14 - 敵意を辿って①
※イラストは特に表記が無ければ全て天鬼作のイラストとなっています。
リアライズ辞典wikiがあります、もし良ければご利用ください。
https://rearizedictionary.miraheze.org/wiki/%E7%94%A8%E8%AA%9E%E9%9B%86
◇
聞き込みを行った昊菟は、ある話を聞いた。
笑い声を上げた人物を知っている。と。
「夜うるさいから、俺見てみたんだよ。
なんか、スーツを着た人でさ。
明らかに職員じゃねんだ、ここ、みんな白衣じゃん?
だから、変なんいるなーって思ったんだ」
夜中に、スーツで来る人物。
昊菟はそれを聞いて、考えた。
普通、ここに居る人間は私服か白衣だ。
馴染むためにはそういう服装が適切だ。
では、何故スーツを着るのか。
それは、スーツを着る必要があったからだ。
残った死体を作る、あの男以外の何者か。
スーツを着なければ、そこに居れなかった人物。
スーツを着れば、そこに居ることが出来るようになる人物。
「警察……」
そう言えば、自衛隊という線もあるか、と昊菟は一考する。
だが、それは余談だ。
だって、容疑者は自衛隊とは無縁だから。
昊菟はさらに思考する。
世に蔓延する、超能力者に対する差別的意識。
敵意……忌避感。
おそらく、容疑者の男はあの密室での殺人を行っていない。
スーツを着る理由はないし、日がな適当な私服を着ているのを、昊菟達は目撃している。
その夜、笑い声を上げた人物は、公的機関の何者かである。
何故、見せかけの殺しを行ったのか。
この事件を解決させにきた荒木の小言を思い出す。
《つうか、坊主にこの投資を持ってくるために、一人で来てんだ。
だから今回はマズいね、悪さするために人手を減らしちった。》
警察関係者が行う捜査は常に二人一組、またはそれ以上。
いくら大陸のルールだとしても、魔法使いは組織行動が可能だ。
人員を減らす事を許可する意味も理由もない。
あのオッサンにそれほど権限があるのかも謎だ。
あの人はおそらく現場至上主義者だ。
権威を持ってふんぞり返る事を受け入れれるなら、あの年老いた外見で年功序列として管理職に繰り上がらないのは違和感がある。
立場の高くないオッサンが、勝手に人手を減らせるのは……。
本当にたまたま、人手を減らしたかった?
昊菟は、違和感を思ったまま、研究所の事務室を訪れた。
「すみません、警察の方とか、最近訪れませんでした?
用があったんすけど、ちょっとすれ違いで会えなくて」
「ええ、来てますよ、お電話しましょうか?」
「いや……ちなみに、誰が来たかとか、わかりません?」
「えーと……たしかー……。
この方ですね」
そう言い、入館表に記載された名前を確認できた。
「あ、わかりました、じゃあ俺の方から電話かけます。
番号知ってますし、知ってる番号じゃないと出にくい人なんで」
と、言って引き止められるもそそくさと逃げた。
その足で電話をするが、相手は創樹のオッサンだ。
「もしもし、伊吹って人知ってるか?」
「あ? 警察のお偉いさんだな。
あの男の捜査でよく会ったよ。
そういやこっちにも来てたな?」
「なあ、その人が――」
その時だった、大きな崩壊音がした。
「なんだ? 月守か!?
おい坊主動けるか!」
「……いや、ちょっとやることがある!
これだけ聞かせてくれ!
その人、超能力者を嫌ってるか?」
「あ!? まあ、そりゃ警察ってみんな超能力者と魔法使いを憎んでるよ。
自分たちで捜査しといて、自分たちの手で検挙できねんだからよ。
俺に丸投げするときと公安にぶんどられるときは仏頂面だぜ!
いいか? もう行くぞ! お前も早く準備しろよ!
ちなみに電気は効くからな!」
「ああ……またな」
電話を下ろす。
切るボタンも押さず、昊菟は思考を巡らせる。
警察は、魔法使いも憎んでいる。
荒木創樹は、そんな中長い間警察と連携して働き、今回伊吹が追っていたあの犯人を検挙し、ここに送ってきた……?
だとすると、私刑……をしたがっててもおかしくないよな。
――。
ここの資料は警察関係者のオッサンには素早く公開していた。
あの時、月守を連れてくるのに45分以内だったはずだ。
つまり、伊吹も協力者である月守の能力が研究された資料を確認するのは容易なはず。
プライバシーどこいってんだ!?
まあそれはいい、これは……。
「月守と、オッサンが危ない……?」
荒木と組んでいる月守の能力は把握されているはずだ。
つまり、対策することもできるはず。
創樹が魔法的な道具を持っているように、警察が持っていても不思議じゃない。
「どこに行けば……?」
どこに行けば二人を助けられる?
窓の外を見ると、崩壊した一区画が見える。
月守がきっと、あそこで戦っている。
「……あの区画を見渡せて、月守の能力を突破する力……。
少なくとも、物理は完封のはず、であれば、魔法的な何か別の手段……?
くそ、魔法って、どうやって他人に当ててんだ……?
聞いておくんだった……。
でも、見えなければ当てられねえよな……」
昊菟はリムジンでの荒木の発言を思い出す。
《可能性はゼロではないがな、妨害結界を突破し、常に座標ターゲットを更新しつつ、寝ずに行える高度な自動プログラムを持つ、銀河級であれば、できないことがなにか分からないからな。》
座標……ターゲット、そういう決め方なら、目視確認が手っ取り早いはず……!
よく見える場所と言えば、屋上か、この棟の窓際!
昊菟は走り出した。
杞憂であるなら構わない。
居ないならそれでいい。
だが、今この脅威を取り除くのに、一番の適任は俺だ!




