クローディア 2
こんなに戸惑うのは初めてだった。自分や公爵のせいで、ひとつの家が困窮し始めている。
しかし彼女の家はバーネット公爵家門だ。余計なことはできない。昨日から悩んで心を決めたはずなのになかなか言葉が出なかった。
じっとルークを見ていたクローディアが先に口を開いた「侯爵様?大丈夫ですか?私に何かできることはありますか?」
その言葉をきっかけにルークは今、言えることだけを話し出した「君には随分無礼な真似をしてきた」
クローディアは黙って首を横に振る。
「そのせいで、君達君の家族は今大変なんじゃないのか?」とルークは尋ねた。
クローディアは少し驚いたようだが姿勢を正してルークに言った。
「隠しても無駄ですね。侯爵様にはお見通しなんですね。確かに今我が家は商売が上手くいってません。しかし誤解なさらないでください。それは侯爵様とは全く関係ありませんから」
「しかし…」
「父の言葉を借りて言わせていただきますと、私は利用されて、〈使えない〉から放逐されたんです。しかし、もし〈使えて〉いたら一生駒にされてしまいます。それは我が家の誰も幸せにはなりません…あ、これは母の言葉です。ですからこれでよかったんです。ですから侯爵様もそんな顔をなさらないで欲しいのです」
ルークはまだ言葉が出ない。
クローディアは続ける「それに私は侯爵様やティナーリア様に会えてよかったと感謝しています」
「感謝?」
「はい。私の未熟さが凄くはっきり、もうこれでもか。というほど露呈しました。ですので、私はこれから自分の内面を磨く事に集中しようと思っています。まず、学院の成績をあげようと最近頑張り始めました。侯爵様やティナーリア様の美しさは外見だけではないと痛感しましたから。侯爵様とティナーリア様と出会えたおかげです」
「いや、私の成績だってそんな褒められたものではなかったけどな…」とルークは苦笑いをした。
クローディアもつられて笑った。
「それで、お願い…とは?」
ルークは今度こそ覚悟を決めた。
「君の家にバーネット公爵家の執事、カールからの手紙はあるだろうか?もしあれば内密に私にくれないだろうか?もしもこの事がバーネット公爵側に知られたら、また君達に迷惑がかかる。それを理解した上で決めて欲しい。無理にとは言わない」
クローディアは「わかりました。少しお待ちいただけますか?すぐにお持ちしますから」とあっさり了承した。
ルークは「大丈夫なのか?無理はしないで欲しい」と言ったが
クローディアはケロリと「だって公爵は使えないんですもの。放逐して差し上げますわ」と笑って答えた。
家に着き、馬車を降りたクローディアは一度家に入り、暫くしたら大きな紙袋を持ってきた。リボンをつけて。
馬車の中のルークに「プレゼントです。煮るなり、焼くなりお好きなようになさってください」と笑って大きな紙袋を差し出してくれた。
ルークは「ありがとう、感謝する」と大きな紙袋を受け取り彼女に心から感謝の意を表した。
「どういたしまして、いつかまたお目にかかれるといいですね。その時まで自分磨き頑張りますから」
「そうだな、またいつか会えるといいな。その時はこの大きな紙袋いっぱいクッキーを詰めてリボンをつけて君にプレゼントするよ」
「わぁ。そんな未来が来るといいですね!楽しみです。ですからどうかお気をつけて」
「ありがとう、君も」
「はい。ありがとうございます。では」と言ってクローディアは馬車の扉を閉めた。
家に入ったクローディアに両親は尋ねた。
「渡せたかい?」
「ええ。全部ちゃんと渡せたわ。あとは侯爵様がなんとかしてくださいます。信じます」とクローディアが笑うと
クローディアの両親も「そうだな。なんか清々した。私達も新しい気持ちで頑張ろう」と言い。そのあとは家族で泣き笑いあった。
サザーランド子爵は暫くして地方に移り住み、再起をかけて商売を始めた。今度は誰の後ろ盾てもなく。
発車した馬車の中でルークは大きな紙袋を抱えていた。本当の重量よりも重く感じる。
ルークは自分に言い聞かせる。「何が起きているのかはっきりさせる。ちゃんと正しい判断をする。忘れるなよ俺」と。
侯爵邸に着きルークは執務室に入った。
後からついてきたフランツは黙って側にいてくれた。
ルークは抱えていた大きな紙袋の中身を無言で取り出し始めた。手紙の束。カールからのだけではなく、公爵からのものあった。それと…顧客名簿。よく見ると、公爵名義で贈り物を送った送付記録。カール名義で送った記録も入っていた。
ルークは驚いた。こんな大事なものを…と。
顧客名簿が流出するのは信用問題になる。
フランツが横から声をかける「ルークさま。今はお辛いでしょうが堪えてください」
ルークは黙って頷くそして「ああ、そうする。そして、こんな大事なものを命の危険も顧みず託してくれた人に感謝する」心の中でその言葉の後を付け足した(周りの人達、支えてくれた人達を守れるようになる)




