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前世は猫でしたので  作者: KAE


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補佐官室

宰相補佐官室に足を踏み入れたティナは少し驚いた。

高位文官の部屋は整理された執務室を想像したが、どうやら違うらしい。机の上、サイドテーブルに資料らしき書類が山積みになり、書棚にはファイルされたものがびっしり詰まって、入りきらないものはその上に横積みされている。書棚の前にはいくつかの箱が並んでいて、比較的雑然とした空間になっていた。

真ん中の応接用のソファとテーブルには何も置かれていない、なぜかそこだけ浮いて見えた。


「どうぞ、こちらに」と案内されたソファに請願書がこれ以上シワにならないように気をつけて腰を下ろす。


補佐官が前のソファに腰を下ろし、本題に入る。


「それで、ご相談とは?」


ティナは緊張でゴクリと唾を飲み込んで話出した。

「もしかしたら、大変不敬な話になります。しかし、わたくし共も我が家門を守る為にできる限りの事は調べました。決して国に王家に仇を成すつもりは毛頭ございませんことをどうかお汲み取りいただきたく、僭越ながらまずお願い申し上げる所存でございます」


補佐官は穏やかに「わかりました。仮に不敬にあたる誤解があったとしても、ウォールヒル家を糾弾することはしないとお約束いたしましょう」


ティナはその言葉に安堵の息をこぼした。


補佐官は「ふふ。そう緊張なさらず…お話を聞かせてもらえますか?」


「ありがとうございます。では少し失礼して…」

と、ソファから立ち上がり、腰の後ろのリボンをずらしてスカートの中に手を入れた。


補佐官は驚いて「ウォールヒル侯爵令嬢!一体何を…」と声をあげたが、ティナは「申し訳ございません。少しお待ちいただけますか?」と平然として言うので、口をつぐんでしまった。

まもなくティナのスカートの中から封筒が出てきた。


補佐官はただ驚いて目を見張っていた。

しかしティナはそんな補佐官に構わず話を進める。

「まずは。こちらをご確認いただきたいのです。本日、爵位を継承しました我が兄、ルーク・アウルム・ウォールヒル侯爵よりの請願書でございます。きっかけになった父の手紙とわたくし共が調査をいたしました調査報告書及び証拠になりうる物も同封してございます」


補佐官は驚きつつも封筒を受け取り中を確認する為に書類の束を取り出し、目を通し始めた。


書類をひとつひとつ確認し読み進める補佐官の顔がどんどん真剣になる。ティナの存在など無いかのように書類を読む事に没頭していった。


ひと通り書類を確認した補佐官が顔を上げティナを見る。


「これは…」言葉が続かないようだ。


「はい。もしかしたらわたくし共は見当違いな事をしているのでは、これは国のご意志なのではないか、とも考えました。しかし不安がぬぐいきれませんでした。そこで、わたくし共の国家への忠誠に揺るぎはないことをお伝えすると共にこの不安の払拭にお力を貸していただけないかとお願いにあがった次第でございます」


「わかりました。早速宰相に話を通しましょう。

それにしても、侯爵殿は大変な思いをされたようですね。お見舞い申し上げる。そして遅くなりましたが、ご両親のこと、お悔やみ申し上げます」


「ありがとうございます」


「しかし侯爵家は優秀な調査官がいるようだ。羨ましいですね」と補佐官が言うとティナは「ありがとうございます」と少し恥じらう仕草を見せた。

ティナは自分が褒められていると思い恥ずかしくなったのだが、補佐官は違う意味にとったらしく、少し目つきが鋭くなった。しかしティナは補佐官のそんな視線に全く気づかなかった。


「少しここでお待ちいただけますか?」と補佐官が尋ねてきたので、「はい」と短く答えた。


そのまま補佐官は部屋を出て行った。


補佐官が部屋を出て行くのをソファから立って見送り、扉が閉まるのを確認するとドカッっとソファに沈んだ。「あーー!緊張したぁー!」とだらしなく座る。まだ心臓がドキドキしている。

窓を見ると少し日が傾きかけていた。

「結構時間が経ったのね。ルークはもう帰ったわね」と独り言を言った。そして(やることはやった。あとは国がどう対処してくるか…だ。ダメだったらもう逃げるしかないな…)と改めて思うのだった。


日がかなり傾き夕闇が追いかけてきた頃、補佐官室の扉が開き補佐官が入ってくる。

「大変お待たせしてしまいましたね、申し訳ありません」


ティナは立ち上がって補佐官を迎え「とんでもございません。返ってお手数をおかけしたのでは?」と懸念を表した。


「とんでもないですよ。とても貴重な情報をお持ちいただきありがたく思っています」


「え?それでは…」と少し期待して補佐官の目を見る。


補佐官は「はい。我々はウォールヒル侯爵家に協力したい…いえ、協力を仰ぎたいと思っています」


「え?仰ぎたい?」


「はい。今は詳しくご説明できませんが、上の者と相談して改めてご連絡を取りたいと思っています」


「はい」


「つかぬことをおうかがいしますが、甘いものはお好きですか?」


「?…はい」


「そうですか。コンフォート通りにあるフーフルというお店をご存知ですか?」


知ってるもなにも、美味しいケーキや菓子が売ってる店だ。カフェスペースもあり、いつも満席で、並んでも入りたいと行列ができるほどの大人気店だ。


「はい。勿論知ってます」


「では明日、午後3時にあなたの名前で予約を入れておきます。是非楽しんでください。どなたかと一緒にいらしてもいいですよ。何名で予約を入れましょう?」


話が読めない。しかし、〈絶対来なさいよ〉という圧を感じる。


「では、侍女を連れて参ります。よろしくお願いいたします」と伝えた。


「わかりました。二名で予約を入れておきますね」


「ありがとうございます」


「さて、随分遅くなってしまいましたね。今夜は披露の夜会ですか?」


「はい」


「お屋敷まで送りましょう」と補佐官が言いかけたところで扉がノックされた。


ティナはビクッっと一瞬緊張したが、補佐官がすぐに「失礼」と言って出て行った。

耳をすませば扉の向こうで「宰相閣下がお呼びですが…」「そうか。じゃあ少し待ってもらえるか?」

「とてもお急ぎのようですよ」などと話しているのが聞こえてくる。


ティナは「では、私はここで失礼しますー」と言って隣の資料室に消えた。


話が終わった補佐官が戻ってきた時にはティナの姿はどこにもなかった。





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