ルークの怒り
久しぶりにルークの登場です。
バーネット公爵から手紙を受け取ったルークは、執務室の椅子の背もたれに体重をかけ、天井を向いていた。フランツは側に控えている。
「ねぇ、フランツ。誰と誰が繋がっているか…。それを立証する〈動かぬ証拠〉って何が一番効力あると思う?」
「そうですねぇー。自白してくださるのが一番ですが、それが望めないのなら…やはり手紙でしょうか?ティナさまが持ち帰った〈手紙〉はリチャードの裏切りを決定付けましたから…あとは贈り物とか…」
「なるほどねぇ、そうか…そういえば、リチャードに送られてきた手紙は伯父上の筆跡ではなかったんだよね?もし伯父上がシラを切ったら、伯父上の責任ではなくなるんだよね?」
「そうなりますね。残念ながら」
「よし。伯父上からは手がかりが掴めそうな糸口は見つからないな…そうしたら…カールか?」
「カールが公爵の代書をしているとも考えられます」
「そうか。僕に今探れるのはそこか?カールの筆跡を手に入れよう」
「それが今一番良いでしょうね。どのようになさいますか?」
「カールは今どこにいる?伯父上に同行したのか?」
「特に何も書かれていませんでしたね」
「今夜、バーネット公爵邸に様子を見に行ってくる」
「かしこまりました、お気をつけて」
その夜、ルークは公爵邸の庭園にいた。
公爵邸の公爵のプライベートフロアには誰もいないようだ。カールの私室と思われる場所に灯は灯っていない。執事の執務室がある裏の方に回ろうとした時、玄関口の方で声がした。気になってそちらに移動する。
前庭の木の枝に身を潜め様子をうかがう。
玄関ホールからカールに押されるように男が出てきた。
その男は細身だが、身なりから貴族であろうことは想像できる。
「ですから、旦那様は既に領地に向けてご出発されましたので、屋敷にはおられません。どうぞお引き取りください」
「なぜですか?いつ、お発ちになったのですか?私は、ここ何日もお取次ぎをお願いに参っておりますのに…」
「さぁ。私にはなんとも申し上げられません」
「あなたが取り次ぎをしてくださらなかったのではありませんか?」
「私にはそんな権限はございません。大変申し訳ございません、どうぞお引き取りください」
と丁寧に頭を下げるが、全く申し訳なく思っているようには見えない。
男は肩を落とし屋敷をあとにして、質素な馬車に乗り去って行った。
ルークは気になり後を追うことにした。
高位貴族の屋敷が集まる場所を抜け、暫く走る。
富裕層の屋敷が建つエリアの中にその男の屋敷はあった。
馬車を降り、肩を落としたまま男は屋敷の中に入っていった。
ルークは、誰の屋敷なのか気になり屋敷の庭に隠れて
家の中が覗ける場所を探す。
少し屋敷からは離れるが木があったのでその枝に乗り暫く様子をうかがう。
――――――――――――
「ただいま。帰ったよ」と男が言った。
サロンからは妻が、階段の上からは娘が、帰ってきた夫の元に急いで寄ってきた。
「あなた。おかえりなさい。いかがでしたか?公爵様に会えましたか?」
「お父様。おかえりなさい」
「ただいま、公爵様は既に領地に向かわれていた。会えなかったよ」
「そうですか…」と妻は肩を落とす。
娘は「ごめんなさい。私が不甲斐ないばかりに…」と泣き出した。
「クローディア。そんなことはない。お前は利用されただけだ。これでよかったんだよ」
「そうよクローディア。そんなことにあなたを利用しては我が家の誰も幸せになれないわ。これでよかったのよ」と娘の母は娘の背中をさする。
「でも…でも…」あとの言葉は嗚咽で続かなかった。
――――――――――――
ルークはその様子を離れたところで見ていた。
わかっていた。きっとルークがクローディアのことを全く構わなかったからだ。
しかし、公爵の企みに乗ることもできなかった。
しかし、モヤモヤする気持ちを鎮めることはできなかった。心を整理するのに時間を要し、暫くその場に俯きとどまっていた。
気持ちが落ち着いてきた。ルークは心を決め顔をあげた。今までのルークには見られなかった公爵の横暴への怒りがルークのオッドアイをギラつかせていた。
翌日、ルークはクローディアの前に姿を現していた。
クローディアはルークのいつにない疲れた顔に驚いていた。
「サザーランド子爵令嬢。君にお願いがある」
クローディアはニコリと笑い「お話を聞かせていただけますか?」と言った。




