9 - 作戦会議②
※イラストは特に表記が無ければ全て天鬼作のイラストとなっています。
リアライズ辞典wikiがあります、もし良ければご利用ください。
https://rearizedictionary.miraheze.org/wiki/%E7%94%A8%E8%AA%9E%E9%9B%86
昊菟のどうしようもなく惨めな能力解説の後、女の子は自らの自己紹介を始める。
「よろしくお願いします。
月守未都。
もうすぐ高校二年になります」
昊菟の気まずい声に朗らかに返事をくれて和んだが、年上であるという事実になんとも不可思議な気持ちになった昊菟だった。
女の子だから背丈で年齢を測る事もできなかった上、その敬語や縮こまった態度、きわめつけには目が大きく童顔とまあ、年齢が結構幼いかと思わされていた。
間違いない、この雰囲気、この不思議な立ち振舞い、へんな癖。
矜持を感じれる部分は随所に感じられる。
生粋の超能力者で間違いないだろう。
「能力は、無空間を固定する能力、です。
えっと……百聞は一見にしかず、ですかね」
彼女は手を柔らかく上に向け、そこに金色に輝くガラスのようなものを作り出した。
光沢はないが、光が屈折し、そこに一切の曇りもない氷があるかのようだった。
手で掴んでくるくるさせたり、その場で触らずに回転させたり変形させてみせた。
「一番強力なドリルでも穴は空きません。
穴が開く……というか、ホントのところ、何もない空間がむりやりあるだけなので、実際それは物質ではありません。
穴を開ける対象はなく、衝突するものもない、でも通り抜けられない無空間です。
お二人が触っても、てこでも動くことはありません。
私の感覚の外にあるものは消滅してしまいますが、私から半径1mくらいの空間であれば、死角にも展開可能です。
今のところ、同時に複数個別々に出すことは出来ませんが……変形させて様々な形にできます」
そう言いながら、輪っかにしてみせたり、三人を覆う球状にしてみせたりした。
覆われたとき、外の音が遮断されたのか、心細い無音が一瞬訪れる。
「これ……人を貫けたり?」
「それは……出来ないみたいです。
変形とは言っても、実際に伸ばしているわけではなく、発生させたり消したりしているもの。
人体には元から基礎結界というものが無意識に展開されていて、人体内部で他者が能力を生み出す事は出来ないのだそうで」
「ああ、魔法もそうだぞ。
人体内部に魔法を発生させる事はできん。
直接触れれば体に使えるが、あ、あと性行為でもしてれば話は別だ」
空気が凍った。
「は、発生させたところに、人を動かす分には衝突しますので!
網状にして人を捕えるとかできます!
この空間を生み出せる積量は限りがあるので、無限に伸ばしたりはできませんが、ぱっと消して望みの形を作り直す事は可能です。
発生させるのに、私が触れている必要はありません、ほぼ一瞬で望む形のものを見えている範囲なら作れます」
「それなら……その能力で閉じ込めれば、捕縛が可能?」
「はい、私から1メートル以内であれば、無条件に。
そうでなければ、私がその人を見た時、背後が見えないので閉じ込める事が出来ません。
よく反射する、窓や鏡、監視カメラ等のリアルタイムの動画などで死角の情報があれば、閉じ込める事は可能です。
さすがに、距離感を肌身で把握出来る範囲に限りますので、監視カメラだけの情報で能力を出す事はできません」
強力な能力だ、正面戦闘ではまず負けない能力である。
防御面においては無類の効果を発揮する。
勝てるかどうかは難しい上、人を死傷させる事は難しそうだが、窒息死させるハードルはそれなりに低めだ。
「この嬢ちゃんは、研究所内でトップクラスの評価を受けてた能力者なんだぜ。
どうせ協力してもらうなら、強いに越したことはねえからな。
跳ね返りもしない、何もない空間ってことだからよ、他者に利用されるようなもんでもない」
「はい、この空間を足場にしようとしても、動かないまま、踏ん張ることもできません。
蹴れば蹴った感触も反発もないまま浮きます。
なので、この上を動く事ができません。
足場に敷き詰め、そこに足が乗せられれば、相手を行動不能にできます。
私から離れたところに、フックショットみたいなものを撃って飛び退くとか、エンジンみたいなものを吹かせば、その勢いで動けますが、もしそうされたなら、私の能力を知っているということになるのかなって。
あ、あと、私自身がこの上で高速移動する事も出来るそうですよ!
