リチャード
林を抜ける。町の裏手を抜けて少し行けば目的の領邸があった。領邸の裏手から様子をうかがう。
皆、忙しそうに働いている。領主の娘がしばらく滞在するのだからそれなりに用意が必要なのであろう。
先ずは、代官のリチャードね。と思い執務室のある方に足を向けた。その時、玄関の方で声がした。
「ちわぁー!郵便です」
「あら、こんにちは。いつもありがとうございます」
「はい、これです。…それにしても今日はお忙しそうですね」
「そうなんですよ、お嬢様がしばらくこちらに滞在される事になって、今日、到着されるので準備の追い込みなんです。みんな張り切っちゃって…うふふ」
「そうだったんですね。あんな事があったから今年はどうされるのかなと思ってました」
「突然でしたからね、でもこちらにもいらしていただけるようなので安心したところだったんですよ」
などと世間話をした後、束になった郵便を受け取り、それぞれの仕事に戻っていった。
郵便を受け取ったメイドは郵便トレイにそれを入れ執務室に向かったところで他のメイドに声をかけられた。
「ねぇ、手空いてない?さっき先ぶれがあってお嬢様の一行、人数ひとり増えるんだって」
「五人になるの?どなた?」
「それが、御者見習いの子どもだって…」
「へぇ。珍しいわね、という事は、お嬢様とエレナさん、護衛と御者と御者見習いちゃん?」
「そういう事。寝具用意しなきゃ。手が空いてたら手伝って!すぐに済むから」
「いいわよ。手紙は後にするわ」
「ありがとう、助かる。」
「ところで今回の護衛は誰?」
「うふふ。バートさん」
「え?やった!」
「バートさんがいいの?」
「かっこいいじゃない」
「時々怖いけどね」
「言えてる」と笑いながら手紙の盆をチェストの上に置いて二人のメイドは出ていった。
その様子を影から見ていたティナは素早く手紙の盆を持ち近くの納戸に隠れた。
(タイミングいいわね。それにしても結構あるのね。)
そう思いながら、宛先と差出人を確認する。代官宛の手紙の中には東鉱山責任者から一通。南鉱山責任者から一通あった。これを一応持っていこうか…と思いながら他の手紙を確認していたら、差出人不明の手紙が二通出てきた。不審に思い目を凝らしてよく眺めて見ると封筒の隅に小さくBRとあった。「!」差出人名があるのは全て盆に戻し、BRとあった手紙二通は持っていくことにした。
盆を元のチェストの上に戻し、屋敷を出て、執務室の方に移動する。
庭園の木々の茂みの中、執務室の窓が見える場所にティナはいた。
執務室の中にはリチャードが執務机に向かい、窓に背を向けている。暫くすると先ほどのメイドが手紙の盆を持って入室してくる。手紙を受け取り机の上で何かをしている。徐に立ち上がり暫く机の前を右に左にウロウロしていたかと思うと、机の下に手を入れ何かを取り出した。鍵だ。その鍵を使って引き出しを開け中の物を机の上に出し、板を取り出し、その下から手紙のような物の束を取り出し、部屋を出ていった。
ティナは玄関の方に回るが誰も出てこない。
(どこへ行ったのかしら?)と思っていたら、なにか焦げるような匂いが漂ってきた。匂いの元に急ぐ。
そこにリチャードがいた。先ほどの物を燃やしていた。(あらぁー燃やしちゃったのねー)
燃え切るのを見届けたリチャードは踵を返し屋敷に戻っていった。
あたりに人気がないのを確認して燃やした物を確認に行く。ほぼ燃え切っていたが、かろうじて燃え残りがあったので一応それも回収した。(何かの役に立つかもしれないもんね)
それから屋敷を後にし、事前に調べておいた丘の方に向かった。
誰もいない丘の上で、周りの景色を見回す。
左手下の方には巨大な穴が掘られている。東鉱山であろう。そして右手前方かなり遠くに小さな岩山が見える。あれはきっと南鉱山だろう。
「南鉱山までは結構遠いなぁー。一日じゃ無理ね」と独り言を言う。
日が傾き始めていた。
(そろそろ戻らないと…)と思い、合流地点に急ぐ為丘を後にした。
その頃、バートとベックに町の商店で少し買い物をしたいと伝えたエレナはドキドキしていた。
そろそろ町の商店が集まる場所の馬車留めに到着する。「もう着いちゃいますよ…ティナさま早く戻ってきて…」と祈るような気持ちでいた。
ガタン。馬車のドアの前からベックの声がした。
「ティナーリアさま。到着しました」
(あー…着いちゃいました…どうしましょう…)
エレナの背中に冷や汗が伝う。
「ティナーリアさま?」とさらにベックの声。
「あら。着いたのね!寝ちゃってたわ。ごめんなさいすぐに出るわ」
エレナのすぐ後ろに少し汗ばんだティナがいた。




