瓦礫と空き家
オレが躊躇していると、遠くに少女のような人影が見えた。
彼女は街を貫くように破壊して出来た”道”に沿って歩いているようだ。
オレはそれに導かれるように街に踏み込んだ。
しかし、その瓦礫だらけの”道”は思った以上に歩きづらいもので、倒壊した柱や家具の残骸を掻き分け進んでいる内に彼女の姿を見失ってしまった。
しまった!
一瞬そう思ったが、そこでオレは我に返った。彼女を呼び止めたとして、いったい何を話す?
そして、子供から見たらオレはどう見てもただの不審者だ。人を呼ばれて騒ぎになる懸念もあるではないか。
オレは、無理して少女を追うことはあるまいと思い直した。
ただ、人がいるかもしれないということだけを想定に加えた。もし大人を見かけたら、身分証を見せて『調査の途中に立ち寄った』と堂々と言えばよい。そんなことを考えることで頭が整理されてきたオレは、街の中を少し探索することにした。
瓦礫の”道”以外の本来の道路は整備されており、とても歩きやすかった。
道路に沿って、様々な看板を掲げた店らしきものがある。しかし、どの店にも人はおらず、商品らしき物も何も無かった。
看板と、何も置かれていないテーブルやカウンター、そして空の商品棚だけある空き家がずらりと並んでいる。看板の文字はクセはあるものの共通言語がほとんどなので、だいたい読むことが出来た。
青果、パン、燻製、衣料品、金物、そんな店舗が連なり、中には金融系の店まであった。
関所のゴブリンは、おそらくここから適当に看板を選んで持って行ったのだろう。
逆に言えば、ゴブリンが簡単に忍び込んで看板を持っていくぐらい、人がいなくなって久しいとも言える。
実際、どの店の床もテーブルも埃まみれだった。
ならば先ほどの彼女は誰だろう?存在自体は見間違えでは無いと思うが、ひょっとしたら瓦礫漁りのゴブリンや、他の亜人を見間違えたのかもしれない。
ともかく、もう少し踏み込まなければ埒が明かなそうなので、いくつかの店の中まで入り込んで調べてみた。
人こそいないが、幸いなことに白骨死体のようなものはどこにもない。引っ越した跡というのが、一番しっくりくる状態だった。しかし、これだけの規模の住人がどこに引っ越したのだろう?建物の状態から見ても、徐々に過疎化したのではなく、ある時期にそっくり移動したように見える。
新聞の類でもあれば、何が起こったか分かるのだが、そういった印刷物のようなものは中々見つけられなかった。
調査は徐々に大胆になっていき、オレは店内だけでなく居住区と思われる所にも足を踏み入れ、机や箪笥の引き出しを開けて中を漁った。
やはり文献の類は一切無い。かろうじて見つけたのは、売上伝票のような紙束だ。その紙の中に王国の印が押された納税通知書があり、ここがかつては王国領だったことが伺える。
しかし高い・・・
オレはそこに書かれた税金の高さに呆れ果てた。騎士同様に、辺境では領主も好き勝手やっていたのだろう。
領主!
そこでオレは閃いた。領主がいるなら領事館もあるだろう。そこになら何か資料があるかもしれない。
領事館があるとしたら、だいたい街の中央だろう。
オレは比較的高い建物の屋根に上り、街の全貌を見渡した。すると例の街を貫通した”道”は、街のほぼ中央を通っていたことが分かる。そしてその”道”の中央は瓦礫が一段と高く、かなり大きな建物が破壊されている。
おそらくあそこが領事館だ。
そして・・・
そこは少女を見失った場所とほぼ一致する。




