竜騎士
ここからは込み入った話だからと、パルは外に出ることを提案した。
夕食時のピークは過ぎた時間だが、二番街のメインストリートはまだ、かなり賑わっている。
行き交う人々の多くは酒が入っており、王国首都の住民よりもゆとりがありそうに見える。
そう。店を出る時、オレは一つ勘違いをしていたこと気が付いた。
この街は、王国と使用している通貨が違う。金貨でも銀貨でもなく、紙幣という紙の券を授受していた。
ただの紙だが、それを全員が認めれば通貨になるという仕組みで、『信用通貨』というのだとパルが教えてくれたのだが、当時のオレには違和感しかなかった。
逆に言えば、この街ではそれが当たり前だから、マーグは金貨を当たり前に出したオレを怪しんだのだろう。
ともかく、オレが廃墟の街で帳簿の数字を見て重税だと感じたのだが、そもそも通貨が違ったのだ。
実際、行き交う人々の顔は圧政に苦しむそれではなかった。
そんな話をしながらオレ達は二番街を抜け、一番街に向かう。ここは役所等の公共施設があり、公務員宿舎もそこにあった。
パルに導かれるまま彼女の事務所兼住居がある施設に入り、簡単な館内案内を受けた。来客用の宿泊設備もあり、今晩はそこに泊めてくれるという。すれ違う職員らしき者達に礼儀正しく挨拶をされていることからも、パルはそれなりの地位にいることが伺えた。
「導師もここに住んでいるいるのか?」
応接室のソファに腰掛けると、思いのほか尻が沈む。オレはなるべく驚きを気取られないように足を組んで、くつろいだ素振りで言った。
「いる時もあるけど、しばらくは留守なんだ。統轄、第三王子と牧場で打ち合わせをしている」
パルはグラスに注いだ水をテーブルに置き、自分の分を注ぎながら答えた。
出された水には氷が入っていた。なんて贅沢な暮らしをしているんだろうと思ったが、やはり、平静を装ってオレは氷水に口をつけた。
潤いと冷たさが喉を伝っていく。
「牧場?」
「明日、案内するよ」
パルは、ここからが本題とばかりにテーブルに地図を広げた。
そして、二番街での話の続きを始めた。
第三王子と導師は互いの役割を尊重し、最初は上手くいっていた。
しかし、この地下要塞が形になるにつれて、意見が食い違うようになる。
いつまでも隠れ住むことは無い。王国に対して独立宣言をし、国としてのスタートを切ろうと言うのが第三王子の考え。それに対して、まだ時期尚早だというのが導師の考えだという。
二人は根気よく会談を重ねてはいるが、次第に周りがキナ臭くなってきた。
当人以上に、それぞれの派閥が対立するようになったのだ。
一番過激なのは、第三王子側の竜騎士長で、彼は『独立宣言だけでは生ぬるい。直近の王国都市を一つ落として威を示そう』という考えだという。
「竜騎士?ジャウード教徒はドラゴンまで使役できるのか?」
オレは聞いた。
「そんなこと出来たら迫害されないよ。竜騎士長が使役するのは元は蛇。進化の秘法で巨大化したんだ」
「しかし、そんなのを使役出来るということは、竜騎士長はジャウード教徒なのか?」
「そう。でも今は第三王子に心酔している。というより、今私たちが持ち始めている力に酔ってるのかもね」
パルのその言葉は、やや蔑意が感じられた。
「力か。逆に言えば、そんな力を持っているのか?王国と構えるぐらいの軍事力を?」
「私たちは、ほとんどが民間人だよ。でも、進化の秘法とジャウードの魔法を組み合わせれば、生物部隊を軍事利用できると。それを発案し、実験を進めているのが竜騎士長なんだ」
「ひょっとして、大鷲と巨大蟻に壊滅された砦は?!」
オレは目の当たりにした凄惨な光景を思い出した。
「あれは偶然・・・ということになっている。正直、真相は私にも分からない」
それを言う時のパルは、めずらしくオレの目を見なかった。




