そして再会
「!!」最初は驚いて声が出なかった。信じられなかった。じっとその女性を見ていた。
女性はそんなランスロットに気づかず宿の方に向かって歩いている。
この場所で名前を言うことはできなかったので「ご令嬢」と声をかけた。
その声に反応して視線をこちらに向けた女性は目を見開いて固まった。
固まっているティナに向かいランスロットは近寄った。
そして「全く…あなたは何度私を驚かせば済むのですか?」と声をかけた。しかしまだティナは固まっていた。
二人はかなり目立つ。ランスロットも背の高い騎士のようで目立つ。ティナも女性のわりには背が高く、高いところでひとつに括った艶のある黒髪が一際凛々しくみせているので目立ってしまう。
ランスロットは「ここでは目立ちますね、食事がまだなら近くの食堂に行きませんか?」と再び声をかけた。
やっと我にかえったティナはまだ言葉を発することができず、黙って頷いた。
食堂に入った二人は店の隅の席に座った。
注文を済ませ、落ち着いたところで、ランスロットはティナに向き、「一体、あなたはここで何をやっているんですか?」と少々乱暴に聞いた。
ティナは「え…っと。ひとり旅?」と目を泳がせながら言う。
「どこへ?」
「え…っと。領地?」
「なんでいちいち疑問形なんですか?」
「え…っと。もしかして私怒られているかな?と思って…へへ」
「へへ。じゃないです。侯爵殿はなんと?」
「絶対無理はするなよ!と」
「一体どうなってるんですか侯爵家は?びっくりしすぎて怒る気にもなりません!」
「あー。やっぱり…」
「なんですか?〈あー。やっぱり〉って」
「皆、怒る気にもならないらしくて…ため息つかれます…へへ」
「はぁぁー。全く…」
「やっぱり…ため息つきますよね。すみません」
「それより、絡んできた男達は?」
「ああ。木陰で休んでいらっしゃいます」
「………。」
「すみません」
「まぁ、無事ならいいですよ。仕方ないですから」
「やっぱり」
「ん?」
「仕方ないってよく言われます。すみません」
「フッ。仕方ないですね!食事はまだなんでしょ?先に食事にしましょう」
「はい。ありがとうございます。では」
食事の間も会話は弾んだ。旅の目的も一緒だと知ってティナはなぜか嬉しかった。
ランスロットが調査に出ると侯爵家にも伝えたそうだが、ティナは既に出発していたので知らないと言えば
「ふふ。嬉しい偶然というのもあるもんなんですね」と呟いた。
ティナはなぜかその言葉も嬉しかった。
宿も偶然一緒だった。明日の早朝に一緒に出発することにした。
その夜、ティナはふわふわする気分で床についた。
翌日、早朝。二人は愛馬に跨り今日の目的地、搬出口地点に向かった。
……………
「はいどうぞ」とランスロットが紙で包まれた物と竹筒の水筒を渡された。
「ありがとうございます」と受け取ったが、どうやればいいのかわからない。
ランスロットはティナの隣の草地に腰を下ろし、自分の手にある紙包みを上手に剥がした。中から燻製した肉と野菜を茶色いパンに挟んだサンドイッチが出てきた。
ランスロットはそれにかぶりつき美味そうに食べている。
それを見て理解したティナは同じようにして齧り付いた。「んー!美味しいですね!」実に楽しそうにそして美味しそうに食べるティナを見てランスロットは「また、あなたの別な〈顔〉を見ることができました」と笑った。
「ふふ。だから私の顔はひとつですって。ふふ」
「昨日はどうしたんですか?」
「昨日は、三つほど前の町に屋台というものが出ていまして、そこで串肉?というものと串に刺さったソーセージをいただきました。あ、それから屋台の女将さんがおまけで串に刺さったいちごをくださいました。美味しかったです。串って便利ですね!そのまま食べられるんですから。ふふ」
「ひとり旅はよくされるんですか?」
「いえ、全く。今回が初めてです」
「初めてですか…とても勇気がお有りになる。…あなたはとても不思議な方ですね。私の知ってる貴族の令嬢はいつも綺麗なドレスに身を包んで、日に焼けないように傘を差し、食事も小さく切って静かに食べる。外出するのも馬車を使い、歩くところは綺麗な道ばかり。今、私の隣にいるような令嬢には会ったことがない」
「あら、ではよかったですね。私みたいな者もいる。と知ることができて」
「あはは!確かに!そうですね。ええ!よかったです」
「そこ、笑うところですか?」
「ええ。楽しくてね、あなたのいろんな〈顔〉を知ることができて」
「また、〈顔〉だなんて…補佐官様こそとても不思議なことを仰る」
「旅の間は〈補佐官〉はやめてください。他の者に聞かれたら困ります…ランスと呼んでください」
「ランス様…」
「様はいりません、呼び捨てが難しいなら〈さん〉付けで我慢します」
「ランスさん。ですね、わかりました。では私のことはティナとお呼びください。私も家名で呼ばれるのは今は困りますから」
「わかりましたティナさん」
「はい。ランスさん」
二人の間には秋なのにあたたかい風が吹いていた。
食事休憩をした二人は再び目的地へ向かい旅を再開した。




