二人の旅 1
夜。ティナとランスロットは近くの村で夕食を済ませ、馬を預け、起伏のある雑木林の中を歩いていた。
落葉した木々の間から月あかりがもれていているとはいえ暗い。ランスロットはカンテラを持ちティナの後をついてくる。ティナは月あかりだけで不自由なく前に進む。そんなティナを見てランスロットは(もう、彼女のどんな姿を見ても驚くことはやめようと心に誓った)
かなり歩いたと思う。灯のついた小屋が2棟見えてきた。ティナは歩みを止めた。ランスロットも隣に立つ。
「地図でお知らせしたのはあそこです」と小屋を指さした。
ランスロットは頷く。「搬出口はあちらの方ですか?」とうす暗く浮かぶ穴を指さす。
「そうです。あそこから緩やかな坂になってます。
もしよかったら行ってみますか?小屋の人達は今夜はもう出てこないと思います。結構お酒でできあがっているようですから」と小屋からはかなり離れているのにまるで話し声が聞こえているかのように言う。
ランスロットはびっくりしたが顔には出さずに「ええ、行きたいです。疑問に思っていることがあるので調べたいです」と伝えると、ティナは頷き搬出口に向かって歩き出した。
搬出口に立った時、ティナが足を止めて、左方向を見ている。
「あれは?」と呟いたティナの視線を追ってランスロットも左奥方向を見る。
かなり離れたところに灯がともっているのが見える。
ティナが「あそこにも小屋が…」
ランスロットはまた驚いたが、頭を振って気を取り直し「見えるんですか?いくつ小屋がありますか?」と聞いた。
ティナは視線を逸らさず「2棟です」とはっきり言い切った。
「なるほど、少し疑問が解けつつあります。では中に案内していただけますか?」
「わかりました。行きましょう」
そして二人は暗い坑道に入って行った。
坑道は思ったより広く整頓されていて、坑道片側には鉄鉱石を山と積んだ台車が五台並んでいて、その後ろには空の台車も数台並んでいた。
さらに先に進む。ティナはカンテラに頼らず進んでいく。先を行くティナの背中を見ながらランスロットは(彼女は一体何者なんだ?)と思った。
暫く行くと突き当たり、左右に坑道が伸びていた。
そこまでは後ろから風が吹き込んでいたが、三方向から風が吹き込むのか一瞬風が止んだ。
ティナはそこで一旦足を止めた。
「こちらから右に行くと、管理事務所があり、その先が警備員がいる坑道入り口になります。左にはまだ行ったことがありません」とティナが言う。
「ティナさんが実際にここを調査された…と?」
ティナは自分の失言に気がついて口籠もる「え…っと…。いえ、私ではなくて…」
ランスロットはそのティナの言葉に被せるように「ふふ。ごまかさなくても大丈夫ですよ。あなたの動きを見ていると、初めてここに入ってきた人ではないことくらいわかりますよ」
ごまかすのを諦めたティナは「実はそうです」とへへと笑った。
ランスロットは(ティナさんの困った時の笑い方を覚えましたよ)と思った。さらに(可愛いな)とも。
多分他の貴族の令嬢が同じ笑い方をしてもそうは思わなかっただろうことはランスロット自身気がついていなかった。
「では、どちらに向かわれますか?」と気を取り直したティナが聞いてきたので、ランスロットは迷わず左奥の方を指差した。
「…では、行きましょう」とティナの言葉を合図に二人は左奥へと歩き出した。
暫く行く。また風の流れが変わった。ランスロットはティナに「その先に、左方向に道があったりしますか?」と聞く。
ティナは「よくおわかりですね。少し先に左に続く道があるようです」
「では、そちらに案内してもらえますか?残念ながらカンテラの油が少なくなってきたようです。灯が弱くなってきました」
「では、手を繋いで行きましょう。案内します」とティナは手を差し出した。
ランスロットはティナの手をとり、二人は手を繋いで先に進んだ。
ランスロットと手を繋ぐティナの手は女性らしく細く嫋やかだが、まめができていた。
昨日の宿場町のガラの悪い男達を返り討ちにできた理由がわかったような気がした。(あなたという人は…)新しいティナの〈顔〉を見つける事ができたランスロットはうす暗い坑道の中で微笑んでいた。
坑道を左に曲がり暫く行く。こちらの坑道には空の台車が数台置いてあった。
新鮮な風が吹き込んでくるのを感じた。外に出たようだ。目の前に小屋が2棟建っていた。
「これって…」
「先ほど遠くに見えた灯がこれですね」
小屋の中からも賑やかな声が聞こえてくる。
今度はランスロットにも聞こえる。
お互い労をねぎらい、帰途への喜びを酒を酌み交わしながら話している。きっと今夜がここで過ごす最後の夜なのだろう。
ティナが「明日、出発のようですね。今夜はどこか近くで待機しますか?」とランスロットに聞いた。
ランスロットは「あなたも…ですか?大丈夫ですか?」と驚きながら聞くと、ティナはことも無げに「ええ。全然問題ありませんよ」と答えるのを頼もしく感じた。
「では、さっきの搬出口を出た方で待機しましょう」
「わかりました。あと、調べたいところはありませんか?」と聞いてくるので、
「残念ながら今回は無理そうです。灯を確保できません」と言うと。
「わかりました。では、このまま雑木林の中を抜けましょう。月明かりがあるので幾分歩き易いと思いますから」と提案され、二人は雑木林の中を手を繋いで移動して行った。
その頃。ルークの元にバーネット公爵から手紙が届いた。ランスロットからの情報通り、ティナの見舞いの言葉と共に暫く領地に行くことになったので、会えない。帰ったら連絡する。と書かれていた。
ルークは(ふーん。留守にするんだ。少しお邪魔しても大丈夫だよね)と密かに笑っているのを、手紙を持ってきたフランツはしっかり見ていた。




