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リアライズ - ReArize  作者: 天鬼 創月
1話「闇を払う、遠く遠い、あなたのために」
13/19

13 - 超常の矛と盾②

※イラストは特に表記が無ければ全て天鬼作のイラストとなっています。

リアライズ辞典wikiがあります、もし良ければご利用ください。

https://rearizedictionary.miraheze.org/wiki/%E7%94%A8%E8%AA%9E%E9%9B%86

「アッハッハハハハハ!いぃくよぉ!」


駆け出して寄ってくる。

思考、考察を中断し、戦闘に集中。 防御を行う。

月守(つきもり)は地面を蹴れるように床面に無空間バリアの穴を開け、真上にジャンプ。


「えいっ」


着地の落下エネルギーを使い、無空間を滑るようにして真横に飛び出す。

摩擦が起きない無空間は、体が持っていた勢いを滑るように変換する、滑り台のように作れば、落下の勢いをそのまま横に飛び出す力に変換できる。

スカートを抑えたままの姿勢で飛び出し、低空で相手の男の方向を見据え、無空間を広げる。


すると、廊下の天井と床から、鉄の獣が突き破って出てきた。


「わわっ馬鹿力ですかっ!?」


崩壊する天井と床。 崩落に人が巻き込まれていたので、無空間でそれを受け止める。

元々立っていた場所が崩されるが、無空間の上を滑っているため、効果はなく、床のある部分まで後退に成功した。


重力を利用して飛び出している関係で、この無空間の移動方法は高さと落下速度が重要になってくる。

高さが稼げなくなれば、地面を蹴って、もう一度高度を得る必要があった。

それを学んだ月守(つきもり)は、遠くまで滑らかに落ちたあと、もう一度蹴り上がり、高所で再びバリアの中に寝そべる。


移動をこの無空間の摩擦ゼロに任せる事で、月守(つきもり)は常にゆったりと能力を行使する対象を見つめる事ができ、冷静に戦局を判断可能かつ、落下被害者の救助が可能だった。

自らの足で逃げてはこうはいくまい。


犯人は鉄を自らの身体に纏わせ、巨大な鉄の犬の形をとって突っ込んでくる。

ゴガガガガ!と、鉄がぶつかる轟音を鳴らしながら、廊下いっぱいに破壊をもたらしながら飛び出してくる。

その巨大な犬が進んでくると、壁という壁から金属のウツボが放たれた。


「わわっ!」


凄まじい攻撃の圧。

嵐のような攻撃の量を前にするが、犬は空をかいて人を救助するために敷いた無空間に乗り上がり、踏ん張りが効かずに廊下曲がり角まですっ飛んで衝突した。


「……わぁ」


月守(つきもり)の能力は見た目は控えめで、破壊行動などを起こさない。

だが、その巨体の体勢を崩して飛ばしてしまったのを目の当たりにし、彼女も大きな実感を持った。


この力は、国家を圧倒できる過ぎたる力だと。

だが、今は全能感より、出来ないことと弱点を考えていく事に集中する。


「オオラァァ!!」


犯人は構わず踵を返して突進してくる。

金属が擦れ合う轟音と、各所から発射される金属のウツボビーム。

だが、月守(つきもり)が無空間を敷き詰めれば、地面を叩く音が止み、足を動かせなくなった犬型の鉄は金属を擦れさせるだけで、攻撃できない。


あまりの破壊行動に、月守(つきもり)の足場は無くなっていたが、無空間は空中に浮けるため、落下することはなかったどころか、高さを得た。


「せーの……っ」

挿絵(By みてみん)

下階へ落ちる勢いを利用して、廊下の奥へと高速で飛び出す。


「ウラババババァァア!」


暴れまわりながら突進してくるが、月守(つきもり)は進むにつれ、空間が狭くなるように無空間を展開。

素早い勢いのまま侵入した鉄の犬は、段々と狭くなる空間に押しつぶされていった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛痛い痛い痛い!」


中に入っていた男に鉄が食い込んだのか、鉄を解除して、転げ出てきた。


「ちちちちち、畜生!何なんだよあんたぁ!!」


「おおおととと……!」


急に立ち止まったものだから、月守(つきもり)は慌てて無空間で勢いを殺そうと真上に1回跳ね上がったあと、地面にベチっと落下した。


「あうっ」


もちろん、無空間を敷いたから地面の衝撃はないが、元から体にあった勢いが急に止まるので、それなりな痛みがあった。

あと、押さえていた首からの出血が少しあったが、これはすぐ押さえ直した。


無空間を掘り下げるようにして、再び体の座りが良い空間を作る。


「あなたがっ! 派手にやるからじゃないですかっ!」


実際、自分が作った勢いで彼は潰れたのだ。

月守(つきもり)は潰す力をくわえていない、彼の力を利用して潰したのだ。


月守(つきもり)は自分に下された評価を今になって実感した。

負ける気がしないのである。


不意打ち、新技、そういった可能性は潰しきれないが。

彼の持つ物理攻撃は尽く防御できるのだ。


ただ、能力の消耗がそれなりだ。

落下する人々の救助にも能力を使っているため、消耗が激しい。

自我が空間に溶けてなくなる感覚が軽いめまいを引き起こす。

それは相手も同じどころかより酷いようで、立ち上がる時にふらついていた。


「全然余裕そうだしよォー! ムカつくぜマジで!!

