訪問者
それは足音だった。
しかも、金属製の鎧を着たような足音。確実にこちらに近づいている。
かなり近づいても鳴子は鳴らなかった。おそらく跨いで越えたのだろう。
オレは手早く休憩の為に緩めていたブーツと腰のベルトを締めた。
そして小剣を手に取り、身構えようとしたその時、足音の主の声がした。
「すみません。食料を分けて頂けないでしょうか?」
「何者だ!」
オレは小剣を抜き、威嚇の声を出す。
「道に迷った旅人です」
男は両手を上げて姿を現した。
全身酷く汚れているので判別は難しいが、年代は中年といえるだろう。外套を羽織っており、その下には古く汚れた鎧を身に着け、腰に長剣を下げているのが分かる。
敵意は無さそうに見えるが、油断はできない。なんせ、汚れてはいても、その鎧には見覚えがありすぎるほどある。
「旅?王国騎士がこんな所で何の旅をしているんでしょう?」
そう、ソイツの格好は紛れも無く王国騎士のそれだったのだ。オレは一応は敬意を示す言葉遣いをした。
「おそらく貴方と一緒ですよ」
騎士は言った。
「地下要塞がらみです。騎士は騎士で別任務がありましてね」
「別任務とは?」
「それは言えません。しかし残念ながら私の任務は失敗です。巨大蟻の群に襲われ隊は壊滅しました。私はそれを報告に帰らなければいけない」
騎士は憔悴した様子で言った。
「それはお気の毒に」
オレは付き出した小剣を下げた。そして、消えかかった焚き火に燃料をくべる。
「肉なら余分ににあるので、構いませんが、情報をいただけませんか?あの街はなんなのか、ご存じないですか?」
何の気なしに、来た道の先を指して言った。すると騎士は一瞬考え込む。
「いや、言える範囲でいいですよ。言えなきゃそれで構いません。何か事情がありそうですからな」
オレが察してフォローを入れつつ、肉を分けようとすると、それを遮るよう騎士が口を開いた。
「あそこの領主は、王国の元第三王子だったんです。悪名高いね」
それを聞いてオレは後悔した。
だが、もう後戻りは出来ない。
「領主?王族が?地図にも無い街の?」
オレは動揺を悟られないよう、なるべく普通を装って聞き返した。