11 - 作戦会議④
※イラストは特に表記が無ければ全て天鬼作のイラストとなっています。
リアライズ辞典wikiがあります、もし良ければご利用ください。
https://rearizedictionary.miraheze.org/wiki/%E7%94%A8%E8%AA%9E%E9%9B%86
「坊主なんかおまえ、アングラな方面に聡いなお前……。
ちょっと不気味だぞ」
今までのことでドン引きしたいのはこっちなんだぜ、オッサンさあ……。
昊菟は苦笑いをして思うところを伝える。
「失礼なキテレツ爺さん。
こういう推察は警察絡んでそうなあんたの両分なんじゃ……?」
「あー……俺は警察側の鉄砲玉みてえなもんなんよ。
事件の調査は7割以上列島の警察の仕事だ。
俺の仕事は、ほぼあいつらが捜査した情報を元に、推察し大陸、研究所に引き渡すまでだ。
特殊部隊みてえなもんを想像してくれ、刑事とはちっと違う、戦闘人員であり、調査はおまけの業務だ。
人員不足だからそれっぽいことを兼任しちゃいるが、不得意分野なんだぜ?」
なんてふわっとした業務なんだろうかと昊菟は思った。
仕事の役割分担がキッチリと成されておらず、人手不足なための掘っ立て業務なのが伺い知れるのだった。
列島はそれでも秩序が守られてる方らしいのだが、じゃあ一体大陸はどんな事になってるんだ……。
「直情的……なら、考えなしに行動するのでしょうか?
快感を優先するような?」
「あ……いや、どうだろう。そうじゃないかも。
組織で手綱を握れていたということは、多少は抑えが効く人物なんだと思うんだ。
見張りを二人も用意するあたり、信用が高いとは思えない。
どういうわけかはわかんないけど、今回の殺人も、笑い声しか聞こえなかったから、被害者から声が上がったわけではなさそうだったし。
殺人は、相手が叫びだすのを抑制できる方法を取っていたんだと思う。
つまり、冷静な犯行だったんじゃないか?
直情的な線よりも、僻を持った人物という可能性が高いかな」
「――……」
月守は、不安げな顔をして、胸のあたりで手を握り込む。
彼女も列島で超能力ありと、ここ最近言われたばかりの人物だ。
こういった凶悪な思想の人物と相対する経験が豊富なわけではない。
それに対して、一人での防衛戦を考えているのだ、気が軽いはずはない。
何かしらのミスをすれば、誰かの助けもなく狂人の僻で理由のない拷問をされて殺されるというのだから。
「降りるなら良いんだぜ?」
「降りれるような人なら、ここに居ませんよ」
……昊菟はそこに対する恐怖心がない。
何故、彼女が適任なのかと呪う思いがあった。
そのような耐久できる能力を自分が持っていれば。
その役を、喜んで買って出ていたというのに。
それは、創樹もそうなのだろう。
こうなるのをわかっていて、情報を伏せたのかもしれない。
彼にとって、月守を呼んだのは、昊菟のボディガードをさせるためだったのだろう。
だが、自分達を犠牲にしても彼女の能力による防御の方が低リスクなのだ。
その上、望みは死傷者ゼロ、二人が代わってやる事はできない。
「矜持はその人を傷つける僻にあるとするなら……。
戦闘行為に喜びを見出す人かもしれませんね」
「矜持を折るといった方法を取りにくい……か」
「暗殺不可能、また暗殺失敗の場合、出たとこ勝負の正面戦闘になるってぇのは、ちと安心できねえな」
「成功しにくいもんなのか? 暗殺」
「そうだな……俺の体感だが、7割成功する。
だが、時間をかける必要がある。
重ねて、残り3割で全滅にリーチがかかる事が殆どだ。
超常犯罪者は皆、強力な能力を持っている事が多いんだ。
成功率は高くても、リスクもそれなりに高いってこった。
いっそのこと、正面戦闘で圧殺出来たほうが気が楽だね」
「残念ですが、私達の持ちうる最強攻撃力は打ち切り一発、創樹さんの腕のプラズマ砲ということですよね……」
「しかも大して魔法を連打しなかった場合の大火力だ。
魔力が少なくなりゃあ威力も落ちる」
「わりとギリギリじゃんか」
「我が身を気にしないなら、ゼロ距離プラズマ砲で事は済むんだがね。
どうせ俺なら、政府やらどこやらが生かしてくれるんだから、良いんじゃねえか?」
「……」
緑の瞳がまっすぐ創樹を見つめ、適当にヘラヘラしてた態度を貫く。
「へへへ……」と口をついてでた紛らわす笑いが出て、ふらふらと目線と姿勢が月守から離れていった。
バツが悪そうに頭をポリポリ掻いている
高校一年生の女の子に萎縮する100歳以上のおっさんがそこには居た。
「私の防御で事足りなかった場面においては良いでしょう。
ですがそれは騙し討ちにも使える虎の子として隠しておくべきです」
「そうか、奥の手か、悪くない……!」
急に嬉しそうになったご老人。
なんだこれ、絵とセリフが逆だろ。
「……追加と訂正を。 私か昊菟くんの合図が出るまで禁止です。
喜び勇んで使ってしまっては、奥の手になりません……」
今度はしょんぼりした。
なんだろう、見ているだけで楽しくなってきた昊菟だった。
「あ、そう言えば月守……先輩、」
「先輩!?」
顔を真っ赤にして、手を肩口まで上げ、合わせたり、指を両手で押しやったり、下げたり上げたりと、瞬間で挙動不審になった。
「あ、ほら、俺今年高校一年で、先輩は二年なので」
「えっと……敬われるのは非常に落ち着かないので……気楽な敬称を希望します……」
「じゃ、月守さんで」
両手をぐっと握ってウンウンと素早く大きく頷かれた。
「死体が残っていた理由が、俺は気になるんだ。
今までの事件だと、死体は消されていたんだろ?」
「……たしかに、てっきり、バレる事を前提に行動したのかと思っていましたが……。
創樹さん、残っていた前例はあるんですか?」
「無いこたぁねえな。
死体が著しい損傷を負って、一部だけ残ってたり、アイツの出す被害者はどいつもこいつもどっかしらが食いちぎられて欠損してやがる。
一応、ヤツの仕業かどうか、判別がハッキリついてるわけじゃないが、高確率でアイツだろと推察される欠損死体は他にも数件あるんだよ」
「……今回は全くの手つかずで、邪魔があった感じでも無いのが気味悪いよな」
「妙な点だな確かに。
昊菟はなんだと思ってんだ、その辺」
「……模倣犯。
重ねて推理するなら、暴力団側か、警察側の工作」
沈黙。
険しい顔で顎を擦る創樹と、口を手で覆う月守。
受け入れるまで、数秒があった後、顎に手をぐっと手を当て直した創樹が口を開く。
「確かに、ありえる話だ。
だが笑い声はなんだ?
