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魚と魔法

 二番街は、あの少し臭う騎士の街とは別天地だ。

 もし地上から目隠しをして連れて盛られたら、ここが地下だとは気が付かないだろう。


 ここに来るまでの通路にも使われていた光るガラス玉が、家屋の中にはふんだんに使われており、昼のような明るさだ。ちなみに地下では明かりで時間が分からないせいか、至る所に時計がある。

 その時計が全て、僅かの狂いも無く同じ時間を指しているのが驚きだ。ここの時計職人は、どんな腕をしているのかと思う。ひょっとして、全部ドワーフの工房で作っているのだろうか?だとしたら、なんと贅沢な。


 通りの大衆食堂に入るだけで、次から次へと疑問が沸いて来る。しかし、夕食時の賑わった食堂でそんな質問を次々したら新参者丸出しだ。今は極力飲み込み、追々パルに聞くとしよう。

 しかし・・・


「これって、海の魚だよな?」

 目の前に出された料理に関しては、聞かずにいられなかった。

 30cmほどの魚が一匹丸々と塩焼きにしてある。干物ではない。生魚を焼いた料理だ。香辛料や香草も全く使っていない。魚にはさほど詳しい方では無いが、おそらくこれはシャビーという魚かその近種なのは分かる。漁獲量は多い大衆魚ではあるが痛みも早いので、内陸部では干物か、塩漬け、酢漬けでしかまずお目にかかれない。

 こんな山の中で、しかも地下都市で、この鮮度のシャビーが出てくるのは異様だ。


「これも魔法なのか?」

「ん?ああ、魔法と言えば魔法かもね。凍るギリギリの低温で輸送、保管するんだよ」

 最初、パルはオレの疑問の意味を理解していなかったが、気が付いたら詳細を説明してくれた。

「魔法と言えば?魔法と何か違うのか?」

「うーん」

 パルは一旦考えた。どう説明したら伝わるかを組み立てているんだ。彼女は基本的に丁寧に説明してくれる。真面目で親切なのだと最初は思ったが、これは技術者的な思考なのだと後で分かった。人に説明する場合でも、理屈が通らないことを言うのが嫌なんだそうだ。


「『一見、不思議な技術を魔法』と定義すれば魔法だね。ただ、この大陸で一般的に使われている黒魔法や白魔法とは少し原理が違うの。この魔法は導師が彼の国から持ち込んだものなんだ。そうだね・・・どちらかというと、あなたの身体強化魔法に近いかも」

「オレの?オレは魚を冷やすなんて出来ないぞ」

「そういう意味じゃないよ」

 パルは笑った。


「黒魔法や白魔法は、様々な神様の力を借りる技術でしょ。黒白というのは、交信する神様の得意不得意によって人間が分けた分類であり、根本的には同じ。でも貴方のは違う。神様の力は借りてないでしょ?どちらかというと自分の体の潜在能力や物理法則を上手く使う技術だと思うけど」

「良く分かったな。そんな感じだ」

 パルの観察眼に素直に驚く。オレの技術に興味を示したらしく、ここに移動するまでに色々質問されたのだが、それだけで概ね理解してしまったようだ。


「これもそう。物理法則。具体的にいうと、物が凍ったり融けたり気化したりするときに熱を発生したり、周囲から熱を奪う性質を使用してるんだよ。そういう冷却道具があるの」

「全然分からないが、凄いことだけは分かった」

 これ以上聞くと、おそらくパルは紙とペンを取り出しそうなので、オレはここで話題を切る。


 そろそろ本題に入りたい。

 道中も、店についてからも、パルは親しげに随分色々な話をして来たが、まだ本題の話は何もしてこなかった。最初は子供特有の無邪気さかと思ったが、多分オレを値踏みしているんだろうと途中で気づいた。

 見た目は15歳は超えていないような風貌だが、案外実年齢はもっと上なのかもしれない。


「で、そろそろ教えてくれないか」

 オレは単刀直入に聞いた。遠回しに言ってはくらかされても面倒だからな。


「オレは『秘書』として何をしたらいい?」

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