第2話:対敵
「この村に観光で来たってのは嘘やな?貴様のことはすでに調べてある。この村の記事を書くために来たんやろ?」
村長は桐生に猟銃を向けながら言った。
「なんだ、知ってたのか」
「貴様が書いた記事も読んだ。貴様、人殺すの初めてや無いやろ」
「あれ、そこまでバレちゃってた?」
「貴様がこの村に来てからすぐに貴様のことを調べた。そんで、ずっと疑問に思っとった。あんだけ危険な事件に何度も巻き込まれてたら、普通の人間やったらすでに死んどるか、そうじゃなくても記者なんか辞めとる。だが、貴様のその目を見て確信した。ワシと同じ、人殺しの目やってな。貴様、いったい何人殺したんや?」
「何人、、、うーん、覚えてないな」
「まぁいい、人様に迷惑かける殺人鬼はワシがここで殺したらぁ」
そう言うと、村長は桐生の頭に銃口を定めた。
だが、桐生は村長が猟銃の引金に手をかけるよりも先に村長に詰め寄り、彼の顔を思いきり殴った。
そして村長から猟銃を奪うと、彼の頭に銃口を当て引金を引いた。
「・・・あとはお前だけだな」
桐生はそう言いながら、一部始終をずっと傍観していた若い村人に銃口を向けた。
「待ってくれ、俺は何もしてない。俺はただ命令されただけなんだ」
「お前、随分若いな。何歳だ?」
「17だ。俺は村長達に命令されて仕方なくここに来ただけなんだ。頼むから見逃してくれ」
「それなら、この村の都市伝説について知ってることを全部話せ」
数十年前、この村にはダムが建設される予定だった。
村人達はダムの建設に反対したが、国は半ば強引にダムの建設を進めようとした。
ある日、ダム建設の調査に来た役人と村人達との口論の末、村人達は誤って役人を殺害してしまった。村人達は一丸となって役人の殺害を隠蔽し、それ以来この村では神隠しが起こると噂されるようになった。
それで済めばよかったが、いずれ役人を殺したことが明らかになることを恐れた村人達は、自ら様々な都市伝説を広めることで外部の人間を村に寄せ付けないよう目論んだ。
村人が突如発狂して猟銃を乱発したり、村人全員が一夜にして姿を消すといった不可解な事件はすべて、村人達が自ら生み出した都市伝説だった。
ところが村人達の考えとは裏腹に、都市伝説目当てに村を訪れる者が増えた。
歯止めが利かなくなった村人達は自ら生み出した都市伝説を守るため、村を訪れた人間を殺害し森に埋めることで、神隠し伝説が嘘ではないことを証明し続けた。
「これが俺の知ってる、この村の全てだ。頼む、お願いだから見逃してくれ」
「なるほどな。そんな事だろうとは思ってたけど、まさかここまで狂ってるとは正直驚いたよ」
そう言うと、桐生は若い村人の頭に銃口を向けた。
「安心しろ、お前の両親もすぐにそっちに送ってやるよ」
「・・・クソ野郎が」
目に涙を浮かべながら桐生を睨みつける若い村人をあざ笑うかのように、桐生はゆっくりと引金を引いた。
村長の家に戻った桐生は荷物をまとめると、村を出るためにトンネルへ向かった。
するとトンネルの入口に、両手に斧を持った大男が立っていた。
「マジかよ、猟銃の一本くらいくすねてくりゃよかったな」
桐生はボソッと呟きながら、大男にゆっくりと近づいた。
「さっきは村を案内してくれて助かったよ。一応聞くけど、俺のこと見逃す気はあったりする?」
「・・・お前にはここで死んでもらう」
そう言うと、鷲尾は右手に持っている斧を桐生めがけてぶん投げた。
「おいおい、あんなに親切で優しかったお前さんはいったい何処に行っちまったんだよ。さっきとはまるで別人じゃねーか」
幸いにも桐生は手に持っていたパソコンで飛んできた斧を防いだが、パソコンは使い物にならなくなってしまった。
「うーわ、サイアク。これ、会社から支給されてるパソコンなんですけど」
パソコンの心配をしている桐生をよそに、鷲尾は桐生に襲い掛かった。
桐生は仕方なく落ちている斧を拾い上げて応戦しようとしたが、鷲尾の力は予想以上だった。
それでも鷲尾の攻撃をなんとか避け、鷲尾の背中に斧を突き刺した。
だが、鷲尾は背中に斧が刺さった状態でも攻撃の手を止めなかった。
「やっば、不死身かよ」
桐生は鷲尾の攻撃を避け続けたが、体力は既に限界だった。
「ちょっと待って、一旦休憩。お前もこのままじゃ失血死するぞ」
「その前にお前を殺してやる」
「マジで化け物かよ」
すると桐生は突然、驚いた顔で鷲尾の後ろを指差しながら言った。
「なんでお前が生きてんだよ、村長。お前はさっき、俺が確実に殺したはずだろ」
桐生の言葉を聞いて、鷲尾は思わず後ろを振り向いた。
だが、そこに村長の姿は無かった。
「嘘だよ、バーカ」
そう言うと、桐生は鷲尾の背中に刺さっている斧を抜いて、鷲尾の頭めがけて斧を振り下ろした。
「・・・マジでしんどかったわ。よし、帰ろ」
桐生は鷲尾が死んだのを確認すると、トンネルを抜けて村をあとにした。