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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

雑文恋愛「かれは何ぞ?白玉か?~伊勢物語『芥川』を異世界風に改悪~」

ここは異世界。当然世界設定は中世欧州風。

そんな世界のとある王国の宮殿内で、今その国の幼いお姫様が寝物語としてばあやから昔のお話を聞いていました。


「さて、姫様。今夜は新しいお話をして差し上げますね。」

「うん。でもSFは嫌よ。」


「まぁ、姫様ったら聞かず嫌いは駄目ですよ。と言うかSFこそが世界の真理。王家に産まれた者が会得すべき必須の物語ですのに。」

「ばあやは考えが古過ぎるのよ。今は『ファンタジー』の時代なの。更に『恋愛系』が流行っているのよ。」

ばあやの言葉にお姫様は正論で看破してきます。ですが、そんなお姫様にばあやは自分の経験を話し始めました。


「まぁ、そうなのですか?はぁ、なんか軟弱ですのねぇ。姫様のお父上などは宇宙を縦横無尽に駆け巡る勇者の冒険譚を目を輝かせながらお聞きになられていたのに・・。おかげで中々寝付いてくださらなくて私は困ったものでしたわ。」

「とうさまが公務に支障をきたすほどの冒険者馬鹿になったのって、ばあやのせいだったのね・・。」

ばあやの説明にお姫様が突っ込みます。しかしばあやはそれを笑って受け流しました。


「ほほほっ、まぁ若いうちは何かに熱中する事は良いことですわ。そこで得た経験は宝物となるはずですし。」

「ばぁや・・、30過ぎの子持ちのおっさんは若いとは言えないわ。」


「ほほほ、まぁ、公務に関しては姫様のお父上はあくまで皇太子様の『スペア』、つまりご次男ですからね。ですが結婚相手としては農家の長男って嫌われますし。そうゆう意味では冒険者馬鹿でいられるお気楽な立場でよろしいんじゃないですか?」

「ばぁや・・、とうさまは農民じゃないからその例えは駄目だと思う。」


「それもそうですね。でも昔から次男はとんでもない事をしでかすものと相場が決まっているんですよ。なのでそんな昔話を今日は聞かせて差し上げます。勿論今流行の恋愛モノ要素満タンなお話ですよ。」

「ロミ・ジュリはもう聞き飽きたわ。」


「ほほほっ、ではロミ・ジュリよりももっと古い時代のお話にしましょう。」

そう言うとばあやは姫様の手を優しくぽんぽんと叩きながら静かに語り始めました。



これはアーサー王の御世の時代の出来事でございます。とある国の公爵家にそれは大層可愛らしいお姫様がいらっしゃいました。

なのでそんなお姫様に恋心を抱く者は多かったのですが、お姫様は年頃になられましたら王家に嫁ぐ事がほぼほぼ決まっていらしたので誰も思いを伝える事が出来なかったのです。


ですが伝えられぬ思いは日に日に募るものでございます。なので公爵家に従僕として行儀見習いに入っていた男爵家の次男は、ある日の夜思い余ってお姫様をさらってしまったのでした。

まぁ、さらったと言っても従僕はお姫様に次のように言って言い包めたようです。


「姫様を狙う賊が今夜夜襲を仕掛けるという情報が公爵様に寄せられたそうです。なので公爵様は私に密かに姫様を安全な場所に連れ出せと命じられました。なのでご同行して下さい。」

「まぁ、賊が?でも外に出るよりもこの屋敷にいた方が安全ではなくて?」


「万が一という事も考えられます故。」

「そうですか・・。では仕方ありませんね。」

そう言うとお姫様は身支度を始める為に侍女を呼ぼうとしたのですが、そんな事をされては嘘がばれてしまいます。

なので従僕は「急いでおりますので身支度を整えている時間はありません。ご無礼仕るっ!」と言うが早いかお姫様を『お姫様抱っこ』して屋敷の外へと連れ出してしまいました。

