4 - ムー大陸とは
※イラストは特に表記が無ければ全て天鬼作のイラストとなっています。
リアライズ辞典wikiがあります、もし良ければご利用ください。
https://rearizedictionary.miraheze.org/wiki/%E7%94%A8%E8%AA%9E%E9%9B%86
◇
「今はバタバタした場だからね、簡単に説明をさせてもらうよ。
上郷昊菟君、あなたはこれから超能力者であるかどうかを検査することになる。
まず、キミが超能力者であると断定された場合の話をする。
その超能力の危険度に関わらず、キミにはムー大陸に移住してもらう事とする。
ムー大陸日本領、キミは観光したことはあるかな? ある?
よろしいならばあのへんはハショれるね。助かるよ~!
列島のほうでは、超能力者に対する法律的な居場所が用意されてない。
だから、ムー大陸の方で管理することとなる。
大枠は日本の法律と日本国民である事も変化はない。
けどね、超能力者や魔法の使用が、列島よりも緩い規制とされ、場合によっては使用が推奨される。
そうじゃないと自衛できないしね。
高校受験はムー大陸にある私・公立高を受験するという制限が課せられる。
ただし、キミの能力が未知なものであったり、危険度が高い場合は、実質的に一つの国立高校に進学することが決定されるんだ」
「その辺、坊主はすでに未知であることは確定してんだ、自分で使い方わかんねんだからな。
将棋で言うなら飛車角落ち王手、一般論で言えば時間の問題で大陸送りだし、その学校へ入学ってぇこった」
老人は本に目線を落としたまま口を挟む、まるで一方的に口は出すけど異論や雑談をする気はなさそうだった。
「まあ、概ねそうなるかな。
日本において最大規模の国立高校、天央高校。
超能力者を抱き込む学校である以上、様々な生徒が偏差値に縛られず集まってくる。
多学科を選ぶ事ができるが、もちろん、カバーしきれないところもあるから、そのあたりは短い基礎学習と、長い自由時間の間、寮または自宅での自主学習となる。
住むところは基本的に契約してもらうがあちらは急ピッチでの開発により、今のところ好景気、安値で借りれるマンションもごまんとある。
家族が付いてこなければ一人暮らしとなるが、列島よりは良い生活になりやすいだろうね。
基本的な住民票を列島に移す事はできなくなるから要注意だ。
大陸で暮らすにあたり、いくぶんか補助金、及び助成金も降りる。
違い? 降りたらググりな~。
コスパでも列島で暮らすより良いものになるだろう」
「死傷のリスクを除いての話だからな、坊主」
本によるコミュニケーションバリアを発動しながら、おそらく言うべきでない説明をしてくれる老人。
女性はそのバリアなんて知らんと言わんばかりに昊菟を避けるように身を乗り出し、座席反対側に居る老人にじっと顔と目線を送った。
「わあ爺ちゃん、ぶっこむねー。
そんで少年も動じないねー、変な子だよまったく」
死傷のリスクを除く。
この世界に住まうものにとって、ムー大陸がそのような土地であることは周知の事実だ。
今でもそれとなくある銃火器はあるが、超能力も魔法も、より痕跡を残さず、より統制し辛く、より手軽で、より強力である。
過去には、こういった超能力者の扱いに対し、「こんなの島流しの刑と何が違うんだ!」と人権運動を行った超能力者がいた。
抗議は日に日に苛烈になっていき、治安部隊を超能力で殺傷してしまってから、このルールに異を唱える者は危険人物であると法律として決まっていた。
昊菟としては、そのルールはあって然るべきものだと考えているので、特別文句はない。
だが、超能力者という存在が、人権をある種取り上げられそうな立場の存在であることも認知していた。
「そもそも、その坊主、まだ超能力者か判明してないのに、そんなに話すのか?
