほしい。とも。
それをいつものように皆で確認した。
フランツは「格納庫の監視の者をすぐに派遣します。それとティナさまからの手紙と共に例の横領された資金の流れの調査報告もきておりました。報告によりますと〈資金の一部はカール名義の口座に。残りは何名かの名義人を通してネイルロウ王国のカスケイドという者の口座に振り込まれておりました。〉と」
「ネイルロウのカスケイド?ネイルロウの重鎮にそのような名前の者がいるのか?」
「そこまではわかりませんでした。官僚にはなかったかと。なにぶん、国交はありますが微妙な関係なので、それ以上は難しく…」
「…確かに。そこまで調査できれば上等だよ、何かのキッカケでカスケイドに繋がるかもしれないしね」
「はい。ありがとうございます」
そしてルークは「この情報も報告すべきだな…」と調査報告書に書き足していた。
――――――――――――
ティナとランスロットは王都の外れの街道まで帰ってきていた。どちらからともなく、離れ難く、街道脇の草地で馬を降りた。ここからは別行動になる。
二人は「帰ってきたな」…「帰ってきたね」と王都の方を向き話していた。
突然ランスロットがティナを抱きすくめた。ティナは驚いたがされるままになっていた。
「ティナ…」
「うん?」
「楽しかったよ」
「うん、私も楽しかった」
「まだ終わってないから、頑張ろうな」
「うん、頑張ろう」
「ティナ…」
「うん?」
「気がついていると思うけど、俺はティナのことが好きだ。伝えておきたかった」
「ランス…。気がついていると思うけど、私もランスのことが好き…へへ」
「ティナ…」
そしてティナの額に柔らかいものが触れた。ランスロットの口付けだった。
ティナはランスロットの顔を見上げる。
エメラルドグリーンの瞳が優しく煌めいていた。
吸い寄せられるようにティナはランスロットの顔に手を伸ばす。ランスロットの頬に触れた手はそのままでティナはランスロットに誘われるように自然にランスロットの唇に口付けていた。
ハッとしてティナはランスロットから離れようとしたが、ランスロットはそれを許さず、腰を抱く手に力を込めて、今度はティナの唇に口付けを落としてきた。
二つの人影は暫く離れなかった。
後ろ髪を引かれる思いで二人はそれぞれの帰路についた。
――――――――――――
「おかえりなさいませ、ティナさま!」とエレナが迎えてくれた。かなり薄暗くなった頃、ティナは庭園から自室に戻った。
「ただいま!エレナ!長い間窮屈な思いをさせてしまったわね。ごめんなさい」
「いえ!いえ!大丈夫です。侍女長にいろいろ気遣っていただきましたから」
「ハグしたいけど、この格好じゃ…ね。すぐに湯を浴びて着替えるわね!待ってて!」と言うと、
エレナが「私が用意します!それは私の仕事です!」と浴室に駆け込んで行った。
エレナからティナ帰還の知らせを受けたルーク達はルークの執務室に集まってティナを待っていた。
ノック音の後、着替えを済ませたティナが入ってきた。
「ティナ!おかえり!」とルークが言ったのをきっかけに、
「ティナさま、おかえりなさい」
「ティナさま、おかえりなさい。まあまあ少し日に焼けましたね。それに少し痩せられましたか?」
「ティナさまおかえりなさいませ」と口々にティナの帰還を喜ぶ声が聞こえてきた。
「ただいま!みんな!長い間心配かけました!でも無事に帰ってきました…へへ」と言うと、ルークがハグしてきた。
「うん。少しだけ心配した。でも無事帰ってこられてよかった」と言った。
ティナはルークの顔を見上げて「?ルークなんか変わった?」
「そう?ティナこそなんか変わった気がする…」
二人は気づかなかったが、ルークは、青年らしさは残しつつも大人の雰囲気を醸し出していた。
ティナは、大人の女性らしい空気を纏っていた。
フランツやマリアは目を細め二人の様子を見つめていた。
ルークは気持ちを切り替えて「さて、ゆっくりしてもらいたいところだけれど、情報整理しよう」
皆は同意してテーブルの周りに集まった。
………
「私のいない間にもルークにはいろんなことがあったのね。驚いた」
「…あったね。…なんかいろいろ考えさせられたよ」
「そう…。クローディアさんの決断にも感謝しなきゃね」
「…そうだな」なんだかルークはまだ消化しきれない自分の気持ちを持て余していた。
「じゃあ、私は今から、ラン…補佐官様のところに報告書持って行ってくるわ!明日、王宮に報告に行くって聞いているから、この報告書も持って行ってもらいましょう」
「え?今から?今日は休めば?」
「全部解決したら休むわ!じゃ!」と言って部屋を出て行ってしまった。
取り残された者は「なんだろう?あのティナ…」と言うルークの言葉に頷いていた。マリアだけはなぜか微笑んでいた。