 俺は強いんだ! 強い強い強い強い!

 こんな建物、粉微塵に出来るんだぞぉぉぉ!!

 なんなんだよあんたは! 魔法使いなんだろぉ!

 魔力ありすぎだろ――がぁ――――ッ!!」


「……」


創樹(そうじゅ)から教わったセオリーの差も感じる。

情報戦で最初からこっちには大量の情報があった。

向こうにはそれが無い。

研究対象は皆ここで実験され、能力を解明されるが、それらは個別に行われ、結果は本人が言わなければ共有されない。


月守(つきもり)は超能力は自分が世界に馴染めなかった汚点だと思っていたため、誰にも能力を自慢することはなかった。


しかし……どうしたものか。

なんだか月守(つきもり)だけでかなりダメージを与えてしまったようである。

といっても、いよいよ相手もおかしいと思ってきたようだ。


「おかしい……絶対変だ!

 あんな量の民間人を救出して、なおその余裕!

 てめえ……! 超能力者だなこのアマ!!」


「バレちゃった……」


いや、だからどうという事もない程圧倒的なのだが……。

ある種のアドバンテージは失われた。


「この奇天烈な防御魔法も、障壁じゃねえだろうしよォ!

 カーッ! 騙されたぜ! なんて酷いやつなんだ!

 純朴な男を騙す悪い女だ!」


……そうもハッキリ言われると逆に面白くなってしまうものである。

月守(つきもり)は随分余裕が生まれた。

この能力への理解がこの戦闘でより深まったのもある。


どれだけ勢いよく壁や床にぶつかるような高速移動をしても、無空間にぶつかるようにリカバリーすれば、自身の体を守る事ができるのだ。

今なら一息で列車を止めることすら出来るのである。


 ……恐ろしい事だ。


そうふと感じる気持ちもあったが、それは向こうも同じだ。

緩まった口と気を引き締め、相手を見据え直す。


これが超能力によるものだと向こうが把握した以上、さっきみたいなダメージを負うような事はしないだろう。

月守(つきもり)の無空間は光の輪郭があるから、相手にもどのように展開されているのかまるわかりなのだ。

ダメージとして期待出来ない。


ここからは、二人次第、早く中庭に引きつけよう。

助けてもらうヒロインというよりは、頼もしい戦果をあげたヒーローの気持ちで。


「そうですね、私は超能力者です……。

 そもそも、私は魔法使いだと自称したことは無いですよ?

 ……勝手に勘違いして、頭が弱いんですね、可哀想に……」


「んだとテメェェェェェ!!!!」


激情するのが分かっていた。

だから、壊れた壁から中庭に飛び出し、最大の大きさの半径1mのバリアを展開。


激情した故に、肥大化した意志の強さが、巨大な獣の顔を作り、月守(つきもり)をバリアごと噛み潰そうと力を加えた。


中庭に、大きな犬の頭が生えていて、歯を食いしばり続けてる。

月守(つきもり)はその口の中で、飲み込まれる事も、傷つけられることもなく、猛攻を喰らいつづけていた。

絶え間ない鉄の噛み、あまりの大きさのため、もはやプレス機と相違ない。


だが、寝転んだ体勢で、できる限りの役目を終えたので、完全に締め切ったバリアを展開し、残された空気でゆっくり呼吸することにした。


犬は何度も口を開けては締め、開けては締め。

鉄のぶつかる轟音が当たり一面に轟くが、月守(つきもり)の無空間の中は驚くほどの無音に包まれていた。


そうしているうちに、創樹(そうじゅ)が降ってきて、バリアの上にあぐらで乗っかった。

左手を突き上げ、閉まる上顎に向かって魔法を放った。


エイント(エin-ト)!」


バン!という大きな音と共に、一瞬の閃光と雷光。


「あ゛うえ゛ぐぇあ゛ばばばッ……――ァ……」


電気による発火が起き、悲鳴が聞こえる。

創樹(そうじゅ)の機械の左腕は圧迫されひしゃげてしまったが、代わりに犬の頭もボロボロと崩れていった。


「あでっあでっ」


創樹(そうじゅ)の頭に次から次へと金属片が降ってくる、なので、月守(つきもり)が無空間を伸ばして、屋根をつくってあげ、空気穴を空けて会話できるようにする。


「ありが……うぅえっほえっほ!!

 ちょ……砂塵がやべえ! いれ……えっほ!」


「……相部屋はちょっと……」


「そういう問題じゃなくねェ!?」


「そういえば荒木(あらき)さん、二人目の犯人が居ます!」


「……なんだって!?

