8 - 作戦会議①
※イラストは特に表記が無ければ全て天鬼作のイラストとなっています。
リアライズ辞典wikiがあります、もし良ければご利用ください。
https://rearizedictionary.miraheze.org/wiki/%E7%94%A8%E8%AA%9E%E9%9B%86
◇
「おお、遅かったな」
45分後に屋上に行ったらすでにそのおっさんは居た。
傍らには、昊菟と同年代くらいの女の子が居る。
「よろしくお願いします」
その子は、この場には不釣り合いで異様な出で立ちだった。
金髪の癖の無いロングヘアに緑の瞳。
しかし肌は色白な日本人のような風体だった。
小綺麗な衣装にロングスカート。
いかにも運動する気のない服装だった。
「外国……人?」
「えっと、日本人、です。
髪と瞳は、最近変色しました」
「超能力が強力になると極々々稀にこういう症状が出るんだそうだぞ。
まじまじと見れば多少は違いがわかるぜ。
この髪はヨーロッパ系の金髪碧眼のものとは違う、ブロンドヘアじゃねえ。
強力な超能力者に起きる、髪、瞳、場合によっちゃ爪の変色反応。
つっても、今のところ日本でそういうタイプの能力者は片手で数えるくらいしかでてねえ」
たしかに、その髪は月の光のような、淡く白っぽい金色の髪。
黒っぽい感じも赤みも無い、どこか現実味の無い金髪だった。
キューティクル……では説明付かないほど、キラキラと輝いているように見える、月光のような髪だった。
染めたら、近しい色は出るかもしれないが、たしかに外国人のブロンドヘアとは話が違うようだ。
見られると少し恥ずかしいのか、ばつが悪いのか、目と顔が泳いで困っているようだったので、昊菟もあまり見ないようにした。
「ま、日本大陸に行けばそう目立つものじゃなくなるだろうぜ。
向こうじゃ染髪は当たり前だからな。
ま、気まずそうだ、この話は切り上げてやろう。
じゃあ、坊主、今回の事件概要を教えてくれ」
「俺が?」
「ああ、対超能力者、対魔法使いでは、情報戦はとにかく大事だ。
戦闘は計画通りであればあるだけいい。
いいか、超常的な戦闘をするにあたって、敵の出来ることを知らないまま戦うのは避ける事だ。
RPGみたいに戦いながら探るなんてのは最終手段だ。
てめえの超能力や魔法の火力と、相手の能力の相性が最悪だった場合、逃げる事も出来ずに死ぬと思え。
基本は暗殺! 血湧き肉踊る戦闘なんて期待するなよ。
全六感で感知された時点で能力はほぼ必中だと思って良い」
「生かして捕まえるというのは出来なさそうな相手なんですか?」
「えっと、能力は分からないけど、被害者は寝室で寝ている所を圧殺されているそうだよ。
全身くまなくおしつぶ……」
結構悲惨な話になるけど、同世代の女の子にする話じゃないよな……と、はたと女の子と目が合う。
整った顔立ちに大きな目が、昊菟とぱっちり合った。
「……何か?」
キョトンと目を丸くし、逆に顔を覗かれる。
「気分悪くなったら、言ってください……。
全身、くまなく何かの力で押しつぶされている。
直接の死因は呼吸困難、死に切るまでの間時間があって、その間に全身の骨の数カ所を骨折、あとは多くの箇所をバラバラに脱臼させられている。
時間をかけて殺したことから、相当な怨みを持った犯行だと思われている。
肉体に球状のものが押し付けられた圧迫痣が数か所。
おそらく犯行中、痛みによる意識の覚醒はあったと思われるが、被害者の能力は使用された痕跡はなかった。
被害者の能力は水流操作、水を何もない場所から生み出し、動かす能力。
被害者の出せる威力は当たりどころが良ければ致命傷になりうる程度。
圧迫は仰向けに寝ているところを上から押さえつけられる形で、肋骨は多くを骨折、その他、頚椎も含め、多くの箇所が脱臼させられていて、ベッドは圧力によって底板を破壊している」
