野営
もうすっかり日は落ちていたが、月が出ているのは幸いだった。
オレは道から十分距離を取った所で適当な岩を探し、そこを背にする形で野営の準備をする。
野営といっても、完全に寝るつもりはない。朝まで岩を背もたれにして休憩し、15分程度の仮眠を数回取れれば良しという感覚なので、準備は適当さ。
岩を中心に拾った枝を丸く立て、持参したロープで括って鳴子を仕掛ける。
そして、焚火をして先ほど捕獲した大鷲を焼いて食う。それだけだ。
大鷲は一旦適当な木に吊るす。そして、羽をむしって血抜きをし、内臓を取り、適当に切り分ける。
内臓と血を捨てるのは栄養的には勿体ないが、十分な調理が出来ない環境では持て余すので、肝臓以外は破棄する。放置すると匂いで獣や虫、魔物が寄って来る場合もあるので穴を掘って埋めてしまうのだ。
今食べる分以外の肉は念入りに火を通し、殺菌作用のある葉でくるんで革袋に入れておけば明日ぐらいなら問題なく食べられるだろう。
明日食いきれない部分は、勿体無いが破棄だ。だから、上等な部分だけ贅沢に切り分けた。
そうやって選んだ肉を、削った枝で作った串に刺し、焚火の周りで焼いていると、火に落ちた脂が煙を出し、なんとも香ばしい匂いがする。
頃合いを見計らって、オレは一つを手に取って、持参した岩塩を軽く振ってかぶりついた。そして革袋から水を少量ずつ口に含んだ。
肉と塩分と水分が体に染み渡るのが分かる。
そして、真っ黒になるまでに良く焼いた肝臓を食べる。こちらは決して旨くは無い。ロクな下処理が出来ない環境だからな。だが、疲労し、出血までしている状態では薬だと思って食っといた方がいいんだ。
同様に、軟骨や細い骨もいくつか選び、時間をかけてバリバリ噛み砕いて食べるようにする。
こういう時の食事は半分は楽しみで、半分は作業だな。
最後に国から貰った固いパンを少々齧って食事は終わりだ。動けないほど食ってはいけない。
必要な栄養を取ったら、後はそれが少しでも体にいきわたるように、岩にもたれ掛かって休んだ。
一呼吸着くと、様々な音が聞こえてくる。焚火のパチパチという音の他に風の音、虫のざわめき、何かの動物の遠吠え。
それらの音に耳を慣らし、異なる音がしたらすぐに反応できるようにするんだ。
もちろん、何事もなく朝を迎えられたらそれに越したことは無いんだが、こっちが負傷している時に限って、そうはならないもんだ。
オレがその音に気が付いたのは、2回目の仮眠から覚めた頃だ。