ティナ、旅へ
「うーん…別に何も考えてなかった。毎回、毎回懲りずによくやるなぁと思ってせっかくだから乗ってみただけよ」
「はぁぁー。なんだよそれ」と脱力する。
「でも…」
「ん?」
「今、思いついたんだけど、私これから病の床につくじゃない?その間ちょっと領地に行ってこようかな…と思うの。鉱石の運搬経路を探ってこようかと思って」
「本当に今思いついたのか?」と疑わしそうに言った。
「ホントよ!本当に今思いついたの!いい考えだと思わない?」
「はぁぁ。ティナぁ。家に帰って皆で会議だ!」
「はい。へへっ」
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ルークとティナに置いていかれたバーネット公爵夫妻はやっと我にかえり。
「調子が悪かったそうだ…私は今日はもう休む」と言ってダイニングから去っていった。
夫人も早々に自室に戻った。
自室に戻ったバーネット公爵はついてきたカールに
「あれはどういう事だ?」と尋ねた。
カールは落ち着いて「はい。いつもよりも濃いものを用意しました。多分それが効いたのかと…」
「今日もさっさと姿を消しおった。実は我々の思惑に気づいているのではないか?」
「私も最近不審に思い始めました。そろそろ次の行動に移った方がよいかもしれません」
「うむ。ではまず、見舞いの手紙でも送っておくか」
「それと、王宮から連絡がきております」と手紙の盆を差し出した。
中身を確認したバーネット公爵は
「ルークは後回しだ。巡視隊が月末に領内に入るらしい。全く…タイミングの悪い…領地に向かう」と言うと、
「かしこまりました。受け渡しを調整しないといけませんね。同行いたします」と伝えた。
――――――――――――
侯爵邸についた馬車からルークはティナを抱き抱え急いで屋敷に入っていった。そのままティナの部屋に駆け込む。
何が起きたのかと、フランツ、マリア、ポール、エレナがティナの部屋に駆け込んできたが、ティナがニコニコベットに座っているのを見て脱力する。
しかしすぐに立ち直って「ティナさま。今度は何をお考えですか?」とフランツが少々呆れ気味に聞いた。
ティナは馬車の中でルークに話したことを皆に話した。
「「「「はぁぁーティナさまぁ」」」」といっせいに皆頭を抱える。
「でも、もう決められたのでしょ?仕方ありませんね。本当に気をつけてくださいね」と一番にマリアが口を開いた。
「ええ。全て国にお任せ…では気が済まないもの。それに調査員は失敗するかもしれないでしょ?念の為よ」
「気持ちはわかるが…」とルークも理解を示すが、どうも割り切れないようである。
気持ちを切り替えたフランツが「わかりました、対策を練りましょう」
そして、ティナは領地に向かう準備を始めた。
二日後、ティナは領地に向かって出発した。今度は単身である。愛馬に跨り黒のマントに深くフードを被り夜明け前に出発していった。
散々皆に「絶対無理はするな!」と言われての出発だった。
そしてその夜、ティナの代わりにエストラーダ邸に手紙を取りに行って戻ってきたルークの執務室に皆が集まっていた。
手紙を確認した皆はまた大きなため息をついていた。
手紙には
・10月末に国境巡視隊がバーネット公爵領に入ることになった。
・おそらくバーネット公爵も領地入りすることになる。
・自身も調査に出るので、次の連絡は10日後になる
と、書かれてあった。
「はぁぁー。なんだよーティナが行く必要あった?」とルークは頭を抱えた。
――――――――――――
領地に向けて出発したティナの初日が終わった。
予定通り、目的の宿場町に到着した。
宿を取り、愛馬を預けた。真っ黒な衣装に黒いマントと勇ましい格好をしているが、女性のひとり旅。好奇の目が向かないはずはない。案の定、ガラの悪い男達に捕まった。
「よう。姉ちゃん。ひとりかい?」
あまりにもフランツから聞いていた通りに声をかけられたので笑いそうになった。
「ええ。そうよ」
「へっへっ。〈ええ。そうよ〉だってよー」
周りの男達も同じように下衆た笑いをこぼす。
ティナは(なんか面倒くさいなぁ)と思っていた。
「女のひとり旅は危ないよ。俺たちが護衛してやろうか?安くないけど。へっへっ」
「結構よ。ひとり旅楽しんでるから」
「俺たちとも楽しもうぜ」
「遠慮しておくわ。ひとり旅を楽しみたいから」
「まぁ。そう言わずによ」と男がティナの手首を捕まえにきた…が、ティナはすました顔で除けて、宿の方へ歩き出す。
男達が追いかけてきてティナの周りを囲む。
「しつこいわね」と一言言った途端男達がいっせいに掴み掛かってきた。しかしティナは軽くジャンプして男達の輪から抜け出した。しかし男達はしつこくティナを追いかける。
(ここは人の目がありすぎる)と思ったティナは近くの暗がりに逃げた。
「しめた!」とばかりに男達も後を追ってきた。
暗がりの中はティナのひとり舞台だった。
その騒ぎをたくさんの人が見ていて騒然としていた。
その騒然としているところに旅の男性が近くの人に声をかけた
「何かあったのですか?」
声をかけた人から聞いたところ、どうやらひとり旅の女性がガラの悪い男達に絡まれて暗がりに逃げ込んだようだ。ガラの悪い男達はこのあたりでは有名で、女性の安否を気にしていた。
旅の男は「女性のひとり旅って自殺行為ではないか」と呆れつつも、女性を助けようと暗がりに向かおうとしたところ、暗がりから噂の女性が平然と出てきた。
しかもよく知った顔だった。