ちらりと女の子を見てみるが、悲しそうな表情はすれど、泣きそうになっていたり、気分が悪そうな感じはなかった。
とりあえず、大丈夫なようでよかったと昊菟は思った。
というのも、どこか心の線が細そうな子だったからだ、伏し目がち、自信がなさめな細く控えめな声量。
ボディランゲージ、というか身振りも縮こまっている。
聞こえよく言えば、お姫様のような、悪く言えば、自我を出さないように言われている奴隷と相対するような。
なんだか、あまりいい気持ちになりにくい雰囲気だ。
でも、悪い子ではなさそうで、なんとも言えないなあ、と昊菟が思っていると、オッサンはそんなの構わんと言わんばかりに話を進めていく。
「このことからわかるのは、この被害者が冷静な状態でなかったか、五感を対策され、犯人に攻撃を行えなかったかだな。
超能力の使用には、強い精神状態が必要だ。
何らかの薬で意識ダメージを負った場合や、拷問や致命的なダメージを受けた場合、訓練してない場合などは、よほど強靭な精神が保てなければ能力の使用ができない」
「私達が、そうした状況に陥る可能性を考慮せねばならないのですね」
「幸い、能力者は候補は複数人居るものの、ほぼ一人、犯人が推定できている」
「研究所で大暴れしちまったのが悪手だったな。
事件に関与できる能力者は少数、しかも内容が判明しちまってる。
バレないように人殺しするには、かなり悪い環境だ」
「容疑者は元反社会勢力の構成員。
体から鉄の獣を伸ばして動かす能力……。
研究所に来る前は、捕食させ死体を消してしまったり、惨殺死体が多かったみたいだ。
近くの部屋から、犯行日に男の笑い声を深夜に聞いたそうで、ときより聞こえる怒号と同じ人物だと思われる……。
こ、これ、犯罪者ってことか」
「ああ、こういう超常殺人事件が列島で起きた場合、研究所はそいつが犯行可能なのか、どのような手段の能力なのかも調べる必要があるんだ。
それまでは容疑がかけられた状態で、一応遠ざけられた配置を取られ、それなりに監視されるわけだがな……。
犯罪者の殆どは、身に危険が迫るまでは能力を見せない事が多い。
研究所内で戦闘行動、脅し、何でもやって、相手の能力を引き出す恫喝みたいなもんをするんだが。
まあ、それなりに危険なわけだ。
能力判明段階で、この研究所を管理してたでしゃばり超能力者がやられやがった。
その後、後任の能力者に監視を任せていたわけだが、ばっくれた。
これだから超能力者に組織行動はやめさせた方がいいんだが……。
まあ、魔法使いもそう強力な人材は多くない、超能力者の方が手頃で強力だから、人材の不都合が祟ってる状態だ」
「それって……。
その、能力を引き出させた方は、お亡くなりに?」
「いや、一応は生きちゃあいるが、今は車椅子と点滴と一緒に仲良く過ごしてるな。
これで多少は口数も減ってくれりゃ助かるんだが。
ま、お陰で能力の大まかな部分は判明している。
……無駄にしねえようにするぞ」
おっさんが誰に言うでも無く呟いた怨みのこもった声に、二人の少年少女は小さく頷いてみせた。
「ま、大枠は把握できたな。
現状これ以上の情報はない、次は俺たちの出来ることを徹底的にすり合わせるぞ」
「……」
昊菟がナイーブな顔をしていると、おっさんがはたと目をやって、それを少女が何事だろうときょとんとする。
「あ、嬢ちゃん、この坊主はほぼ無能力者だからそのあたりは頼んだぜ」
「人に言われるとこんなに悔しいとは知らなかったなぁ……ッ」
もうね、笑顔になるしかない。
「でも、これから共同作戦を取るんだ、名前くらいは共有しておこうじゃねえか。
でー……坊主、なんてんだ?」
「まじすかあんた。
上郷昊菟。もうすぐ高校一年になる。
超能力はちょこっとだけ重さがあって、ちょこっとだけ良いことが起こるかもしれない光が指先から出ますよろしく」
せめてもの抵抗で説明しなおすが、よけい惨めになっただけだった。