でも……はい、専用のガジェットがないと無理みたいですが。
こう、ジェット噴射みたいなもので、摩擦ゼロなので、びゅーっと!」
あ……なんか思ってたより愉快な人だ、この人。
「そのあたりは俺が魔法で動かしてやっても良い。
じゃあ次は俺だな、荒木創樹、年齢はいいだろ、見たまんま、おめえらみてえに歳の差1,2歳なんて些細な事にしか思えねえくらいのオッサンだ。
魔法使い、ランクは星雲級、等級は赤だ」
「ランク……?」
「等級……?」
「あー……、わり、そうだよな。
簡単にいこう
俺は魔法を理解していて、弟子を取れるくらい学がある。
んで魔力量が雑魚だ、老いだぜ、許せよ。
魔法はエレメント魔法を一通り、つっても、殺傷力があって使いもんになるのは火、岩、雷くらいなもんだろ。
雷は空からドカンとかねえからな、触れてるヤツを電気ショックさせる程度だ。
まあ、俺にとって、本命の魔法はそのへんじゃねえ、よく使うのはこれだ」
そう言うと、何もない空間からアサルトライフルを生み出した。
車内で見た杖を取り出した魔法と同じだ。
「タグ付けテレポート。
俺がタグを打ち込んだ品を、俺の持ってる倉庫と手元を行き来させる魔法だ。
タグを打ち込むにはちっと手間はかかる、投げつける程度じゃタグはつかねえ、しっかり両手で触れて、魔法陣を当ててタグをつける必要がある」
そう言って、両手袋の手のひらに書かれている魔法陣を見せた。
「こいつで兵器や武器を出したり消したりが得意分野だな。
歳だからよ、大した火力の魔法は打てねんだ。
まあ、一つだけ、出来る火力魔法はあるぜ。
だけどこいつぁ、使えば腕がぶっ壊れて色々できなくなる、最後の方法だ」
腕を捲くって見せたのは、機械仕掛けの腕だった。
鍛え抜かれた腕相当の機械の腕には、前腕の根本から、謎の機構がシュコーと言う音と共に伸びて出てくる。
「超特大の爆発魔法……だったものをこの年寄りでも使えるようにしたシロモンだ。
魔力量が無くなっちまってかつてのような威力はねえが、巨大な威力の空気砲くらいにはなる。
いや、ホントは実弾にしたかったがね、魔法使うと毎度実弾が分解してプラズマになっちまうんだわ。
一度使っちまえばぶっ壊れちまうんだが、まあ無いよりマシだろ」
それ、相当すごいものじゃ……。
「他にも些細な事はできるが、全部は説明しきれねえな。
関係あるのは厳密にゃあ魔法じゃねえが、魔力で体を素早く動かすとかかねえ。
魔法を込めた品を使えば、基本的なレベルの超能力者なら殺害可能だ。
しょうみ、おめえらには見学会をさせてやりたい思いだが。
俺が提案する作戦は、昊菟を月守が守ってやって、特等席で俺の勇姿を見届けることだが、どうかね」
「私は、私を囮とする作戦を提案します。
防御面であれば自信はあります。
昊菟君は、私の隣に居てくれれば、共に生存可能でしょう」
縮こまった主張の少なそうな少女かと思いきや、意見があるときはしっかりと発言していた。
なんというか、アンバランスな人だなぁ……。
「……俺は、銃と、あと催涙系のなんかしらをくれればそれを使う。
あんたなら持ってこれるだろ、アラキさん?」
「ああ、良いぜ坊主。
五感を潰すのはいい策だ、いつでも使える定石だ」
「……なんであんたはそれを使わないんだ?」
「リスクもあるからだよ。
訳わかんなくなった超能力者は無作為に能力を放出し、周囲一帯を適当に攻撃したりする。
まあ嬢ちゃんの能力があれば、そのへんは問題ないだろ。
俺がしくったら使ってみたらいい、逃げるためとか、相手の魂魄の消耗にも使えるだろ」
「たしかに、超能力者は持久戦には不向きですよね」
「ああまさに。
超能力者は自身の意思、個人としての核という、魂魄を消費して、世界を捻じ曲げる力を得た存在だ。
無くなれば当然、体の全機能が欠けていく」