夜会のあと
バーネット公爵家の馬車が屋敷に着いた
カールが恭しく一行を出迎える。
馬車から降りた公爵は執務室へ、夫人とクローディアはそれぞれ自室に下がって行った。
執務室に入るなりバーネット公爵は上着を脱ぎソファに投げ出し、執務机の椅子にドサッと沈み込む。
背もたれに後頭部を預け、天井に向かい「はぁー」っと大きく息を吐く。
カールは公爵が口を開くのを執務机の前で待っている。…「カール」声がかかる。
「はい」
「クローディアはもういい、全く役に立たない」
「かしこまりました」と短く答える。
「それから…ティナーリアを監視しろ」
「………?なにかございましたか?」
「エストラーダの倅と踊っておった」
「…かしこまりました。ただ、屋敷に間者を送り込むのは少し難しいかと」
「なにかあったのか?」
「デニスが解雇されました」
「なぜ?」
「窃盗を働いたようです。盗んだ物を質屋で換金したのを咎められました」
「気付かれたわけではないのだな…。全く、どいつもこいつも…」
「何か方法を考えます」
「うむ、頼んだ」
執務室から下がったカールは何か漠然とした不安を拭いきれなかった。少し冷静にならなければ…と思いながら自分の執務室に戻って行った。
―――――――――――
翌朝、国王執務室。
「はぁ。繋がったな…」と国王が呟く。
「はい。繋がりました…」と宰相が答える
国王執務机の上には、ルークが提出した請願書と書類や証拠などが並んでいる。
「ふぅ……」椅子にもたれ、上を見る国王。
「心中お察し申し上げます」そして続ける「しかしこれだけでは証拠になりません。もう少し調査しなければいけません」
「そうだな…で、どうするのだ?」
「今暫くウォールヒル侯爵に協力してもらおうかと思ってます」
「そうか。成人したばかりなのにな…」
「昨夜、披露パーティーに行って参りました。なかなか聡い二人でございました。きっと大丈夫だと思います」
「ほぅ。珍しいな、そなたが人を褒めるなんて」
「そんなことは…ふふ」
「して、総指揮は?」
「息子が、ランスロットが名乗りを上げました」
「それもまた珍しいな」
「はい」少し笑みになる宰相。
「ん?何かあるのか?」
「いえ、特には…」
「この書類を持ち込んだのは娘の方か?」
「はい」
「ふーん。なるほどね」
「ふふ」
「さて、我々は我々のやるべき事をやろう。少し揺さぶるか?」
「御意」
国王達の計画も動き出した。
――――――――――――
その日の午後3時。約束のフーフルにティナはエレナを伴い来店していた。
入店して名前を伝えると、速やかに個室に案内された。注文を済ませ、久しぶりにエレナとのんびりした時間に話も弾んでいた。
暫くすると、背の高い給仕が注文したケーキとお茶のセットを持ってきた。そして「こちらはお勧めの焼き菓子です。お試しください」と注文していない焼き菓子の皿を差し出しながら言った。
「え?」聞き覚えのある声にその給仕の顔を見ると、そこには給仕の衣装に身を包んだランスロットだった。
「なぜ、ここに?」と思わず立ち上がりランスロットを驚きの顔で見る。「それにその格好…」
「ふふ。驚きましたか?やった!」
「わざわざその格好をされたんですか?」
「いえいえ、ここは私の趣味の店でね、時々こうやって顔を出しているんですよ。表向きのオーナーは別の者の名前でやっていますが…内緒ですよ。両親も知りません」とイタズラっぽく笑った。
「はぁ。驚きました…」とストンと椅子に腰掛けた。
エレナはまだ立ったままだ。
「侍女の方もどうぞかけてください」とエレナに椅子を勧める。
エレナはティナの方を見て、ティナが頷くのを確認して席に着いた。
「私も同席しても?」とランスロットが聞くのでティナは「勿論です、どうぞ」と答えた。
エレナが遠慮しようとするのを見てランスロットは「あなたも招待したので是非一緒にお茶をして欲しい」と願えばエレナは断れる筈もなかった。
そして暫く三人でお茶やお菓子を楽しんだ。
ランスロットはとても気さくで、最初は恐縮していたエレナもいつの間にかリラックスして三人での会話も弾んだ。
そして、穏やかな時間が流れたあと「ここから少し真面目な話になります」と前置きをすると、エレナが席を外そうとしたので、ランスロットは「エレナさん、あなたはすべての事情をご存知のようだ、よろしければこれからの話にもご同席いただいても?」と最後はティナに向けて言った。
「はい、是非お願いいたします。エレナは最初から私達と共に行動しておりました。すべての事情を存じております」
ランスロットはその言葉に頷くと話出した。
「ウォールヒル嬢。私は昨日〈あなたから欲しかった情報をもらった〉と言いましたね、まずそこから話します」
背筋に悪寒が走った。何かとんでもない事を今から聞くのではないかと。