そして予め用意しておいた馬に跨るとお姫様を後ろに乗せて一目散に暗闇へと走り去ったのでございます。


そんな危機的状況ではありますが、蝶よ華よと大切に育てられていたお姫様には夜の暗さによる恐怖よりも物珍しさが優ったようでございます。

なので従僕が駆る馬がアクター川沿いを疾走している時に月明かりに照らされ草の葉の上で光るものを見つけると従僕に「かれは何ぞ?白玉か?」と問いました。


ですが従僕は公爵家からの追っ手が心配で、お姫様の問いかけに答える余裕がありませんでした。なのでひたすらお姫様を乗せて馬を走らせたのでございます。

ですが目的地である彼の隠れ家まではまだかなりの距離が残っています。更になにやら雲行きも怪しくなってきてパラパラと雨も降り出してきました。


なので男は道すがらにあったあばら家にて雨を避け、夜が明けるのを待つ事としたのでございます。

ですが、従僕は知らなかったのでございますが、そのあばら家には鬼のような魔物が出るとの噂があったのでございます。


そうとは知らずに従僕はお姫様をあばら家の中にひとり押しこめると自分は外で弓を手に公爵家からの追っ手に備えたのでした。

とは言え従僕は極度の緊張が続いた事によりうつらうつらとなり結局寝入ってしまったのでございます。


そして漸く夜も明け垂れ込める雲が朝日でうっすら明るくなった頃、それでも雨はやまずに葉に当たる雨音で追っ手たちの気配も読み取れません。

そんな状況の中、突然あばら家の中からお姫様の悲鳴が聞こえてきました。

従僕はその悲鳴に飛び起き、お姫様に何事か起こったかとあばら家の中に駆け込みましたが、お可哀想に既にお姫様は鬼のような魔物に喰われてしまっていたのです。

その事に従僕は愕然として


『白玉か 何ぞと人の 問ひし時 露と答へて 消きえなましものを』


と、思わず後悔の歌が口をついたそうでございます。そして後に従僕はこの事を酒の席で仲間へ次のように話しました。


「いや~、勇気を出して姫をさらい、寝ずの番をしていたのだが激しい雨音で鬼の気配に気づけなかったよ。なので姫が鬼に喰われてしまった事を知った時は愕然としたね。だから思わず、姫が馬上であの光るものは何?白玉ですか?と尋ねて来た時に露ですよと答えて、私も姫と共に露のように消えてしまえばよかったと思ったくらいだ。」



で、ここまでは大人しくばあやの話を聞いていたお姫様ですが、とうとう言わずにはいられなくなったようです。


「ばあや、その貴族の次男ってロクデナシ過ぎない?なんなの?勝手にお姫様をさらっておきながら守れなかったからと言って、一緒に死んでいればよかったなんて、自分の事しか考えていない自己チュウじゃないっ!」


「ほほほ、恋の熱に身を焼かれた殿方などは大抵身勝手なものなのですよ。ですが、実はこのお話には裏があって、本当はお姫様は鬼のような魔物に食べられたのではなくて公爵家が放った追っ手に連れ戻されたのでございます。ただそれだと男爵家の次男は面目が丸つぶれになるのでお姫様は鬼に喰われてしまったと嘯いたのでございます。更に公爵家としてもお姫様をさらわれてしまったなどと世間に知れたら王家との結婚話に暗い陰を落としてしまいます。なので件の姫は鬼に喰われたとしておけば、生きている公爵家のお姫様の事ではないのだと言えるので黙認したのでしょう。」


「まぁ、ますますその次男ってロクデナシね。」

「左様でございますねぇ。その点姫様のお父上様は妃様にぞっこんですから心配ありません。それはもうご結婚後は立派に公務をこなしていらっしゃいますからね。」


「恋って良くも悪くも人を変えるのね。でも私にもそんな風に私を思ってくれる男の人が現われるかしら?」

「ほほほ、姫様にはまだ少し早いですわね。でも姫様も年頃になられればそれはもう数多の紳士たちから言い寄られる事間違いなしですわ。なんと言っても姫様は美しさにおいて、この国で一位二位を競うお后様のお子であられるのでございますから。」

そんなばあやの言葉に機嫌を良くし安心したのか、お姫様はうつらうつらとし始めたかと思うと数秒とたたずに夢の国へと向かったのでした。


そんなお姫様にばあやは布団をかけ直すと、姫様の額にそっとキスをしてから枕元の明かりを小さくして部屋を後にしました。

そう、今お姫様は夢の中で素敵な騎士により押し寄せる魔物たちから守られている事でしょう。勿論騎士はばあやが話してくれたロクデナシ貴族の次男坊とは違い全力でお姫様を守ってくれているはずです。


なのでお姫様の寝顔は安心に満ちていました。そして明日『朝起きた時には初めて恋心というものを知った乙女となって』頬を赤く染めているかも知れません。

そう、物語とは実際には体験していない事を仮想的に体験し、スキルアップが出来る人生の参考指南書なのです。


故に人は物語を読むのでしょう。何故ならば物語の中でなら人は何人にでもなれるのですから。


-お後がよろしいようで。-

『朝起きたら○○になっていた』という部分は、お姫様が『乙女』になっていたという事でお茶を濁しています。

いや~、こじつけるのも大変だ・・。

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