いつもの手続きじゃねえだろそれ」
「んー、まあ、何らかの自動魔法の餌食である可能性も否めないんだけども。24時間休まず、遠隔でただ指先を光らせるだけの魔法ってのも意味わからんじゃん。
何らかの銀河級とかの核爆弾級威力の魔法でも対処できないからね。
よしんば超能力者じゃないってなっても、キミにはムー大陸に居てて貰わないと政治家連中は気が気でないんだねぇ」
「まあ、たしかに、こういった魔法の存在は確認できてないな。
日本国未公認の魔法であったとしても、違法行為を行った魔法使いに負担をかけるためにも、ムー大陸送りが丸いか」
「……ちょっとまってください。
俺なんか爆弾扱いされてます!?」
「そだよ。
まあ、銀河級とかの魔法のターゲットにされてるにせよ、この車は一応魔法を妨害する結界を張ってあるんだ。
その上いま道路の上を走行中。
なのに、指先の光を定期的に岩取って、見てみても……うん、まだあるね。
……となれば、魔法の対象にされているとは考えにくいんだ、少年」
「可能性はゼロではないがな、妨害結界を突破し、常に座標ターゲットを更新しつつ、寝ずに行える高度な自動プログラムを動かす……。
基本的に考えりゃあ人間業じゃねえが、銀河級であれば、できないことがなにか分からないからな」
「あの、なんかたびたびでてくる、ぎゃらくしあ、ってのはなんなんですか?」
「あぁ、普段仕事でそのへん説明しないから、忘れてたよ。
銀河級は魔法使いの強さランク外の化け物たちだよ。
学を極めれば使える魔法の未知なる最先端を切り開く天才達だよ――」
気楽というか、もはや考えてもしょうがないといった雰囲気でとんでもない存在が語られているが、昊菟にとっても銀河級という称号には聞き馴染みがなかった。
この世界の人物達にとっても、魔法というものは、それなり縁遠い存在なのだ。
魔法というものは、科学の最先端にある、学問の真髄のような存在。
あまりに進んだ科学は、魔法と見分けがつかない、とも言うように、魔法を知った前世界の人々は、それが科学と多くの類似点を持っていたため、科学と同じものとして捉えているのだ。
これは一般人でも努力と才能次第で身につけられるものである。
だが、ムー大陸外には魔法を学ぶための魔導書を持ち出す事が禁止されている。
それも国連の決定によって取り決めがなされていた。
話は少し飛ぶが、ムー大陸出現の衝撃で、太平洋で津波が発生した時、この被害をほぼゼロまで抑えたのが、ムー大陸出身の超能力者と魔法使い達だった。
そのため、世界はこの2つの超常現象に忌避感を覚えていた。
高さの計測が不可能な程の津波を無害化出来るほどの力であれば、逆説的に同等以上の災害を発生させる事もできるという証明にもなったからだ。
国家転覆を証拠も残さず行うのには余りある力。
そのため、自然発生する超能力者はともかく、意図的に発動しうる魔法は抑え込みたいよね。という事になっているのだ。
これに国家が離反した場合は、軍事先進国がこぞって攻撃だって辞さないが!?
……という条約が制定されているほど。
そして、そんな遠い科学技術の粋である魔法、さらにその魔法を使える者の中でもトップクラスの存在である、銀河級。
どれだけ途方もない存在か、やっとこさジワッと伝わるのではないでしょうか。
余談だが、ガサツおっさんは頭が良いわけではない、電子レンジの仕組みが分からなくてもレンジを人が使えるのとだいたい同じ理屈である。
昊菟にとっても、そのジワッとした認識程度しかできない、遠い存在だ。
もっとも、これからムー大陸に送られる彼が居るのだから、この話はいずれそのとんでもない存在にも触れることにはなるのである。
「ま、十中八九、銀河級は今回の件とは無関係だと思いたいね。
施設での検査も含め、その辺はっきりするでしょ」
「超能力の検査って、なにをどうするんです?」
「まあ、色々やるね。
超能力によって千差万別だから。
超能力は一人につき、できることが一つだけ。
その人物のアイデンティティで内容も変化する。
でも、いくつかの共通点があるから、その共通項目だけは、全員検査する。
一つ。
超能力者は魂を消費するから、超能力の使用で平均21gの体重変化がおきる。
能力の使用を最大化し、頑張ってもらって、体の重さに変化があるかどうかをチェックするんだ。
一部の能力は体の重みに関与してるから、これで確実にわかるわけじゃないけどね。
二つ。
超能力者は異常で強力なアイデンティティを持つ。
心理テストとヒアリングを行い、超能力を持つに値する精神・思考かを評価する。
特別な経験をしてたり、安定して継続した精神病だったり、変な考え方を持ってると、より可能性は高い。
私の見立てでは、キミはおそらく超能力者だと思う。
車での振る舞いが中学3年生にしては可愛げがあんまりにもない。
少年ならもっと子鹿のように振る舞っていてほしいもんだ」
昊菟は呆れ顔で女性を見上げ、思い至る。
……この説明を聞くに、この人多分超能力者だな。
自衛隊二人組とはテンションが違いすぎるし、自分の考えを全く恥ずかしげもなく考えている。
まさにアイデンティティの塊である。
おそらく、俺が危険な超能力者であった場合、魔法使いのおっさんと、この超能力者の人が俺をメインで止める役なのだ。
「三つ。
矛盾反応の有無。
超能力者は世界のルールすら書き換える力を持っているけど、ルール同士が反発し、処理がままならないときがある。
例えば、必ず貫く能力と、必ず守る能力をぶつけてみる。
この相反するルール同士が世界を変えようとお互いに発現すると、超能力の性質を失い、オーロラのような光を衝突地点に生み出し、魂を急速に消耗させる。
