二人の旅 2
ティナとランスロットは、小屋から少し離れた柔らかい草が生えた大木の根元に自身のマントに包まり、フードを深く被り寄り添うように仮眠を取っていた。秋の朝は随分冷えるようになったが、二人の質の良いマントは体温を逃さず、さらに寄り添っている為相手の存在のおかげで、さほど外気の冷えを感じることはなかった。
目覚めたランスロットは自身にもたれかかるようにしているマントとフードに覆われたティナを見た。フードが邪魔をしてティナの様子はわからないが、穏やかに寝息をたてていることはわかる。なんとも幸せな気持ちに浸っていた。だんだん太陽が周りの空気を暖め始めた。ティナが目覚めたようで身じろぎをして、ふとこちらを向いた。ティナのオッドアイがランスロットを捉えた。ランスロットの心臓が強く打った。目が離せなかった。ティナも大きく目を見開き、朝日のせいなのか顔を赤くして、焦って体を離した。
「お…おはようございます!ランスさん。すみません、重かったですよね…」
「ふふ。おはようございます、ティナさん。全然重くないですよ。羽のように軽い…とは言いませんが…クスクス」
「ははは。さすがに〈羽〉は言い過ぎですからね。ふふ」
そして腰に巻いたバックの中をゴソゴソし出した。そして布の袋を二つ取り出しひとつをランスロットに渡した。
「?」と思いながら受けとり礼を言う。
「フランツがきっと役に立つから持っていけ、と渡してくれたものです。朝食代わりにどうぞ」
手のひらに収まる布袋には、数種類のナッツと切って乾燥させたりんご、いちじくが入っていた。まるで軍の非常食だ。
「フランツさん?」二人はナッツを食べながら話す。
「ええ。我が家の執事で魔王です。ふふふ。フランツは厳しいけど優しいんです。護身術の訓練なんか、ヘトヘトになっても、じゃあ本番はこれからですね!なんて…不満気にすると、これも侯爵家の為ですから…って言われると文句も言えなくなるんです。ふふふ」
「護身術はそのフランツさんから教わった…と?」
「はい。ルークも剣術の基礎はフランツ仕込みだそうです、時々手合わせしますが、一度もルークに勝ったことがありません…へへ」
「凄いですね……フランツ…フランツ。どこかで聞き覚えがあるなぁ」
ふと、思い出した。「フランツ・ハーバル」と呟いた。
ティナが「ご存知なんですか?」と驚いたようにこちらを向いた。
「噂でしか知らないんですけど、かなり強い騎士団の小隊長だった…としか」
「そうなんですか…今はそんな風には見えませんけど…確かに厳しいですがね」とその時ティナの耳がピクッと反応した。
ランスロットはティナの右目が光ったように見えた。
「皆さん起きてきたみたいですね。出発準備を始めたようですね」ここからは見えない小屋に視線を向ける。
すると、ランスロットは考えていたことを口にする。
「ティナさん。ティナさんの調査報告書には搬出要員は20人としてありましたね。それはあの小屋の人達のことですよね。向こうの人達も今日動くのではないでしょうか?」
「あ、昨日向こうの小屋の人達も最後の夜みたいなこと言ってましたね!……わかりました。私は向こうの人達の後を追います」
そして、持ってきた地図を広げ、ある地点を指差す。
「川のこの中洲のところに橋がかかっています。まずはここを合流地点にしましょう。そしてそこで合流できなければ、村の前の雑木林の出口で合流しましょう。それでも合流できなければ先に行ってください」
「わかりました、ではお願いします」とランスロットが言えば、
ティナは「承知しました。行ってきます」と言って雑木林の中を走って去って行った。
ティナの姿を見送ったランスロットは「聡いな…」と呟き、自分の仕事を始めた。
ティナは目的の小屋の近くの木の上にいた。
小屋の扉が開き男達が背中に荷物を背負って出てくる。そして、搬出口には行かずそのまま雑木林の中に入って行った。全員で20人だった。身軽な男達の話し声を聞き取ってみる。
「今回はひと月だったから、あんまり稼げなかったなー」
「雪の季節が終わったら、俺たちが一番だからその時は稼ごうぜ!」
「そうそう!順番だから仕方ないって」
「そうだなー仕方ないかー」と笑いあっている。
ティナは少し離れて着いて行った。雑木林を抜け川縁を左に逸れていく。(やはり橋に向かっているのね…)橋のたもとで一旦止まって時間を潰す。
反対側から、台車を押した男達が見えてきた。
「おー!きたきた!」「お疲れー」と口々に台車を押した団体に声をかける。台車を押した団体も遠くから「お疲れー」と返事をしているのが聞こえてくる。
二つの団体は合流して橋を渡り雑木林の中を手分けして台車を押しながら進んで行った。
団体を見送るとすぐにランスロットが追いついた。
「ティナさん。よかった、最初の合流地点で会えて」
「ええ。ほんとに、もし他に道があったらまずいな…って思ってました」
「じゃあ、行きましょう」二人は橋を渡った。
前回と同じく、台車を押した団体は村の前で待つ騎馬隊と車夫に台車を渡し、村に消えて行った。
騎馬隊はゆっくり村を後にして去って行った。
ティナは後を追おうとしてランスロットに止められた。そしてそこで地図を広げてみせた。それはバーネット公爵領の地図だった。
じっと地図を見ているティナに
「ふふ。一応私も国の役人ですからね…」
「確かに…そうですよね」
そして地図を指差し「予測では、この街道を最短ルートを使って国境付近まで行くのだと思います。途中、いくつかの分岐点があるので、そこは注意が必要ですが、ある程度先回りはできます。相手の移動速度を考えて一日分ずつ先回りしませんか?後からついていくと怪しまれますが、先に行く分にはリスクは低いでしょう」
「わかりました」
「それとティナさん。私達の格好は非常に怪しい人に見えませんか?」
自分の真っ黒な服にマントを見て「確かに」と言った。
「フードを外して、先に進み、そこで服を変えましょう。そしてティナさん。私達は今から恋人同士です」
「へ?」と素っ頓狂なティナの声を無視してランスロットはフードを外してティナの手を引き歩き出した。
ティナもつられてフードを外して、括った髪も解いてランスロットについて行った。




