二人の旅 再び 4
家の中に案内されて入ってティナは可愛らしい内装に見入ってしまった。
リビングのソファに置かれたクッション。
ダイニングテーブルに掛けられたテーブルクロス。
飾り棚に敷かれた敷物。には奥さんの前掛けのように縫い取りの刺繍がしてある。とても可愛い。
テーブルの真ん中には、玄関脇に咲いていた可愛い花が飾ってあった。どちらかというと質素だが、暖かみのある家だった。
ティナとランスロットはリビングのソファを勧められて腰掛けた。
リビングの奥にも部屋があり、そこで子ども達は旦那さんにより汚れた服を着替えさせてもらっていた。
奥さんは、手を洗いエプロン姿になって、手際よく料理をしていた。
料理をしたことがないティナは奥さんの手によって魔法のように料理が生み出される様子を食い入るように見ていた。
「その視線に気づいた奥さんが「気になる?一緒にやってみる?」と声をかけてくれた。
ティナは「実は私、料理をしたことがなくて…」と恥ずかしそうに言うと。
奥さんは笑って「あらあら、格好からは想像つかないけど、実はいいところのお嬢さんかい?ふふ」
「あ、いえ。別にそういうわけでも…」と口ごもっていると
「あー。確かに綺麗な手をしてるね」と笑ってティナと話している間も奥さんの手は休まず料理が生み出されいる。
奥さんの手は貴族女性のそれとは違うが、ティナにはとても綺麗に見えた。
「奥さんの方が働き者の手で私にはすごく綺麗に見えます」と正直な気持ちを伝えると
「あら。そんなこと言われたのは初めてだよ。嬉しいね」とティナの顔を見て笑った。
その笑顔も日に焼けた健康そうな笑顔でティナには眩しかった。
ランスロットはリビングに戻ってきた旦那さんと話していた。
「また何をしにこの街道を来たんだい?」
「実は、商売をしてまして、新商品を探しに…このあたりは景気がいいと聞いていて、何かあるのかなと思いまして…」と歯切れの悪い返事をしていた。
「ちょっとの間は、出稼ぎができてよかったんだけどねぇー。急にその募集がなくなって、領主様も変わって、実はその仕事は良くないことだったのかなぁ?と皆で話してたのさ。俺たちにゃそれ以上のことはわかんねぇけどな」
「あー。そうだったんですね。じゃ、今は?」
「元の生活に逆戻りよ!まぁ、もうちょっと実入りがいいといいんだけどな。はははっ」と豪快に笑った。
そして少し遠い目をして「出稼ぎができなくなった最初の年はちょっと大変だったなぁー。畑を放ったらかしにしちゃってて、土が拗ねちまってさ。ちゃんと手入れしてやらないと作物を育ててくれないのさ」
ランスロットは旦那さんの言葉に聞き入っていた。
そしてティナと同じようにそう話す旦那さんが眩しく見えた。
ダイニングの方から「ご飯だよー」と奥さんの明るい声が聞こえた。
ダイニングで遊んでいた子ども達、旦那さんと共にランスロットもダイニングに移動してきた。
テーブルの上には美味しそうな料理が並んでいる。
豆といろんな野菜が入ったキッシュ。
目に鮮やかなピクルス。
蕎麦粉で作ったガレット、具には根菜類にチーズがかかっていた。
奥さんが「たいしたものじゃないけど、遠慮なく食べてちょうだい」とティナとランスロットを促してくれた。子ども達は既に席についていた。
遠慮なくティナとランスロットは礼を言って席につき皆での食事が始まった。
どれも素朴だが体に染み渡るような気がしてティナは「うーん!美味しい!」と感嘆の声を上げた。
その表情に奥さんは「そりゃ、よかった。たくさん召し上がれ」と笑い。旦那さんは「可愛い彼女だねー」とランスロットを冷やかした。
ランスロットは照れながら「実は僕達夫婦なんです」と言うと。
奥さんは「なんて可愛い夫婦なのかしら」
旦那さんは「ほぉ、美男美女で羨ましいねぇ」とティナとランスロットを冷やかした。
さらにその場が和み、とても暖かな時間が過ぎた。
食事の間も、ティナは食材に興味津々でその夫婦を質問攻めにした。
旦那さんも奥さんもティナの質問に笑顔で答えてくれた。
「豆や野菜はウチで作ったもので、卵は飼ってる鶏が産んだものさ。このあたりは小麦を作ってないから買うけどね」
「蕎麦粉は少し北にある村に芋や野菜を売った帰りに買ってくるのよ、チーズは村で山羊を飼ってるからその乳を皆でチーズにしてるの。これは日持ちしないから売るのは難しくてね」
ティナとランスロットはこの豊かな食生活に驚きを隠せなかった。
旦那さんが「そんなに珍しいかい?このあたりじゃこれが当たり前なんだけどね」と笑っていたが、ティナとランスロットにはどんな晩餐会の食事よりも美味しく感じた。
食後に奥さんがハーブティーを入れてくれた。
聞けば、このハーブも自家栽培で、フレッシュハーブで淹れてくれたものらしい。
さらにティナは奥さんに質問を続ける。
「このテーブルクロスの縁取りや、あのクッションカバーも奥さんが?作業中の前掛けの模様も素敵でした」と聞けば
「ああ。こうやって木綿糸を布に刺しておくと丈夫で痛みにくくなって長く使えるからね」
「これで作った布袋は丈夫で、野菜を売りに行く時の荷袋にもなるんだ」と旦那さんが付け加えてくれた。
「農閑期は時間があるからこんなもんを作っているんだよ」ととても優しい笑顔で教えてくれた。
よく見ると子ども達の着ている服のポケットや裾に木綿糸で模様が刺してある。〈可愛い〉と思った途端ティナは「これを私達に売らせてもらえませんか?」と言っていた。