じゃあ、げっほ、はやく……」


瞬間のことだった。

上からさらに降ってきた何かが創樹(そうじゅ)を蹴飛ばした。


新手かと身構えたが、その姿は昊菟(こうと)だった。

上着を脱いで、髪は濡れてぐっしょりと肌に張り付いていた。

落下してきたのか、バリアに張り付き、滑り落ちる前に、月守(つきもり)に声をかける。


月守(つきもり)! 着地!」


何が起きたか理解できないまま、月守(つきもり)は下に無空間を再展開。

その間、何か高周波の音を聞いたが、砂塵の中で何も見えない。


上に乗っていた昊菟(こうと)はバリアがなくなった月守(つきもり)の手を取った。


「があっ!!」


砂塵で見えない中、昊菟(こうと)の悲鳴が上がる。


昊菟(こうと)君!?

 あつっ……!」


何か、砂塵の中にとてつもない熱を感じた。

どうにも昊菟(こうと)はその熱からかばっているようだった。

より強く引き寄せ、覆い隠すようにかばう。


昊菟(こうと)君!」


無空間を伸ばして防御しているが、昊菟(こうと)の背中側が燃え上がる。


「な……なんで!?

 無空間で防御してるのに!」


「構えろオッサン!俺と反対側の屋上だァーッ!」


昊菟(こうと)が言い終える頃には無空間に着地する。

その衝撃で昊菟(こうと)が弾け飛び、月守(つきもり)に熱波が当たる。


眩い光のあと、体の表面が熱される。


「うわああっ!いやあーっ!」


月守(つきもり)!」


すぐに昊菟(こうと)が覆いかぶさる。

熱さと痛みで月守(つきもり)は能力を解除したようで、地面に体が直接ついていた。


「がアァっ……!

 落ち着け! 大丈夫だ、これでもだいぶ軽減してる、死にはしない!」


「うっ……なに……!? 無空間の防御をしたのに……なんで」


「対策だ。

 無空間は光は通す。

 だから、光熱で攻撃している……!」


「あ……あまりみえない……」


「くっそ、目に光線浴びたか……!」


昊菟(こうと)が右手を目の周りにあてがった。

それは、目の状態を確認するための行動だったが、昊菟(こうと)が持つしょうもない能力が効果を発揮した。


砂塵しか見えなかった世界に、ぼんやりと昊菟(こうと)の肩と背中から上がる火が見える。


「あ、そのまま……いま見えてる」


「ぁ……よし! 無空間で砂塵を避けられるか!?」


「少し、時間があれば……!」


「よし、創樹(そうじゅ)のおっさん! プラズマ砲の準備出来たら教えろ!」


「ああ!? どういう事だ!?

 もうすぐにできるが!

 どこに撃つんだ! なんにも見えねえぞ!!」


「そうじゃない!すぐわかる!」


土煙の砂塵の中、無空間の月光のような光が包み込む。

砂塵の間のわずかな空気を少しずつ、無空間に変えていく。


「があああっ!」


昊菟(こうと)の背中が燃え上がる。

月守(つきもり)は何が起きてるのか、わからないまま、昊菟(こうと)の服を握って、能力を強めていく。

やれと言った昊菟(こうと)を頼るように、すがるように。

大丈夫なのだと信じるために、昊菟(こうと)が自身を犠牲にしていない事を願うように。


「理解した!行けるぞ!」


「……能力解除ォォォォ!」


昊菟(こうと)の声を聞き、月守(つきもり)は能力を解除する。

無空間で薄まっていた砂塵が、ドンと縮こまり、急に煙を濃くした。


「姿勢制御機構作動!行くぜ!ぶちかます――!


 原初の爆発(ビッグバン)!」


音が消え――。


数瞬の間に、砂塵が消え、青空が開けた。

頭が破裂しそうな轟音が響き渡った。

研究所の一角が崩壊している。


昊菟(こうと)君! 昊菟(こうと)君!」


自分が出す声が遠くに聞こえる。

瓦礫の崩れる音で、誰かが何かを言っていたような気がするが、それも聞こえない。

聞こえているのかと、数回よびかける。


昊菟(こうと)は、倒れ込むように月守(つきもり)の顔の横に頭を打ち付け、突っ伏したまま顔を向け、言葉をかける。


「突き上げて、起こしてくれ……!

まだ、やることがあるんだ……ッ!」


再びぼやけた視界で、昊菟(こうと)の体を下から押し上げる。


月守(つきもり)も上体を起こし、手探りで昊菟(こうと)の体を支えた。

昊菟(こうと)の『(ホーリー)』が目から離れ、視界が悪い。


「どこへ、行きたいの?

 私、見えないけど、まだ歩けるから……」


「そうか……こっち」


昊菟(こうと)が倒れそうになりながら月守(つきもり)に行きたい方向へ身体を傾ける。

それを感じて、月守(つきもり)昊菟(こうと)を抱えて歩き出した。


【魔法と超能力の違い - ②】

魔法で超能力を再現しようとすると、コストと習得時間が膨大になることから、超能力はその力の強大さで秀でている。

超能力は一人が一つの現象を起こすことのみに絞られるので、汎用性において、魔法に大きく劣っている。

一長一短はあるが、努力もなく発生し、尋常ではない膨大な力を振るう超能力者が、戦闘においては優位に立つ事が多い。

学の才能がある者ならば、魔法で勝つこともできるかもしれない。

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