あれでアイツだって判別出来たんだろ?」
「……いや、そうじゃないかもしれない。
犯人の男のものと思われる笑い声、ここに寝泊まりしてる月守さんは聞いたか?」
「はい……聞きました」
「じゃあ、あの男の普段の声は?」
「いえ……」
「俺もそうだった。
俺たちはアイツの普段の声を聞いてないけど、年齢層と性別で声の主を自然と推察していたんだ。
基本的に、中学生から大学生までが殆どのこの施設で、大人の男の笑い声を聞いたからだ。
俺たちは、ちゃんと彼と話したことがないから……。
この事件が彼のものだか、判別がついてない」
「……業務指示は、犯人を確定させたって事になってるが?」
「それが、今回の件が警察絡みかもと俺が思ってる理由なんだ。
杞憂であることも考えられるけど……。
俺たちが聞いたこと無いだけで、確定させた側は何らかの音声データやらで一致させていた可能性があるから。
でも、そこに死体が残っている違和感が、どうにも腑に落ちない。
邪魔をしたという記録もないんだ。
報告通りなら、死体を消す時間もあったろうに。
どうせバレる事にかわりがないから残したとしても、今まで証拠を残さないように努めたやつのやり方としては違和感が残る。
……まあ、想像でしか無いんだけど」
皆が黙して、思考を巡らせる。
だが、これ以上考えつかなかった。
「……わかりました。
現状の作戦を確定させても良いでしょうか?」
二人は、了承する返事をする。
「……では。
私は彼の後をつけ、能力による被害封じ込めができる状態を作り、自発的に戦闘を行わず、危険があると判断したら防衛戦を行います。
お二人は、その間、聞き込みと管理側のデータを確認。
情報を確認でき次第、私に連絡。
私と合流し、最終調整を行い、暗殺……。
失敗した場合は追加の情報を加味した作戦で戦闘を始めます。
不足の事態の場合は……ふう……」
声が震えている。
だが、自分で拾い上げた心労だ。
月守が責任を持ちたがった事だ。
それは、月守が月守自身を苦しめる、自滅的な行動とも言える。
自業自得というのが正しいことだろう。
だが、昊菟はそういうものを嫌うタチだった。
他人をどうにかしたいと思う、エゴだ。
月守の事は、月守自身で解決出来るようになれなければならない。
昊菟が全てを引き受けては彼女の為にならないだろうし、昊菟を守るという目的でまた譲ってくれないだろう。
でも、この程度の事は、分け合っても大丈夫だろう。
それに、他者を想う彼女が、他者に想われないような絵面は、昊菟には耐えれないものだ。
月守の肩に手を置いて、指で頬をむにっとする。
「はいっ! なうにゅ」
「中庭に集合だ。
人目があるから、警察、暴力団関係者が邪魔をしづらい。
アクセスしやすいから、俺らも駆けつけやすい。
俺も、オッサンも、ふたりとも遠距離での攻撃手段が多いから、窓から援護しやすい」
強がりでにっこりしてみせる。
……上郷はこの中で最弱戦力で、最も役にたたないが、ここはソウルの問題だろう! と己に言い聞かせていた。
月守は恐怖が抜けきらないのか、苦笑しながら昊菟の心配に応えるように取り繕ってみせた。
「はい……それでいきましょう
……昊菟君、緊張しないんですか?」
「するよ。
でも、あきらめた。
どうせ、やることは決めてるんだ。
何が起きても、俺たちは止まらないし、止まれない。
月守さんも、そうなんだろ?」
手をぐっと、強く握りしめ、小さく頷く。
力強くはない頷きだが、まっすぐ昊菟を見据えていた。
「わけが分からなくなったら逃げるんだぞ。
元々ぁ、俺の仕事なんだ。
無理すんな、優しい能力者諸君。
じゃあ、行動開始だ行くぜ!
ちょっぱやで合流してやるかんな!」
皆、小走りで屋上を後にした。
◇
【超能力者申請】
超能力者であることを申告するのは自己申請だ。
人権が認められなかったり、自由な生活を制限されるなど、多くの不利益があるが、住む場所も権利も持てないような人々にとって、超能力があるというだけでムー大陸での生活が保証されるため、多くの者が詐称しようとした。
判明した者は、国連からの援助を打ち切られ、住む場所を追い出され、ムー大陸でより肩身の狭い思いをしている。