この反応が起きたら、間違いなく超能力者だ。
まあ、矛盾する能力者が居なかったら、調べる事も出来ないんだけど。
四つ。
五感を断ち、超能力の発動が途切れるかどうかを見る。
今のところ例外なく、超能力は感覚で捉えたものに対してのみ有効だ。
目隠ししたり、耳栓をしたり、最終的には麻酔を使うこともある。
ちゃんとした医師が行うから安心してくれ。
だが、これでも分からない場合がある」
「……例外無いのに?わからない?」
「例えばだ、襲名済みの能力に『山彦』というものがある。
特定の人物のマネをする能力だ。
程度や内容に差が多少あれど、自我を失ってしまうものすら存在するんだよ。
自我を失った『山彦』は曰く、第六感で繋がっているとも言われている。
その域まで行った感覚能力、ある種、魔力感知のような感覚は、睡眠程度では途切れやしない。
麻酔でも途切れちゃくれない。
今の人類に、第六感を遮断するすべがないんだわ。
これらの実験を経ても判明しない現象の場合は、長期のコースに入る。
魔法解読を行ったり、各種工夫を凝らしたゲームや運動をしてもらう事もある。
相当変哲な計測器を呼び出して使用したりもあるだろう、少年の場合は、光量を図る器具や、鏡でも出てくるかもね」
「超能力者が生み出した物質等は、既存のものと違う働きをすることがあるんだ、坊主。
例えば、上に登る水とか、下に燃え上がる……燃え下がる?炎とか。
そういった異常物質の生成が行われているのかチェックする」
「俺の場合は、この光が屈折・反射するかどうかってことですか」
「ピンポン、そういうことさ
あとは真っ黒な塗料を塗ってみるとか、素人目で考えつくのはそんなところかな。
時間がかかる実験もあるが、最長1周間。
その期間で分からなければ、天央高校に入学後、1ヶ月毎定期的に実験に参加してもらう。
時間経過とともに能力に変化があったり、新しい実験の用意ができたりするのもあるからだ。
能力が判明していれば、半年に一回で良いんだけれど。
だけれど、能力が面白いのはその変化が起こる可能性があるからだ。
能力が強くなる事もあれば失う者だっている。
俗に言う、"矜持"に変化があれば、強くなったり弱くなったり、あわよくばなくなったりするね」
「聞いたことあります、超能力は思考に大きく影響される。
人を傷つける事を良しとすれば、そういう能力を身につける。
その人の精神性を表す超常現象だと」
「そうだ、だからこそ、悪人の超能力は極めて強力で殺傷力が高い、そして軍隊行動に不向きである。
私も超能力者だ、だけれど、それなりに秩序を重んじたいと思っている方でね、それを買われて、自衛隊に属しているのさ。
まあ、決まりだなんだ言われるし、今もあの二人がなんでそんな事を言ってしまうんだって目で見てくるけど……。
それでも、彼らは私の力がほしいから、逆らわないし逆らえない。
上層部も、お小言程度に済ましてくれる。
私の能力は、事故死とまったく判別がつかないからね……」
昊菟は、自分よりこの女の人の方が危険じゃないかなと、肘をついてリラックスしていた自衛隊員に目をやると、手が岩に包まれたときより、背筋が伸ばして、その疑問に返事をしてくれている気がした。
この力はまだ人類には早かったと思われているものだ。
いずれ現代文明にぶつかる事が確約されている、手がつけられない暴走列車。
世界各国に居る行方不明者や、怪死事件に対し、魔法や超能力が関与していることがわかっている。
初代ムー大陸頭首、アリサ・リクシリスが語るに曰く。
ムー大陸が出現する前から、外の世界にも超能力者と魔法使いは居た。
だが彼らは裏社会に隠れ、目立つことは避けていたし、超能力も魔法もは微弱なものしかなかったのだろう。
ムー大陸が出現し、それらの枷はやがて外れていくのは時間の問題となってしまった。
そのため、ムー大陸に居る超能力、魔法使いの治安部隊が秩序を守らせるために活動している。
今日までその組織は拡大していき、前世界出身の魔法使い達も続々と参加していった。
結局のところ、この暴力的な力を抑えるために、暴力的な力を使う事となってしまっていた。
大陸出現により、犯罪はある理由から増えもして、ある理由から減りもして、結果的に現代と変わりない水準と保てていた。
この世の人々は知っていた。
ムー大陸は、世界の混沌の最前線だ。
何かが起きるなら、ムー大陸からだ。
何かを起こすなら、ムー大陸が都合がよい。
何かを夢見るなら、ムー大陸に可能性を見る。
世界の行く末を決めるのは、あの大陸だ――と。
今の人々が核による人類史崩壊を恐れているように、この世界に生きる人類は、超常現象による人類秩序の崩壊を恐れている。
今はまだ隔絶しているだけのムー大陸の暴走が、世界平和のための一助となるか、世界を崩壊させる災厄となるか。
その戦争の最前線が、ムー大陸である。
昊菟も、それはわかっていた。
だが、彼はおかしいのは物怖じしていない事。
彼にとっては、今までやって来たことと、なんら代わりはないのだから。
命の保証がないと言われても、心はびくとも、うごかないまま。
◇
【超常人種】
魔法使いと超能力者を、人々は超常人種と呼ぶ。
誰でも魔法使いと超能力者にはなれるので血筋によるものとは違うが、それらを扱う人物であることを区分けしたものだ。
世界には、自身が能力者であることを隠したり、覚醒しても使用しないことで、自分は一般人だと偽る者もいる。
残念なことに、昊菟は目に見えた現象があるため、隠す事は非現実的手段だ。
そうでなくとも、彼は研究所を訪れただろうけど。