ネイルロウ王国
「ネイルロウ王国をご存知ですか?」という言葉から始まった。
「はい。勿論存じております」
頷いたランスロットは続ける「では、かの国は今どんな国かご存知ですか?」
ティナは何かを思い出すように話し出す「確か、何代か前の国王が国土を広げようと周りの国を侵略し始めて、その周りの国々に返り討ちにあって逆に国土を縮小せざるを得なくなった。と習いました」
「その通りです。かの国は以前は立派な港を持つ商業大国でした。資源が少ないので自国の工業発展にも熱心でした。周りの国とも良好な関係を保ちバランスの取れた治世が続いていました。しかし3代前の国王が選択を間違えました。さらに豊かに、さらに広く、と侵略しましたが失敗しました。国土は狭くなり、賠償金の支払いも国を疲弊させました。今も変わりません。しかし、今、かの国は戦争の準備をしているようだとの情報が入ってきました。しかし侵略が失敗した時すべての武器は接収されているのです。今のかの国は自国で一から武器を作らないと戦争なんてできません。他国の協力も得られない状況です。それほど周辺国はかの国を警戒しています。先の戦争時も商業で得た収益を武器や鉄鉱石購入に充てていました。
疲弊しているはずの国に武器、鉄鉱石を購入する財力はありません。ではどうやって武器、鉄鉱石を手に入れることができているのか。それが一番の疑問でした」
そこまで聞いてティナは思わず「東鉱山…」と呟いた。
「はい。おそらく。それに我が国は国土面積が広く鉱山が多数分布しています。国境が平野なので運搬も容易だと推測します」
「でも伯父様は…王家の…」
「はい。ですから、疑ってもいませんでした。むしろ辺境を守ってくれるとさえ思っていました」
「はぁぁぁー」とティナは顔を手で覆った。
「なんとしても、鉄鉱石の流出を防がねばなりません。それで、ここからは、あなた達にお願いなんです」
ティナはまだ動揺を隠せずにいたが、ランスロットの方に向き直った。「はい」
「今、暫くバーネット公爵の傀儡になっていただきたい。鉄鉱石無断搾取、密輸の動かぬ証拠を掴むまで油断させていただきたいのです」
「今までと然程変わりませんね。わかりました、お引き受けします」
「ありがとうございます。危険が及ばぬよう最大限の努力をいたします」
「よろしくお願いします」
「それから、昨日のパーティーで私といたが為にバーネット公爵からしたら要注意人物になっているかもしれません。軽率でした申し訳ありません。ですので目立つところでの接触は無理でしょう、誰か秘密裏に動いてくれる連絡係を紹介してもらえませんか?」
「わかりました。私の方で手配いたします。どうぞ気に病まないでください。あの時は連れ出してもらってありがたかったですから。それで連絡方法はいかがしますか?」
「お任せします。ウォールヒル側の連絡がし易いようにしてもらえれば合わせます」
ティナは少し考えて
「補佐官様のご自宅の部屋にはバルコニーはございますか?」
「え?バルコニーですか?…はい。私室のリビングには付いていますが…??」
「わかりました。何日毎の連絡が必要ですか?」
「そうですね、最初は最低二日に一度は…」
「承知しました。では、明日から一日おきにご自宅のバルコニー扉外側に連絡書類を吊っておいてください。特に連絡がない時は……リボンでも括っておいてください。こちらも連絡があればそちらに吊るさせてもらいます。吊るされた書類はもとよりリボンも確認したら取り去っておきます。これで連絡が取れたか取れてないかわかるでしょ?」
「なるほど、で、どなたが連絡係に?」
「それは秘密です。でも信用のおける者なのでご安心くださいね」
ティナは軽く言ったが、ランスロットは「信用のおける者ですか…」と不審気に言った。
横で聞いていたエレナはもう〈無〉になってただ表情を消すのに集中した。
その日の夜。
ランスロットは王宮の宰相補佐官室で、ウォールヒル家からもたらされた資料を読み込んでいた。
ぶつぶつ言いながら、何かを目で追いかけている。
「…、足りないな…」
一年分の日誌、ルークの計算書…現段階での疑問点の覚書…突然、ガタッ!っと立ち上がり、急いで部屋を出て宰相室に向かった。
翌日、ランスロットの私室バルコニーに手紙が吊るされた。
ランスロットは一体何者が連絡係になったのか、信用のおける者とは一体どんな奴なのか気になって仕方がなかった。今までのランスロットからは考えられない感情だった。
朝、手紙を吊るしたが、夕方帰宅した時もまだ吊るされていた。そして夕食後に確認してもまだ吊るされていた。(いつ、取りに来るんだ?)今日は連絡係のことが気になり強引に帰宅した。それなのにそろそろ寝なくてはいけない時間だ。(だいたいの時間がわかれば動き易くなるな…)と思いバルコニーの手紙を取る為にバルコニーに出た。
既に手紙は持ち去られ、ウォールヒルからの手紙が吊るされていた。
「!!。いつの間に…夕食後はこの部屋にいたのに…」バルコニーでひとり呟くランスロットだった。




