晩餐の後
晩餐がお開きになり、さらに纏わりついてくるクローディアを振り切って、馬車に戻ってきた。
中にはポールしかいなかった。
「ルークさまおかえりなさい。残念ながら全く側に近寄らせてもらえませんでした」聞くと、何人かの侍従に捕まり別室で茶をしながら部屋から出してもらえなかったそうだ。
「それは災難だったな、でも大丈夫だったよ。ティナが上手くやってくれたみたいだ」と言うと
「ティナさまはまだお戻りではありませんが…」
「おかしいな、戻ってきていてもいい時間だが…」
暫くルークは思案して「ポール、馬車を出してくれ。公爵邸を出て少し先で僕をおろしてくれ。ポールはそこで待機だ」そう告げると
「かしこまりました。目立たないように待機しております」と心得たように返事をした。
馬車を降り公爵邸に引き返す。
以前、公爵の私室を覗いた所にティナはいた。
「やはりここだったか、さっきは助かったよ、ありがとう」と小声で言うと、ティナは笑って頷いた。
そしてルークの視線を促すように自身の視線を公爵の私室に戻した。
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公爵はカールに付き添われ異常酩酊の状態で私室に戻ってきていた。相変わらず息は荒く苦しい。
公爵は心の中で(くそっ)っと悪態をつきながら、カールに途切れ途切れな言葉で指示を出す。
「あつ…い。ま…どをあ…けろ」
「げど…く…ざいを…は…やく」
カールは公爵をベッドに運び「かしこまりました」と私室の部屋の窓を全て全開にして部屋を後にするが、すぐに戻ってきて公爵に小瓶を渡す。
公爵はそれを一気に煽り空になった瓶をサイドテーブルに乱暴に叩きつけた。反動でから瓶は床に転がる。
公爵が瓶をカラにしたのを確認して「もう少し我慢してください。半刻もすれば薬が効いてくるでしょう」
と言う。
公爵はその声には反応せず「み…ず…」と発した。
カールは「すぐにお待ちいたします」と部屋を後にした。
公爵はひとり、部屋のベッドで荒い息を吐き続けている。
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その様子を見ていた二人は
「ねぇ、あれって解毒剤?」
「…そうみたいだな」
「あれ、持って帰れないかなぁ」
「オッケー。近づいてみよう。ティナはここで待ってて、何かあったらフォローを頼む」
ルークは素早く庭園に降り、公爵の私室に一番近い木に登りバルコニーや壁の張り出しを上手く使い公爵の私室のバルコニーにたどり着いた。物陰に隠れ様子をうかがう。公爵は自分のことで精一杯で周りを気にする様子はない。暫くベッドの上で寝返りを繰り返し楽な姿勢を探しているようだったが、膝を抱え背中を丸めてうずくまる格好に落ち着いたようだ。荒い息を吐きながらも、こちらに背を向けて丸くなっている。
その隙にルークは部屋に侵入し、目的の小瓶を拾い素早くティナがいる所に戻ってきた。
「持ってきたよ」と笑うとティナも音を立てずに手を叩いて「お疲れ〜」と笑った。
そのまま二人の姿は庭園から消えた。
無事に二人は馬車に戻り、侯爵邸に戻る車内でお互い見たものを報告し合い笑い転げていた。
「いやー参ったよー。いきなりどこの誰かもわからない女紹介されるしさ。纏わりつかれるし、その中で何が出てくるかわからない恐怖…一体なんの苦行だよー」
「最初はお酒にでも細工するのかと思ったけど、まさか氷菓子とは…ふふふ。焦ったわぁー全部同じに見えるんだもん!クックック…それにあんな子ども騙しが通用するとは…夜で、晩餐でよかったわぁー」
「それに、見たか?あの公爵の様子。ざまーみろ!だよ」
「ホントね。かなり苦しそうだったわね。あースッキリしたわぁー」
ポールが楽しそうな二人の姿を見ながら「私は部屋に閉じ込められただけでしたね」と申し訳なさそうに言うと
ティナが「あら、だからなのね。三、四人もポールにかかりっきりだったから配膳が大変だったのね!結構人手不足だったみたいよ。だから隙ができたのかも」
「少しでもお役に立てたならよかったです」とホッとしたようだった。
馬車の中は僅かな達成感に包まれて侯爵邸に帰って行った。
侯爵邸に着くと、ルークとポールはフランツ、マリアに出迎えられた。「おかえりなさいませ。無事のご帰還何よりです」とフランツが出迎えの挨拶をすると
「ただいま!ねぇ聞いてくれよー今日さ…。いや、皆執務室に行こう」と気持ちを抑えて執務室への移動を促した。
ティナは途中から別行動である。さすがに真っ黒な格好で真正面から帰れない。スッと自室のバルコニーに着地する。すかさずエレナが部屋から出てきて出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。無事のお戻り何よりです」とティナに言うと
「ただいま、エレナ。ねぇ聞いて!伯父…いえ、公爵ったらね…あ、多分皆執務室に行くわね。先に移動しましょう」とこちらも話したい気持ちを抑えて、いつものドレスに着替えるのだった。




