東鉱山 1
少し微睡んだ後。
「帰ろうか?」 「ええ。帰りましょう」と言い合って、ティナとランスロットは重い腰を上げて出発準備にかかった。
果物と冷えたお茶で朝食をすまし、まずは中洲にかかっている橋の様子を見るために上流の方に向かった。
橋がかかっている場所まで来ると、荷馬車を近くの大木の側に停めて、橋に近寄り状態を確認した。
川の流れは早かったが、橋は問題なく、中洲も流れに呑まれるようなことはなかった。
(よかった。大丈夫だ)と二人で頷き合って、荷馬車に戻ろうとしたティナの耳に誰かが話す声が聞こえてきた。
不意に足を止めたティナに「どうした?」とランスロットは振り向いた。
「この先で子どもの声がするの」と橋を渡った先を指差した。
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その頃、ティナ達と交流があった村では子どもがいなくなったと騒ぎになっていた。
「マルクー!」
「マット!」
「ジャック!」村人達が大声で子ども達の名前を呼んでいるが、それに反応する子はいない。
今朝、三人は村の広場に行くと言って出かけた…が姿が見当たらない。思い当たるところは探した。
まさか、村の外に出たのではないか?と皆が思い始めた時、ジャックの母親が「あの子、もしかして鉱山に向かったのでは…」と心配事を口にした。
「え?」と皆が驚き、ジャックの母親に話を聞いた。
昨夜のことである。
ジャックの父親が酒に酔い最近の生活の愚痴を言った
「まったく、上手くいかねぇなぁー。鉱石を運んでいる時はこんなことなかったのによぉー」
それを聞いたジャックの母親は「あんたの本来の仕事は畑を耕すことさ。鉱石掘りはたまたまもらった〈ご褒美〉みたいなものさ。ご褒美はもうもらったんだからちゃんと仕事をしなきゃ」となだめた。
最近はこんなやりとりが時々ある。それを脇で聞いていたジャックは「鉱石を運べばご褒美がもらえたの?」と父親に聞いた。
ジャックの父親は「そうさ!赤い鉱石を運べばたくさんご褒美がもらえたんだ。ほら、そのご褒美で窓や屋根の修理ができただろう?」と家の窓を指差した。
それを聞いたジャックの母親は「そのご褒美でちゃんと修理できたんだから、あとはお仕事頑張ればいいのさ」と二人に話した。
しかしジャックの父親は「でもよぉ。もっとご褒美は欲しいじゃないかぁー」と酔い潰れそうになって呟いている。
ジャックの母親は呆れながら「はい、はい。そうだね、もう今日は寝た方がいいよ!おやすみ」と言って父親をベッドに連れて行った。
ジャックはそのやりとりを黙って見ていた。
その話を聞いたジャックの父親は青い顔をして自分の失言を悔やんでいたが、周りはそんなジャックの父親を励まし「絶対に鉱山に行ったとは言えないが一応何人かは鉱山の方にも探しに行くことにしよう」と提案して、マルクとマットとジャックの父親と他に三人の村人で鉱山に向かうことにした。
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雑木林の中、鉱山に向かう小道をマルクとマットとジャックは歩いていた。
「ねぇー。今からでも引き返そうよー」とマルクが二人を止めようとするが
ジャックは「ちょっと行って〈赤い鉱石〉を拾ってくるだけだよ!そしたらご褒美がもらえるんだぜ」
マットは「ご褒美をもらうには前に見た大きい箱にたくさん入れないとご褒美はもらえないんじゃないのか?」とジャックに聞く。
「たくさんご褒美をもらおうとするから大きい箱が必要になるんだ。少しのご褒美でいいなら少しの鉱石でもいいと思わないか?」
マルクとマットはジャックの言葉に何も言い返せないままズルズルとジャックについてかなりの距離を歩いてきた。目の前に鉱山への入り口らしき穴が見える。
「あれが、そうなの?」とマットが不安そうに聞く。
ジャックが「きっとそうだ。きっとあのあたりに父さん達が泊まっていた小屋があったんだ」と材木が積み上がったあたりを指差した。
「ねぇ。もう帰ろうよ!なんか怖いよ」とマルクは泣きそうになっている。
マットも「なんかあの穴不気味だよ。それに赤い鉱石なんて無いじゃないか…やっぱりやめた方がいいよ」
と言い出した。
「大丈夫だよ、ちょっと入ってみてなにもなければ引き返せばいいじゃないか…ちょっと覗いてみようぜ」とジャックは二人を説き伏せた。
そして三人はその不気味な穴に向かって歩き出した。
近くまで来て見た穴は、丸太を組んで軒を支えちょっとした門のようになっていた。その門に向かって緩やかな坂道になっていて、道幅は思ったより広かった。
三人は遠くで見るより怖くないと思った。
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朝、ルークとフランツはレオナールとウォルフと鉱山の管理事務所で合流した。
管理事務所の責任者に現状を説明して五人で横穴に向かう事にした。
本坑道を確認しながら前に進む。本坑道のさらに奥からは作業する音が聞こえてくる。
暫く行くとひとつ目の横穴が見えた。五人は横穴を歩いて先に進んだ。
確かに本坑道にはなかった湿っぽさを感じた。
レオナールは「やはり緩んできているように思います。ここは塞いでしまった方がいいでしょう」
ウォルフが「本坑道に土砂が入り込まないように強い壁を作る必要がありますね」と補足した。
管理責任者とルークとフランツは黙って頷いた。




