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契約

 舟は半自動で動いており、乗員はオレとパルの二人しかいない。

 そこでパルは様々な際どい話を始めた。

 オレがフライング気味に色々質問をしたが、元々ここで話すつもりだったのだろう。パルの話は多岐にわたるが、それぞれ冷たいぐらいに簡潔だった。


 曰く、竜騎士長のクーデターの計画を事前に察知している。彼は独立反対派の導師を亡き者にし、自身がNo2の座に着くつもりだと。


 現在、第三王子と導師は牧場視察をしながら、竜騎士長の構想する新生物(モンスター)部隊がどこまで実現可能かを見極めているという。その一環で竜騎士長のプレゼンの機会があり、その中で彼は何かしらの行動を起こす可能性が高いと。

 オレに対する依頼は、そうなった場合の導師の保護および竜騎士長の逮捕。


「成功報酬は貴方が王国から提示されている額の倍を用意します。まず手付として、引き受けてくれた場合その昏睡剣(スタンブレード)は差し上げます。それだけでも王国金貨10枚分の価値はある品です。また、望むなら我が国の永住権と職も提供することが可能です」

 パルの口調はこれまでと打って変わって冷たかった。オレにはこれが虚勢であることが分かる。彼女も緊張しているのだろう。

「永住権ねぇ・・・」

 

 オレは少し考えた。

 依頼内容はだいたい予想通りだ。王国に義理は無いが、これを受けると言うことは完全に敵対勢力に肩入れすることになる。これまでと同じ生き方は出来なくなるだろう。

 王国の未来が安泰とも思えないが、それ以上にこちらはまだまだ吹けば飛ぶような勢力だ。どちらを選んでも行く末の保証は無い。


 腹はだいたい決まっているのだが、人生の岐路のような決断だ。一呼吸も置きたくなるもんだ。

 オレは船べりにもたれ掛かり、しばし顔に風を受けた。

 舟は相変わらず順調に進んでいる。

 そうしている間もパルは無言でオレを見るとはなしに見ている。随分不安そうな表情をしている。

 オレが引き受けなかったらどうするつもりなんだろう?

 それ以前に、オレを見つけなかったら誰がこの役をやったのだろうか?マーグかな?そう言えばヤツがオレに「大変だな」と声をかけてたっけ。

 まぁ、この辺は後でパルに聞いてみるか。


「一つ確認したいことがある」

「どうぞ」

「逮捕といっても、クーデターを起こそうなんて人間を捉えるのは容易ではない。善処はするが、もし()()()()()()()で竜騎士長を殺してしまった場合、罪に問われるのか?」

()()()ですが、そういう場合も()()()()でしょう。その場合は罪にはなりません。そこは私が守ることが出来ます。ご安心を」

 パルは一瞬も迷わず即答した。


「そう願いたい。監獄に永住なんてシャレにならないからな」

 オレは右手を差し出した。

 パルもその手を握る。

 契約成立だ。

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